「やぁ。また、来てくれたね。」
彼は優しく微笑む。何処か懐かしい笑顔だ。
「あの曲、連弾曲じゃ、無いですよ。楽譜も見つかりませんでしたし。
私は返事として不満をぶつける。だいたい、あの曲は私の祖父が作曲した物だ。
「でも、何故・・・」
「あんなにぴったりと合っていたか?それは作曲した人と一緒に作った、オリジナルの連弾譜だからだよ。」
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「優しい方だった。僕がふざけて作ったフレーズを、面白がって楽譜にしてしまったんだ。それが、この曲だよ。でも」
そして、彼は続ける。
「生憎、こんな事になってしまってね、あの人は大層悲しんで、この譜面を発表しなかったんだ。」
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「さぁ、弾こう。 時間がなくなってしまう」
強引に私を座らせ、彼も隣に座る。
ふわり、と懐かしい香りが漂う。
「あなたは誰なんですか」
思わず、質問する。
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「さてね。ただ、君は、僕のことを知っていると思うよ。
その表情は何処か悲しそうで、崩れてしましそうで。
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チャイムが鳴った。
「また、明日。早くしないと授業に遅れてしまうよ。」
すぅ。と消えてしまった。
教室へ歩きながら、そうか。と思い出す。
楽譜を書くインクの匂い。
懐かしい、インクの匂いだった。
作者Kosaku.tt
二話にあたるものです。一話も見て頂けると、よく解ると思います。