僕にはとても優しい兄がいます。
小さい頃から僕の世話をしてくれて、文句一つ言わない、自慢できる人。
ある日のこと。
部屋のドアの前を通る足音で、夜中にふと目を覚ましました。
ちょうどお手洗いにいきたかったので、一階のトイレまで行くと、先客がいるようでドアが開きませんでした。
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「ねえ、誰か入ってるの?」
声をかけてみても、返事はいっこうに来ません。
しょうがないので、五分ほどドアの前で待っていると兄が出て来ました。
しかし、様子がおかしい。
目はうつろで腕はダランと下がっている。
兄はそのまま階段を登っていき、そのあと扉を閉める音が聞こえました。
そのとき僕は、「まあ、兄も何か疲れることがあったんだろう。明日声をかけてみよう」
と思い、そのまま用を足して寝ました。
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次の日
「お兄ちゃん、昨日夜中に起きてたけど、何か疲れることでもあった?」
何気ない素振りできいてみます。
兄は
「いや、何もないよ?てか、昨日はぐっすり眠ってたから起きてない。」
というのです。
いや、昨日見たのは確かに兄だったし、何もなかった訳がない。
危険因子は早めにとっておいた方がいいと思った僕は、少し問い詰めることにしました。
「昨日の夜中、お兄ちゃんを見たんだ。
目がうつろでなんか変だったから、何があったのかなと思ってさ」
「ええ〜?思い当たらないなぁ…」
「とにかく、何かあってからじゃ遅いんだから、変なことがあったらいつでもいってね?」
「ああ。そうするよ」
あくまで取り敢えずの宣告をさせて、その日は終わりました。
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その日の夜。
僕は、昨日よりもすこし激しい足音で夢から覚めました。
昨日今日とこんな時間に起こされ、すこし不機嫌になりましたが、注意しておこうと布団を出ました。
一階に行くと、リビングにフラフラと動く影を見つけたので見にいくと、昨日と同じでそこには兄がいたのです。
増しておかしいと思ったのは、彼は鏡に映る自分に向かってぶつぶつと聞き取れない言葉を喋っていることでした。
「おにいちゃん!!!」
異様な光景に耐えられなくなり、大きな声を上げてしまいました。
兄はゆっくりとこちらを振り返り、ニタァと笑いながら僕の横を通り過ぎていきました。
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おかしい。
絶対に普通じゃない!
次の日の夕食が終わってから、僕は兄の部屋へ向かいました。
「おお、入れはいれ!」
と気の良くいれてくれた兄に、僕は本題を話しました。
「って事があったから、一度病院に行った方が良いと思うんだけど…」
「ええー…それだけで病院に行かなきゃいけないのか?」
「だって、お兄ちゃんは鏡みながら微笑むナルシストじゃ無かったじゃん!」
「だーかーら、俺は全然思い当たる事がないわけ。自分の事は自分が一番わかってるんだから、その時は俺から病院に行くよ」
「…まあ、それならいいよ」
結局、話は灰色のまま終わりました。
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その日の夜から、何日も続いて兄が家を徘徊するようになりました。
兄には原因不明の傷跡が沢山できて、体調もすぐれないからと会社も休むようになりました。
僕は夜中に起きることはなくなったので、徘徊が原因だとは思わなかったのですが…
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ある夜、珍しく僕は夜中に起きました。
兄があの夜のように徘徊していないかと気になった僕は、忍び足で一階へおりました。
リビングへいくと、あの時と同じで、兄が鏡の前に立っているのが見えます。
今にも死にそうな青い顔で鏡に何かを訴えている…。
すると兄は、足物から何かを持ち上げました。
ギラリと光る青い刃……
包丁です。
兄はそれを自らの腹に突きつけると、
「あははははは!!!!!!うえーい!!!!!!」
奇声を上げながら、肉にグサグサとさしました。
血が鏡に大量に飛び散り、兄の立っているところは肉の破片のような物が散乱しています。
「やめろおお!!!!」
僕は兄を必死で抑えて、手に持っている刃物を遠くへ投げ飛ばし、兄に馬乗りになりました。
しばらくすると、兄はおとなしくなり、冷たくなり始めていました
僕は兄が死んでしまったと思い、すぐに救急車を呼び、両親を叩き起こして事のすべてを話しました。
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兄は、今では精神病院で休養を取り、リハビリを続けています。
あの時の鏡は……もう捨てました。
家族には、もう古くなったし、お疲れ様という事で、お坊さんに供養してもらおうと説明しました。
兄は夢遊病と診断されました。
お見舞いに行くと、兄は決まって必ず
「俺がもう一人いる」
と言いますので、すこし頭のネジが緩んでいるように感じます。
何が兄を狂わせてしまったのか…僕にはわかりません。
でも、あの時の兄の狂ったような笑顔を、僕は十年経った今でも忘れる事ができないのです。
作者退会会員
創作のお兄ちゃんネタです。
書き方もすこし慣れて来ました。
次回作もぜひ読んでやってください!
ではm(._.)m