これは友人Aから聞かされた体験談。
Aは彼女を連れて山梨県へ車で旅行に行った。
少し出発が遅れてしまい、山梨に入った頃には昼の三時を過ぎていた。
色々と巡る予定だったが時間的に厳しかったので富士山だけ行こうと言う事になった。
富士山の五合目まで車で登って絶景を眺めている内に日が暮れ始めた。
富士山を降りる頃には日も暮れて辺りは闇に包まれていた。
予約していた宿に向かう事にした。
彼女は疲れていたのかいつの間にか助手席で寝息を立てていた。
早く宿に行って布団で休ませてあげようと車を急がせた。
車で宿に向かう途中…
あの自殺で有名な青木ヶ原の樹海を横断する道路を走ったのだと言う。
もちろん、意図してそこを通ろうとしたのでは無く、ナビがその道を示していたのだ。
彼女が起きていたらきっと回り道をさせてでも止めたのだろうが…
Aはそういう事に無頓着だったので「ああ、ここが自殺で有名な」と思いつつも車を走らせた。
車も人もまったく通っていない…
ただひたすら樹海の闇に沿うように伸びた道。
途中、左手に民家らしき家が見えた。
それを少し過ぎた頃だろうか…。
前方に信号が見えた。
その信号は赤を示していた。
Aは信号の手前で車を停めて青になるのを待った。
三分ほど待ったが信号は青にならない。
こんな車も人通りも無い道で長すぎるんじゃないか?
Aは少しイライラしてきた。
Aも疲れていたのだろう。
本来ならもっと早く疑問に思うべき事に今更気付いた。
ここは一本道で横断歩道も無い。
何故、こんなところに信号が…?
工事用の信号機かとも思ったが位置が高すぎる。
Aは視力があまり良くなかった。
目を細めて信号と思っていたその光をじっくりと見た。
今まで信号の赤だと思っていたその光…
その光は何も無い空間に浮いているように見えた。
あれは信号じゃないよな…。
Aはやっとその事に気付いた。
街灯の灯りだとしてもあんなに赤いのはおかしい。
その光が何なのかまったく見当も付かなかった。
しかし、その時点では別に怖くは無かったと言う。
信号じゃ無いなら停まっている意味も無い。
そう思い、車を発進させようとした。
と、その時。
「待って!!」
隣で寝息を立てていたはずの彼女が大声で叫んだ。
いつ起きたのか、まったく気が付かなかった。
続けざまに彼女はこう言った。
「横断してるの!」
「横断って、何が?」
とAが訊こうとした矢先…
その言葉を遮るように彼女は叫んだ。
「乗ってきたー!乗ってきたー!乗ってきたー!」
彼女はガタガタ震えながら同じ言葉を連呼した。
「乗ってきたー!乗ってきたー!乗ってきたー!」
鈍感なAも流石に怖くなってきた。
車を少しバックさせて狭い道を無理やりUターンして来た道を戻った。
車を走らせながら助手席を見ると、彼女は放心状態で何も無い天井の一点を見つめている。
口を半開きにして魚のようにパクパクと動かしている。
只事では無い事だけは分かった。
その後、途中の駐車場で車を停めた。
そこで意識の戻った彼女は帰ると言い出し、ついには喧嘩になってしまった。
収集も付かず、そのまま駅まで彼女を送ってサヨナラしたのだと言う。
それが切っ掛けで彼女とは別れてしまった。
後日、彼女とは電話でちゃんと別れを告げた。
最後に彼女からこう言われた。
「まだ乗ってるよ。」
その出来事以来、車の加速が落ちたように感じるのだと言う。
しかし、Aは今でもその車に乗っている。
悪い事が起きなければいいのだが…。
もし続きがあればまたここで紹介しようと思う。
これは友人Aから聞かされた体験談。
Aは彼女を連れて山梨県へ車で旅行に行った。
少し出発が遅れてしまい、山梨に入った頃には昼の三時を過ぎていた。
色々と巡る予定だったが時間的に厳しかったので富士山だけ行こうと言う事になった。
富士山の五合目まで車で登って絶景を眺めている内に日が暮れ始めた。
富士山を降りる頃には日も暮れて辺りは闇に包まれていた。
予約していた宿に向かう事にした。
彼女は疲れていたのかいつの間にか助手席で寝息を立てていた。
早く宿に行って布団で休ませてあげようと車を急がせた。
車で宿に向かう途中…
あの自殺で有名な青木ヶ原の樹海を横断する道路を走ったのだと言う。
もちろん、意図してそこを通ろうとしたのでは無く、ナビがその道を示していたのだ。
彼女が起きていたらきっと回り道をさせてでも止めたのだろうが…
Aはそういう事に無頓着だったので「ああ、ここが自殺で有名な」と思いつつも車を走らせた。
車も人もまったく通っていない…
ただひたすら樹海の闇に沿うように伸びた道。
途中、左手に民家らしき家が見えた。
それを少し過ぎた頃だろうか…。
前方に信号が見えた。
その信号は赤を示していた。
Aは信号の手前で車を停めて青になるのを待った。
三分ほど待ったが信号は青にならない。
こんな車も人通りも無い道で長すぎるんじゃないか?
Aは少しイライラしてきた。
Aも疲れていたのだろう。
本来ならもっと早く疑問に思うべき事に今更気付いた。
ここは一本道で横断歩道も無い。
何故、こんなところに信号が…?
工事用の信号機かとも思ったが位置が高すぎる。
Aは視力があまり良くなかった。
目を細めて信号と思っていたその光をじっくりと見た。
今まで信号の赤だと思っていたその光…
その光は何も無い空間に浮いているように見えた。
あれは信号じゃないよな…。
Aはやっとその事に気付いた。
街灯の灯りだとしてもあんなに赤いのはおかしい。
その光が何なのかまったく見当も付かなかった。
しかし、その時点では別に怖くは無かったと言う。
信号じゃ無いなら停まっている意味も無い。
そう思い、車を発進させようとした。
と、その時。
「待って!!」
隣で寝息を立てていたはずの彼女が大声で叫んだ。
いつ起きたのか、まったく気が付かなかった。
続けざまに彼女はこう言った。
「横断してるの!」
「横断って、何が?」
とAが訊こうとした矢先…
その言葉を遮るように彼女は叫んだ。
「乗ってきたー!乗ってきたー!乗ってきたー!」
彼女はガタガタ震えながら同じ言葉を連呼した。
「乗ってきたー!乗ってきたー!乗ってきたー!」
鈍感なAも流石に怖くなってきた。
車を少しバックさせて狭い道を無理やりUターンして来た道を戻った。
車を走らせながら助手席を見ると、彼女は放心状態で何も無い天井の一点を見つめている。
口を半開きにして魚のようにパクパクと動かしている。
只事では無い事だけは分かった。
その後、途中の駐車場で車を停めた。
そこで意識の戻った彼女は帰ると言い出し、ついには喧嘩になってしまった。
収集も付かず、そのまま駅まで彼女を送ってサヨナラしたのだと言う。
それが切っ掛けで彼女とは別れてしまった。
後日、彼女とは電話でちゃんと別れを告げた。
最後に彼女からこう言われた。
「まだ乗ってるよ。」
その出来事以来、車の加速が落ちたように感じるのだと言う。
しかし、Aは今でもその車に乗っている。
悪い事が起きなければいいのだが…。
作者退会会員