月曜日の午後、鈴木は学校の屋上で自分の霊能力の事で思い悩んでいた。それは昨日体験した心霊事件の後に佐藤からこう言われたからだ。
《日曜日》
佐藤「君は授かったその力をもっと伸ばすべきだよ。そうすれば今後の君にとってもきっと役立つ筈だから。」
鈴木「でも、僕にはどうすればいいか分からないよ。一体どうすればいいの?」
佐藤「そうだね…取り合えず経験を積むことだよ。除霊とかに関しては感覚で覚えるしかないからね。」
《現在》
鈴木「って言われてもな。一体どうすればいいんだろう?」
鈴木は佐藤に言われた事を思い出しながら考えていた。
鈴木「う~ん。佐藤君の様に除霊したり霊視したりするには感覚で覚えないと駄目、か…だけどその為にはどうすればいいか…。」
鈴木が考えていると不意にパトカーのサイレンが聞こえてきた。気になった鈴木は考えるのを中断し、立ち上がってその場から下を見下ろした。すると数台のパトカーが走行しているのが見えた。
鈴木「何かあったのかな?」
そう考えながら見ているとパトカーは止まった。なんとそこは学校の前だった。
鈴木「何でパトカーがここに!?」
驚きながら止まったパトカーを見ていると、やがてその中から数人の警官が降りてきて校門を封鎖し始めた。これを見ると鈴木は急いで屋上から下へ向かう。
《一階》
鈴木が一階に降りてみると職員室前に大勢の生徒や教員がごった返していた。鈴木はその中を掻き分け、職員室を見てみた。するとそこには一人の男が天井からロープで吊るされていた。それを見た鈴木はあまりの事に驚いて後退りする。
鈴木「首吊りは昨日見たばっかなのに…」
鈴木はそう思いながらその場を離れようとしたが、後ろから肩を叩かれた。振り返ってみるとそこには勤がいて、更にその後ろには佐藤と理子がいた。
勤「一体何があったんだ?」
鈴木は職員室で見た事を佐藤達に話したが、教員達によって他の生徒と一緒に教室に戻されてしまった。
勤「ちぇっ、戻されちまった。」
理子「仕方ないよ。職員室で人が死んでるんだから。」
勤は教室に戻された事で怒りを露にしていたが、理子に宥められてその怒りを鎮める。
勤「それでお前は死んでるのが誰なのか分からなかったのか?」
怒りを鎮めた勤は気を取り直して職員室を実際に見た鈴木に質問をする。
鈴木「うん、分からない。顔は見たけど見たことのない顔だったし、僕…一昨日転校してきたばかりだから。」
鈴木の話を聞いていた勤は不意にある事に気がついた。
勤「あれ?佐藤は?」
そう、先程まで一緒だった佐藤がいないのだ。勤は教室を見渡してみたが職員室で起こった事について話している生徒達がいるだけで、佐藤の姿はどこにもなかった。
理子「一体何処に行ったのかしら?」
鈴木「トイレかな?」
その頃佐藤は一階の職員室にいた。そこにいたのは職員室で起こった事件が気になったからである。勿論通常は行っても追い返されるだけだが、佐藤はある人物に会えると思ってここへやって来たのだ。
佐藤が職員室の前にいると、やがて職員室から一人の刑事が出てきた。その刑事こそ、佐藤が会えると思っていた人物だ。
佐藤「石田さん!」
石田「あれ?渉君じゃないか!どうしてここに!?」
そう、それは佐藤の知り合いで警視庁刑事部捜査第一課の石田刑事だった。佐藤は彼ならここへ来ていると思ってやって来たのだ。
佐藤「ここが僕の通ってる学校なんです。」
石田「そうだったのか。でもまさかここが君の学校だったとは…今回の事は驚いたろ?」
佐藤「ええ、まあ。」
その後石田刑事は生徒達に事情聴取をするために佐藤と共に二階へ向かった。その途中、佐藤は石田刑事に職員室で起こった事件について聞いてみた。
本来なら部外者に捜査情報をむやみに教えるのは駄目だが、佐藤にはすっかり世話になっているし、佐藤はこの学校の生徒であると言うことで石田刑事は事件の情報を詳しく話す事にした。
石田「亡くなったのは橘勝己(たちばなかつき)さん・35歳。この学校の警備員さんで死因は首吊りによる窒息死だったよ。」
佐藤「警備員さんだったんですか。」
現場が職員室なので亡くなったのは教員だと思っていた佐藤にとってその事実は意外だった。
石田「ああ、この学校の教職員の方々に確認したらそうだって。ちなみに死亡推定時刻はまだ判明していないけど、第一発見者の先生によれば発見したのは今から十五分前の昼休みの時らしいよ。」
石田刑事は手帳を見ながら佐藤に話しているので、情報は確かである。
佐藤「いつ職員室で首を吊ったのかは分からないんですか?」
石田「いや、まだ正確には判明していないけど少なくとも四時限目が始まってから昼休みが始まるまでにかけての間の時間と思われるよ。死亡推定時刻も今回の件が自殺ならそれぐらいの時間じゃないかな。」
佐藤「その時間帯が死亡推定時刻かもしれないというのは確かなんですか?」
石田「ああ、四時限目が始まるまでは確かに被害者はいなかったらしいから。それに四時限目の授業が行われた時には全ての先生が授業に出ていたらしいし、間違いないと思うよ。」
それを聞いた佐藤は納得した様だった。
石田「じゃあもういいかな?」
佐藤「あっ、すみません。最後に一つだけ。」
佐藤は思い出した様に聞いた。
石田「なんだい?」
佐藤「第一発見者の先生って誰ですか?」
石田「ああ、二年B組担任の立石先生だよ」
佐藤はその教師の事は知っていた。と言うのもその教師は佐藤のクラスで数学の授業を担当しているからだ。特徴は茶髪に眼鏡を掛けた三十代半ばの男性教師である。
佐藤「とても参考になりました、ありがとうございました。」
石田「じゃあ今度はこちらが質問してもいいかな?」
佐藤が礼を言うと今度は石田刑事が佐藤に質問してきた。
佐藤「何でしょう?」
佐藤が尋ねると石田刑事は手帳を開いてペンを構えた。
石田「君は被害者が亡くなった頃はどこで何を?」
佐藤はアリバイを聞かれていると悟りながら質問に答える。
佐藤「その時は教室で四時限目の授業を受けていました。その事はクラスの皆が証言してくれると思います。」
石田「フム、なるほど。所で君は今回の事件は自殺だと思うかな?」
佐藤「現場や死体を直接見てないので詳しくは分からないので、まだ何とも言えません。」
石田「そうか…色々ありがとう。じゃあ私は二年A組の方から事情聴取に行くからこれで」
石田刑事はそう言うとA組の教室の方へ行った。そしてそれを見送った佐藤も自分のクラスへ向かう為に歩き出した。
教室に戻ると生徒達は職員室で起こった事件についての話をしていて騒がしかった。更に佐藤が自分の席に向かうと勤達が佐藤に気づいて話しかけてきた。
勤「あっ、佐藤!」
理子「何処に行ってたの?」
佐藤「ああ、ゴメン。実は…」
佐藤は勤と理子に石田刑事から聞いた事件の情報を話した。
勤「へー、亡くなったのって警備員だったんだ。それは俺も意外だったな。」
勤は亡くなったのが警備員だと知ると、佐藤と同じくその事実が意外だという反応をしていた。
理子「でも良かったね、知り合いの刑事さんが来てて。」
三人で話していると、近くで話を聞いていた鈴木がやって来て話に加わった
鈴木「佐藤君って警察にも知り合いがいるの?」
佐藤「ああ、俺のじいちゃんの昔の相談者だから。」
鈴木は佐藤に警察にも知り合いがいると言うことに驚いていたが、その知り合いの刑事に霊感があると言うことを聞くと更に驚いていた。
鈴木「そっか、その刑事さん霊媒体質なんだ。」
佐藤「うん、少し霊感が強いからだろうね。まあ、そのお陰で今の仕事に役立てているからいいけど。」
しばらくの間四人で話していると教室のドアが開き、石田刑事が担任教師と共に入ってきた。
佐藤「あっ、石田さんだ!どうやらここにも事情聴取に来たようだね。」
鈴木「へー、あの人が佐藤君の知り合いで霊媒体質の刑事さんか。」
石田刑事は教卓に立つと生徒達に向かって大きな声で話し始めた。
石田「えー、私は警視庁捜査一課の石田です。もう皆さん御存知の通り、一階の職員室で事件が発生しました。詳しくはお教え出来ませんが、現段階の所自殺と思われます。そこで念のために皆さんにお聞きしますが、被害者が亡くなったと思われる時刻である四時限目、皆さんはここで授業を受けていましたか?」
石田刑事の質問に生徒達は全員首を縦に振った。それを見た石田刑事は納得して最後に「何か分かり次第、直ぐに警察へ連絡して下さい。」と告げて教室を出ていった。
その後佐藤達は担任に言われて帰宅する事になり、明日からしばらくの間学校は警察の捜査の為に休校とされた。
佐藤達が帰り際に職員室を見ると立ち入り禁止と書かれた黄色いテープが張られていて、警官が二人立っていた。それを見た四人は改めて事件があったことを実感した。ちなみに帰りは裏口から出る事になっていた。
と言うのも、表の校門の所には事件の事を嗅ぎ付けたマスコミが殺到しているためである。なのでその事もこの学校で実際に事件があったことを実感させられた。
勤「あーあ、明日から部活には出られないのか。」
裏口から出た後に勤がため息混じりに言った。
理子「いいんじゃない?どうせやることないんだし。」
勤「でも家にいても暇だぜ、学年末試験も終わったから。」
一方の佐藤はこの二人とは違って事件の事を考えていた。
佐藤「自殺か…確かに現場や死体を直接見てないから話を聞いただけじゃ自殺かも知れないけど。でもなんか気になるんだよな、俺にもよくわからないけど。せめて霊視できればな…」
佐藤が色々考えていると不意に鈴木が声を掛けてきた。
鈴木「ちょっといい?」
佐藤「ん?何?」
佐藤はハッとして鈴木の方を向く。
鈴木「昨日佐藤君言ったよね?霊能力を伸ばすには経験を積む事だって。」
佐藤「ああ、それか。うん…そうだよ。」
鈴木「じゃあ、学校で起こった事件の事を調べるなら僕にも協力させて!」
鈴木にそう言われ、佐藤は了承する。そして二人で今回の事件を詳しく調査する事にした。
佐藤「まずその為にはやはり霊視する必要があるね。現場か死体のどちらかを」
鈴木「僕、昨夜心霊関係の本を読んで知ったんだけど遠隔霊視って言うのがある様だけど使えないかな?」
佐藤はそこで初めてその事に気が付く。
佐藤「それだ!その手があった!!よし、早速霊視しよう!」
勤「よし、それなら今から佐藤ん家に行こうぜ!」
いつの間にか勤と理子も二人の会話に参加していたが、佐藤はそれには敢えて触れずにその意見に賛成した。
《佐藤家》
ー二階ー
勤「今日も佐藤のお袋さんとじいさんいないんだな。」
佐藤「ああ、昨日から二人とも他県に出張中だから。」
ジュースを運びながら答える佐藤。
鈴木「お父さんは?」
佐藤「ああ、父さんなら海外出張中。但し霊相談の為じゃなくて普通に会社の仕事で。」
鈴木の質問に答えながら運んできたジュースを皆に配ると佐藤も腰を下ろす。
佐藤「じゃあ早速遠隔霊視を開始するよ。」
鈴木「うん!」
鈴木は初めての霊視に緊張しているようだ。
佐藤「それじゃあ今から説明するから僕の言う通りにやってね。まずは目を瞑って意識を集中する。」
そう言いながら佐藤が目を瞑ったので鈴木も同じことをする。
佐藤「後はそのまま頭の中で霊視したい場所である職員室をイメージする。」
そう言って佐藤が静かになると鈴木も同じことを試みた。中々上手くいかなかった鈴木だが、しばらく経つと見事に成功した。
鈴木「すごい!学校が見える!!」
佐藤「これが遠隔霊視だよ。分かった?」
鈴木「うん、分かったよ!」
鈴木は興奮しながら答える。
鈴木「でもなんだかこれって幽体離脱にも似てるけど。」
佐藤「そう。これは幽体離脱でもあるんだよ。霊視って言うのは自分の幽体を飛ばして見るから霊視って言うんだよ。」
鈴木「へー、そうなんだ。」
鈴木は佐藤の説明を聞きながらすっかり感心している。
《一階》
ー職員室ー
職員室ではまだ数人の警察官が現場検証をしていた。
佐藤「やっぱりまだ警察はいたか。でも霊視だから大丈夫っと。」
そう言いながら佐藤は天井から吊るされたロープをじっと見つめる。
鈴木「よし、僕も。」
鈴木も同じくロープを見つめていると亡くなった被害者が見えてきた。
鈴木「佐藤君、首を吊っている人が見えるんだけど。」
佐藤「僕にも見えてるよ。これは亡くなった人の霊体だよ。」
そう言うと佐藤は鈴木の方を向いた。
佐藤「じゃあ、まずは君から彼に話し掛けてみて。」
鈴木「えっ、でもどうすれば…」
佐藤「ただ話し掛ければいいだけだよ、さあやってみて。」
佐藤に促されると鈴木は思いきって被害者の橘に話し掛けてみた。
鈴木「あのー、橘さん。」
鈴木が話し掛けると橘は顔を上げて鈴木の方を向いた。
橘「何でしょう?」
鈴木は驚くと同時に成功した事を喜んでいたが、直ぐに橘に質問をした。
鈴木「橘さん、あなたは何故自殺したんですか?」
橘は鈴木の質問に対して急に腹を立てて大声で怒鳴り付けた。
橘「俺は自殺じゃねぇ!何で俺が自殺なんかしなきゃならねえんだよ!!」
鈴木は突然の言動に圧倒されてしまう。それを見かねた佐藤は鈴木に遠隔霊視を中止すると言ってきた。
佐藤「彼は錯乱していて話ができる状態じゃない、ここは一旦自分の体に戻ろう!」
鈴木はやむ無くそれを了承して佐藤と共に自らの体へ戻った。
《佐藤家》
ー二階ー
佐藤「ふぅ、戻れた。」
鈴木「疲れたぁー。」
佐藤「霊視って言うのは結構体力を使うから凄く疲れるんだよ。だから僕も滅多に使わないんだ。」
鈴木「そうなんだ。」
二人で話していると勤が声を掛けてきた。
勤「霊視の結果はどうだった!?」
勤が早速霊視結果を尋ねてきたので佐藤はその結果を報告する。
佐藤「残念ながら分かったのは自殺じゃないって事ぐらいだよ。それ以上の事は詳しく分からなかった。」
勤「そうか。」
その後勤達は帰っていき、佐藤はジュースの後片付けをしながら事件の事を考えていた。
佐藤「やっぱり自殺じゃなかった。でもそれなら殺人になるけど誰に殺されたんだ?被害者が亡くなったと思われる時間に生徒達は全員授業を受けていたし、先生達もそれぞれの授業に出ていた筈だし…」
佐藤はこの事件を自殺ではなく殺人と断定して色々考えていたが、犯人までは分からなかった。
佐藤「ここはやっぱり石田さんに聞いてみるか。」
そこで佐藤は携帯電話を開いて石田刑事の携帯に電話を掛ける。
佐藤「もしもし。突然すいません、佐藤です。」
石田「おお、渉君か。どうしたんだい?」
佐藤は石田刑事に学校の全ての生徒達と教職員のアリバイを聞いてみた。すると石田刑事は詳しく話してくれた。
石田「まず生徒達なんだが、死亡推定時刻にどの学年の生徒達も授業を受けていたらしいよ。各教科担当の先生方にも確認したら教室を途中で出た生徒もいなかったらしいから生徒達のアリバイは完璧だよ。ただ、教職員に関しては校長先生と副校長先生だけがアリバイは無いらしいんだ。」
佐藤「まあ、校長先生も副校長先生もクラスを受け持っていないから仕方ないですね。」
石田「そうそう、念のために被害者と同じ警備員の人達にも聞いてみたけど四人共アリバイは無いらしいよ。」
そこまで聞いて佐藤は教職員二人と警備員四人の計六人が事件の容疑者であって、その中に犯人がいると考えた。そこで佐藤は石田刑事に先程の霊視結果を報告した。
石田「えっ、自殺じゃなく殺人!?」
石田刑事は佐藤の霊視結果に驚いていた。
石田「まあ…確かに死亡推定時刻にアリバイがなかった例の六人なら犯行は可能だろうけど。」
石田刑事は少々腑に落ちない感じであったが殺人の可能性もあると判断した。そしてその線で捜査に当たると言ってくれたので佐藤は礼を述べて電話を切る。
佐藤「よし、これで警察も動いてくれる。」
電話を切ると佐藤はベッドに横になって誰が犯人なのかを考えてみた。
佐藤「教職員でアリバイがないのは校長先生と副校長先生だけか…でも校長先生はもう歳だし、副校長先生は両足を骨折して今は車椅子に乗ってるからあの二人に被害者を首吊り自殺に見せかけて殺すのは無理だな。…となると、残るは警備員四人か。でも警備員は年齢とかが分からないからなんとも言えないな」
佐藤は警備員四人の中に犯人がいると踏んで色々考えていたが、結局何も浮かばなかった。
佐藤「被害者の霊が教えてくれたら犯人は分かるんだけどな。でも被害者の霊があそこまで錯乱状態だと何も聞けないし…」
困り果てた佐藤は参考として警備員の年齢等を詳しく聞くために石田刑事に連絡を取るが繋がらなかった。
佐藤「出ないな…電池切れ?それとも気が付かないのかな?」
佐藤は諦めて電話を切り、後でもう一度石田刑事に連絡を取る事にして再びベッドに横になる。
一方、鈴木は自宅で霊視を試みていた。
鈴木「……駄目だ、集中できない。凄い疲れる…。」
鈴木はもう一度橘の霊に話し掛けようと霊視を試みたのだが成功しなかった。
鈴木「そういえば佐藤君が言ってたな、霊視は体力を使うから凄い疲れるって。でもまさかこれほどとは。」
鈴木は疲れはててすっかり参ってしまった。
鈴木「ハア…僕の力はこの程度か…」
鈴木は自らの霊能力の低さに嘆いていたが、あることを思い付いた。
鈴木「…待てよ。そうだ!その手があった!」
鈴木は何かを思い付くと即座に家を飛び出して学校へ向かった。
ー学校ー
鈴木「よし、着いた。」
鈴木が学校に着くと辺りは暗くなっており、警察のパトカーが学校の前にまだ止まっていた。
鈴木は裏口へ回るとそこから中に入って職員室に向かう。
職員室の前にはやはり警官が立っていたので鈴木は近くの陰に隠れる。
鈴木「よし、ここならできる筈だ。」
そこで鈴木は再び霊視をやってみた。
ちなみに鈴木の思い付いた事とは現場のすぐ近くで霊視してみることだった。そうすれば遠隔による疲れも半減するだろうと考えたからだ。
そして鈴木が霊視を試みると見事に成功して鈴木の幽体は職員室へ向かった。そこで天井を見上げるとやはり橘の霊がロープで吊るされていた。
鈴木は彼に早速話し掛けてみる。
鈴木「橘さん、質問したい事があるんですが。」
橘「……何だ?」
鈴木は橘の機嫌がさっきと比べていくらか落ち着いているので安心して質問をした。
鈴木「ではお聞きしますが、あなたを自殺に見せかけて殺害したのは誰ですか?」
鈴木が尋ねると橘は鈴木の目をじっと見つめてきた。すると鈴木の目にある光景が飛び込んできた。
それは警備員の服装をした男が天井にロープを吊るしている映像だ。それを見ていた鈴木はこれを被害者が生前に見ていた物だと直感した。
鈴木「もしかして、今の男があなたを殺した犯人ですか?」
橘「そうだ。奴はここで警備員をしている俺の同僚だ。奴が俺を自殺に見せかけて殺したんだ!」
鈴木は橘の話を聞いていて驚いてしまっていた。
鈴木「でもどうして仲間があなたを?」
橘「それは俺が奴の弱みを握っているからだ。」
鈴木「弱み?」
鈴木が質問すると橘はそれについて詳しく話し出した。
橘「事の始まりは今から数日前。その日の夜、俺は学校を巡回していた。そして一階を巡回していた時、俺は妙な音を聞いたんだ。」
鈴木「妙な音?」
橘「その音は職員室から聞こえていたんだ。気になった俺は懐中電灯で照らしてみた。そしたら俺を殺した奴が金庫をこじ開けようとしていたんだ! 」
鈴木「ええっ!?」
橘が言った事に鈴木は驚いてしまっていた。
鈴木「じゃあ、まさかあなたはそれを見た事がきっかけで口封じに…?」
鈴木が恐る恐る質問すると橘はそうだと答える。
鈴木「で、あなたを殺した警備員の名前は?」
鈴木が更に質問すると橘は「お前に言ってなんになる?知りたければ自分で調べろ!」と言って心を閉ざしてしまう。
鈴木はこれ以上聞くのは無理だと思って霊視を止める。
鈴木「これは大変な事だ…直ぐに佐藤君に知らせないと!」
鈴木は大慌てで学校を飛び出し、佐藤の家に向かった。
その頃、佐藤は石田刑事に再び連絡を取り、自分の意見を伝えていた。
石田「成る程、確かに渉君の言う通りかもしれないな。よし、教職員二名は容疑者から外して残りの警備員四人からホシを割り出してみるよ!」
佐藤「あっ、そこで質問なんですが…」
そこで佐藤は石田刑事に警備員四人の年齢等を聞いてみた。
石田「ああ、年齢は四人とも三十代後半で誰も骨折とかはしていない健康な体をした男性だよ。」
佐藤はそこまで聞くとある事に気づいてそれについて質問してみた。
佐藤「そう言えば何かあったんですか?かなり騒がしい様ですが。」
佐藤は電話口から聞こえる話し声等が気になり、思いきって質問してみたのだ。
石田「ああ、これか。騒がしくてゴメンね。実は別の事件の捜査中なんだよ。」
佐藤「別の事件?」
佐藤がそれについて聞いてみると石田刑事は詳しく話してくれた。
何でも最近、警視庁周辺で連続窃盗殺人事件が発生しているとの事だ。
その犯行の手口は深夜に被害者宅へ侵入しては住人を殺害し、金目の物を全て盗んでから家に火を放って逃走するという残忍な物である。被害に遭われた家はいずれも金持ちの家であり、それらの犯行現場は全て警視庁から同じ距離にあるというのが共通点だ。
警察では物盗りと見て捜査中だが、手掛かりも見つからないまま捜査は難航中だということだ。
以上が石田刑事が教えてくれた事件の内容であり、そこまで聞くと佐藤は礼を述べて電話を切る。
佐藤「うーん、学校で起こった事件に加えて新たな事件か。こうなるとそっちも気になるな…でもまずは学校の事件から解決しないと。」
佐藤が考えているとチャイムが鳴った。
佐藤「誰だろ?こんな時間に。」
佐藤が覗き穴から覗くとそこには汗だくの鈴木が息を切らしながら立っていた。
それを見た佐藤は慌ててドアを開ける。
佐藤「一体どうしたの?」
鈴木「…ちょっと……話したい事が…あって。」
鈴木が息を切らしながら話すので佐藤はひとまず鈴木を上がらせる。そして客間に通して座らせてからジュースを出す。
出されたジュースを飲んで落ち着いた鈴木は学校で直接霊視して橘の霊から聞いた事を話した。
佐藤「それって本当?」
佐藤は驚きながらも尋ねる。
鈴木「うん、間違いないよ。確かに橘さんの霊が僕にそう話してくれた。」
佐藤は鈴木の話を聞いて考え込んでいたが、やがて口を開いた。
佐藤「それで犯人が誰かは正確には分からないんだね?」
鈴木「うん、橘さんがそこまでは教えてくれなかったから。」
鈴木は申し訳なさそうに言った。
佐藤「でも凄いね!まさか学校に直接行って霊視するなんて思い付かなかったよ。」
佐藤は感心するように言った。
鈴木「だけどどうすれば犯人が分かるんだろ?」
佐藤「君がさっき話してくれた内容によれば、被害者が殺害された時の映像が見えたらしいね。」
鈴木「うん、見えたよ。」
佐藤「その時に犯人の顔は見えた?」
鈴木「うーん、あまりはっきり見えなかったから顔も特徴も正確には…」
鈴木は考えながら言った。
佐藤「じゃあ、後で石田さんに頼んで容疑者四人の顔写真を携帯で転送してもらうからそれを見てね。」
鈴木はその案に賛同し、家に帰る。
佐藤「よし、石田さんに容疑者四人の顔写真を送ってくれる様に頼むか。」
佐藤は早速石田刑事宛に頼みのメールを送る。
佐藤「これで犯人がわかる筈だ。でも証拠がないんだよな…何かないものか。」
佐藤が考えていると不意に電話が鳴り響いた。
佐藤が慌てて電話に出ると相手は石田刑事だった。
佐藤「どうしました?」
石田「君に容疑者四人の顔写真を送る前に相談したい事があるんだ。」
何でも石田刑事によると被害者の首に巻かれていたロープから犯人の指紋は出なかったらしい。
佐藤「それがどうかしたんですか?」
石田「考えてみたんだが、ロープに指紋をつけないようにするなんて余程の犯罪知識がないと出来ないことなんだ。私にはまるで、犯人が警察関係者ではないかと思えてしまうんだ。」
佐藤は石田刑事の発言に驚きを隠せなかった。犯人が警察関係者かもしれないなんて佐藤には思いもよらなかったからだ。
佐藤「で、でも本当にそうとは…」
石田「もちろんこれは私の推測だ。だが、どうしてもそうとしか思えないんだ。まあ、とにかく後で君に容疑者達の顔写真を送るよ。私の話を聞いてくれてありがとう。」
石田刑事はそう言うと電話を切った。
佐藤「犯人は警察関係者…か。確かにそう言われればそうかもしれない。でも犯人はあの四人の警備員の中の一人の筈なんだ…」
佐藤はそう思いながら複雑な感情を抱いていた。
やがて石田刑事から容疑者達の顔写真が送られたので佐藤はそれを鈴木の携帯に転送する。すると一分もしないうちに鈴木から電話が掛かってきた。
鈴木「佐藤君、犯人は最後の写真に写ってる警備員に間違いないよ!」
佐藤「本当?」
鈴木「うん、その写真を見たらその警備員が犯人だって分かったんだ!」
佐藤はそう聞くと鈴木の霊感が働いたんだろうと悟る。だが、これだけではまだ証拠がない。そう考えていると佐藤はあることを思い付いた。
佐藤「そう言えば、犯人は夜の学校の職員室にある金庫をこじ開けようとしていたんだよね!?」
鈴木「あっ、うん。橘さんの霊がそう言ってたけど。」
佐藤はそこで何かを考えていた。やがてそんな佐藤の脳裏に石田刑事から聞いた連続窃盗殺人事件が浮かぶ。
佐藤「…!そうか……そうだったんだ!」
佐藤は何か分かったようで、その事を鈴木に話した。
鈴木「そっか!確かにそれなら何故、橘さんが犯人の名前を教えてくれなかったのかも分かるよ!」
佐藤「明日の夜、学校に来れる?」
鈴木「もちろんだよ!」
二人はある計画を立て、明晩学校に向かう事になった。
ー明晩の学校ー
《職員室》
一人の男が職員室へやって来た。
男「まさか警察があっさり引き上げるとはな。まあ、そのお陰で俺もここに忍び込めた訳だが。」
どうやらこの男が橘の言っていた犯人の様だ。
男は職員室に入ると橘が言っていた通りに金庫をこじ開けようと針金を取り出す。
そして金庫に手を掛け、こじ開けようとしたその時…!
パッ。
突然部屋の明かりが点いたのだ。
男は驚いて照明のスイッチがある入口の方に目を向ける。するとそこには石田刑事、佐藤、鈴木の三人がいた。
男「お、お前らは誰だ!?」
男が尋ねると石田刑事は警察手帳を出して自己紹介をする。
石田「私は警視庁捜査一課の石田だ。 」
男「警視庁捜査一課だと!?」
鈴木「あなたが橘さんを殺した犯人だったんですね?安藤直也(あんどうなおや)さん!」
そう、この男こそが橘を殺害した犯人であり、この学校の警備員の安藤直也だ。
男(以下、安藤)「貴様ら、何故俺が犯人だと分かった!?」
安藤が聞くと今度は佐藤が話し出した。
佐藤「それについては話せません。ですが、あなたが学校の金庫をこじ開けて中のお金を盗もうとしたのが分かったのはあなたが別の事件の犯人だと分かったからです。」
安藤「うっ!?」
安藤は一瞬ギクリとした。
佐藤「あなたは最近発生している連続窃盗殺人事件の犯人ですね?」
安藤「!……な、何故それを…」
今度は石田刑事が口を開いた。
石田「職員室の先生方に聞いた所、最近職員室の金が減っている様な気がすると言うことが分かったんだ。恐らくお前が夜な夜な金を盗んでいたんだろう。そう、連続窃盗殺人事件の犯人であるお前がな。」
安藤「だからどうしてその犯人が俺だと分かったんだ!?あの事件の被害に遭っているのはいずれも金持ちの家なのにどうしてこの学校の金にも手をつけていると…」
安藤が話している途中で再び佐藤が口を開いた。
佐藤「その事件の被害に遭った家はいずれも警視庁から同じ距離にあったんですよ。そしてこの学校も警視庁から同じ距離にあった。だからわかったんですよ。その事件と職員室の金を盗んでいる犯人が同じだと言うことが。」
佐藤がそう言うと安藤は俯いてしまう。
佐藤「でもこれだけではあなたが犯人だと分からない。だからあんたを今、罠にはめたのさ!」
安藤「くっ…」
安藤は言葉を失う。だが不意に顔を上げる。
安藤「確かに俺は連続窃盗殺人の犯人だ。それは認める。だが、俺は橘を殺してはいない!」
安藤は橘殺害の件を否定するが、佐藤はあるものを取り出す。
佐藤「これ、なんだか分かります?」
安藤「そ、それは!」
佐藤が取り出した物とは小型のICレコーダーだった。
佐藤「さっきあなたは橘さんを殺害した犯人が何故自分だと分かった、と質問しましたよね?その声は録音済みです。」
佐藤はそう言って微笑む。すると安藤は観念した顔になり、話し出した。
安藤「俺は本当は警視庁の刑事になりたかったんだ。それなのに採用試験に落ちて、今じゃ学校の警備員だ。」
佐藤「あなたが警視庁周辺で連続窃盗殺人事件を起こしていたのは、自分を刑事にさせなかった警視庁への復讐ですね?」
安藤「その通りだ。俺は借金をしていて金に困っていたから窃盗も行っていたんだ。だが、盗んでも金には困る始末…そこで俺はこの学校の金庫の金に手を付けた。それをあいつが…橘が…」
安藤は眉間にシワを寄せながら橘に金庫をこじ開けようとしていた所を見られた時の事を話始めた。
安藤「俺は橘を殺す数日前の夜、金庫をこじ開けようとしていた所を運悪くあいつに見られてしまった。そしたらあいつは黙っててやる代わりに一千万よこせと抜かしてきやがった。断れば学校にばらすと脅してな…そこで俺はあいつを自殺に見せ掛けて殺すことにしたんだ。」
鈴木「あなたは人を何人殺せば気が済むんですか!?あなたのせいで、橘さん以外に何人の人が犠牲になったことか…」
鈴木が取り乱して話すのを佐藤は直ぐに止めて落ち着かせる。
石田「安藤直也、窃盗並びに放火、更に並んで殺人及び偽証の罪で逮捕する!」
石田刑事はそう言うと安藤の手に手錠をガチャリと掛ける。そして職員室の外で待機していた警官に引き渡し、安藤は連行されていった。
石田「犯行が警察関係者の仕業の様に思えたのは彼が刑事になるために勉強したからだったのか…」
石田刑事は遠い目をして言った。
鈴木「橘さんが僕に犯人の名前を教えなかったのは佐藤君が言ってた様に犯人を脅していたからだったんだね。」
今度は鈴木が思い出した様に言った。すると佐藤も話し出した。
佐藤「橘さんが犯人が金庫をこじ開けようとしていたのを見た後に取る行動を考えたら直ぐに分かったよ。教えなかったのは犯人が分かると自分が犯人を脅していた事がバレるんじゃないかってね。
もしバレたら自分は地獄行きになると思って敢えて言わなかったんだよ。」
佐藤「最も、どのみち地獄には知られているだろうからいずれ彼は地獄に堕ちるだろうけど。」
佐藤がそう言いながら橘の霊を視ると俯いていた。
石田「では私は本庁に戻るよ。今回の事件が解決したのは君たち二人のお陰だよ、ありがとう。」
石田刑事は二人に礼を述べると去っていった。
それを見送った後、鈴木が佐藤に話しかける。
鈴木「でも僕、何も出来なかったよ。事件が解決したのは佐藤君のお陰だよ。」
鈴木がそう言うと佐藤はそれを否定する。
佐藤「いや、君のお陰でもあるよ。もしも君が再び橘さんの霊に話し掛けてくれなかったら、安藤さんが犯人だと言うことは分からなかったからね。僕の方こそ君に感謝しているよ。 それに君は霊視を初めてなのに見事に成功させたからね。今後の成長と活躍にも期待しているよ。」
佐藤がそう言って微笑むと鈴木は嬉しくなり、これからも頑張ろうと思った。
こうして今回の事件は解決したが、鈴木の霊能力にはまだまだ磨きがかかるであろう。なのでこれからも期待してもらいたい。
作者おにいやん
今回は話の展開が早い上に長文・駄文が多いですが、読んでいただけると幸いです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
次回は佐藤渉の中学時代の話を書いてみるのでそちらも読んでみてください。