「具体的にどうするんですか?イッセイさん。」
でかくなった態度に腹を立てながら、
「ああ。まずはだな…。」
説明を始めた僕。
「…とりあえず彼女さんに会わせてくれないか?」
「えー。とっとと実行してくださいよ。」
「あのねー…。」
なんでこいつはこんなに態度がでかくなったんだ…?
「まずは顔合わせから!合コンもそうだろうが。」
「合コン経験ないです」
「えっ、ああ、そうなの。なんかごめん。」
「なんで謝るんスか、逆に傷つきます。」
てことは…彼女さんとは普通に出会って付き合ってたのか?
「彼女さんとはどうやって知り合ったんだい?」
「大学の講義でいつも一緒になる子だったんです。」
「へえ…。君から声をかけたの?」
「いえ、俺にそんな勇気ないですよ…。彼女がいつもお見かけしますね、って。それで段々話すようになって、自然な流れで付き合い始めたっていうか…。」
「あ、そう…。」
僕は、まず倉田が現役大学生であることに驚いた。
「どこの大学?」
「S美大です。」
「え、美大⁉︎君美大生なの⁉︎」
「悪いですか?」
「いや、悪くないけど。」
僕は彼のカバンを改めて見直した。
なるほど絵筆やパレット、スケッチブックが綺麗に詰められている。
「こんな素敵なもんの中に練炭なんか忍ばせやがって…。彼女に振られたくらいで。」
「くらいって何ですか、くらいって‼︎」
「はいはい、すみませんでした!」
僕はカバンから目を離し、彼の彼女の事を考えてみた。
話を聞く限りでは、倉田の彼女さんってそんなにすぐ心変わりするような女の子には思えないんだけど。
「写真見せて。」
「はい。」
携帯画面に表示された2人
仲睦まじく肩を寄せ合う写真。
デレデレした顔の倉田は置いといて、彼女さんに注目。
目鼻立ちのスッキリした、可愛らしい女の子だ。けばけばしくもなく、どちらかと言うと清楚な印象だ。
「ふーん…。結構可愛いじゃないか。」
「はあ、まあ…。」
「理由も言わずに人を振るような子には見えないぞ?話を聞いてても思ったんだけど。」
「事実振られてるんですから!」
倉田は頭を抱え、
「ああ…。イッセイさんに本当に彼女の事頼んじゃっていいのかなあ。なんか不安だ…。」
と、聞き捨てならない事をほざきやがった。
「何だと?君ね、さっきから思ってたんだけどそれが人に物を頼む態度か?しかも僕は君より年上だぞ!」
「え、幾つなんですか?」
「29」
「なあんだ、同じ20代じゃないですか。ギリギリですけど。」
「そういう問題じゃないだろ!」
あー、「同年代なんだからタメでいいでしょ」と「もう三十路ですね」の入り混じったような言い方しやがって…。大体三十路っていうけど、今30代って割と若いんだからな!
「で、話を戻すけど!彼女さん、名前なんていうの?」
「茜です。美鷹茜。」
「変わった苗字だね」
彼は頷いて、
「高校生の弟さんがいるそうです。前に一回会ったけど、素直そうな子でした。軽い茶髪だったけど」
と、少し笑った。
「俺にしっかり挨拶してくれたし、俺と茜が部屋で話してたらお茶とお菓子出してくれて。こんな子が自分の弟になると思うと…。」
「ちょっと待て倉田!」
「はい?」
「君…彼女との結婚まで視野に入れてたのか?」
彼は当たり前のような顔をして頷いた。
「何か問題でも?」
「あー…。彼女さんとも話し合ってた?」
「いえ、全く。」
「馬鹿か君は‼︎」
僕はまたも彼の頬を殴ったが、やはり腕は突き抜けて反対側に出た。
「何ですかいきなり。」
彼は全く反応せずに言った。
「普通そういうのは彼女と話してから考えるの!」
「いいじゃないですか妄想くらい!」
「そんな妄想するから振られた時のショックがでかいんだよ!大体本当は付き合ってるっていうのも妄想で、ストーカーやめてくださいバシッていう感じだったんじゃないの?」
僕はビンタのジェスチャーをしながら茶化すように言った。
「違いますよっ!イッセイさんも見たでしょ、俺と彼女の写真!いかにも仲良さげだったでしょ?」
倉田は、
「イッセイさんは恋した事がないからそんな事が言えるんだ。」
とそっぽを向いた。
「何を!僕だって恋くらいした事あるよ!生きてる時に。」
あ、そうだ。僕死んでたっけ。あまりに話が混み入りすぎて忘れてた。
「へぇー。」
あ、しまった!
「イッセイさんの事だから、どうせ片思いでしょうけど。こんな糸目男。」
「糸目糸目うるさいな!切れ長と言ってくれ。」
「切れ長と糸目は違いますよ。大分。」
ほんっと、二重瞼なのに糸目ってどういうことだろ、僕の目…。ってまた話が逸れた。
「そんな事はいいから。今は君の彼女さんの話をしよう。」
「ああ、そうでしたね。あ、彼女に会いたいなら明日の講義で会えると思いますよ。」
「え、本当?」
「はい。明日も講義あるので、ついてきてください。」
「よし、分かった。」
僕らは打ち合わせを終え、床についた。といっても僕は床に雑魚寝だが。
「…もうちょっとマシなとこ無いの?」
「無いです。黙ってさっさと寝てください。」
「…祟るぞ」
「祟ればいいじゃないですか」
くっそぉ。出来ないと分かってて言ってやがる…。
翌朝ー
「やっぱ夢じゃなかったんですね、イッセイさんの存在。いっそ夢でよかったのに。」
「朝から口が達者だな、倉田。」
挨拶もせずに憎まれ口を叩く倉田。
「ちょっと顔がいいからって調子に乗ってるんじゃないのか?」
「少なくともイッセイさんよりはマシです。」
「…呪うぞ」
「呪えばいいじゃないですか」
あー、僕はなんでこんな奴のお守りしてるんだああ‼︎
「さっさと支度しといて下さいね、早めに出ますから。」
「へーへー分かっとりやすよ倉田君!」
支度といっても少し襟元を直すだけで済む。幽霊ってのは死んだときのまま時間が止まってるから、髭も伸びないし着替えも必要ない。ちなみに僕は髭薄い方だし、服装もつなぎに着替える前のワイシャツとズボンだ。姿も整っている(原型を留めている)し、これは幽霊としては非常に恵まれた境遇だ。
「準備できました?」
「ああ。君は?」
「とっくのとんまに出来てます。イッセイさんが出来てるなら行きましょうか。」
いちいち癪に障る言い方をするな、倉田…。まあ今に始まった話じゃないが。てか昨日の夜会ったばっかだぞ。
僕は不本意ながらも彼にくっついて、彼の通う美大へと出発した。
作者蘇王 猛
三浦一成シリーズ第二弾です。オカ研が書き上がるまでの場を繋ぐシリーズです。今回も怖い要素がありません。ごめんなさい。ですが、次回から少し怖い要素が入ってくるかと思われます。どうか暖かい目で見守ってください。