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music:2
丸山は、また古い屋敷の前に立っていた。
昨日の夢では気づかなかったが、村には人間の気配がないように思える。
話し声は勿論、生活している様子がまるで見受けられない。
そして不思議なことに、自然と丸山は今いるここが夢だと把握できた。
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(....ん?)
丸山は、昨日の夢とは村の雰囲気が違うことに気がついた。
村全体を包む、異様な空気。
そして、昨日よりも息苦しい。
上を見上げると、空が赤く染まっているように見える。
夕焼けではない。
少し黒の混ざった、不気味な空だった。
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(なんだ....?この雰囲気。
....気味が悪い。)
空の影響からか、村全体が赤く染まっているように思う。
いや、様々な景色や建物にも、若干ではあるが赤黒い染みのようなものが浮かんでいる。
明らかに昨日よりも、村の様子が恐ろしく、そして暗く見えた。
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「とりあえず...色々調べてみないと、だな。」
丸山は始めに、一番北側に位置する村の中でも大きめな古い屋敷へ足を運んだ。
屋敷の玄関には、太い注連縄が掛けられている。
そして、鳥居同様その注連縄も赤く染まっていた。
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(あの鳥居もそうだけど....。
赤を基調とした宗教なのだろうか。)
屋敷の周りをグルリと一周する。
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(ここにも...。)
丁度正面玄関の真裏に位置する庭に、森の鳥居程では無いが、小さな真っ赤な祠があった。
しかし、森の神棚と違いお札が貼られていない。
恐らく、ご先祖など個人的な何かを祀っているのだろう。
すると、人気のない屋敷の中から、何かを引きずる不気味な音がした。
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ギギギ....。
ズズッ...ズ.....。
丸山は、正面玄関へ周り、入口から中を覗こうとした。
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sound:18
「.....ん?これは....。」
玄関の扉の隙間に、汚い紙切れが挟まっている。
丸山はすぐに感づいた。
恐らく、またあの「日記」の切れ端だろうと。
.....ただ昨日のような真白な紙とは違い、薄っすらとあの赤黒い染みが付着した汚れた色をしている。
丸山は、挟まっていた紙切れを抜き取った。
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6月11日
儀式について村長の婆さんに聞いた。
ふざけてる、なんて惨い話だ。
あんなこと、必ず阻止しなくてはならない。
私はあの子の父親なのだから....。
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「あの子の.....父親?」
あの子とは、テープの「首の少女」のことだろうか。
この日記はその父親のもの....?
日付が今日、ということは儀式の8日前のものだろう。
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(この赤い染み...何だろう。)
血とはまた違うように見える。
赤黒い....空の色に近いというべきか。
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ギギギ....ザ...
相変わらず、屋敷からは何かを引きずる音が聞こえてくる。
丸山は、正面玄関の扉を少し開け、中を確認するように覗いた。
.....が、誰もいない。
恐る恐る中へ入る。
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ザザ...ザ....
奥の廊下の方から聞こえるようだ。
丸山は忍び足で一歩ずつ、慎重に歩いた。
そして、音の原因があると見られる廊下を覗いた。
shake
sound:18
「〜〜〜っ!!!」
そこには、血だらけの女が立っていた。
いや、正確には返り血だろう。
女はカクカクと奇妙な歩き方をしながら、何かを引きずっている。
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ズ....ズズッ..
shake
「.....うっ!!?」
丸山は、思わず声が出そうになり、咄嗟に口を抑えた。
...すると女はピタッと動きを止め、此方を振り向いた。
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(......あの少女だ。)
テープの儀式で殺されたあの少女だった。
少女は、小学生くらいと見られる子供の首を掴んで引きずっているのだ。
子供は...恐らくすでに死んでいる。
全身から溢れるように血を流していて、ピクリとも動かない。
丸山は、絶句した。
死んだ子供を引きずりながら、こちらを向いた少女は、不気味に微笑んでいたのだ。
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(.....マ、マズイ。気づかれただろうか?)
微笑みながら此方を確認するようにキョロキョロしている。
それでも、とてもじゃないが正気の目ではない。
....その時だ。
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ギシッ...
shake
「!!!!!」
丸山の後ずさりをした際に足を付いた床から、音が出てしまったのだ。
その瞬間に、丸山は女と目が合った。
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ボトッ...
床に子供の死体を捨てた女が、此方へ向かってきた。
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「ヤバいっっ!!」
丸山は急いで振りかえったが、恐怖で足がもつれ、その場に倒れてしまった。
いや、正確には着ていたスーツがいつ間にか白い装束衣に変わっていて、その裾を踏んでしまったのだ。
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(な、なんで...!)
ハッと振り向くと、少女は不気味な笑みを浮かべながら、すぐ後ろに立っている。
立ち上がろうとするも、足をくじいたようで立ち上がることが出来ない。
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(.....こ、殺される!!)
少女が丸山へ手を伸ばしたその時だった。
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shake
sound:18
「.....っっ!!!!?」
気づくと、丸山はまた儀式の中にいた。
もがいてももがいても動かない手足。
左横には、お経のような言葉を発する老婆。
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(ま、またこのシーンだ...!)
老婆は、小太刀を赤装束の男から受け取り、振り上げた。
丸山へ刃先が落ちた瞬間ーーーー
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music:4
shake
「うわぁっっ!!!」
....まただ。
また殺される前に目が覚めた。
しかし若干ではあったが、落ちてきた刃先が少し近くなった気がする。
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(やはり....前田の言った通り、儀式日に合わせて老婆の小太刀が近づいてくるってことなのか?
そして8日後には....。)
丸山は、カラカラに乾いた喉を潤すためにキッチンへ向かおうと、ベッドから降りた。
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「....つっ!?」
電気が走るように足首に痛みが走った。
まさに、夢の中でくじいたあの足だ。
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(ま、まさか...。)
丸山は嫌な予感がした。
いや、内心ではもう気づいていたのだ。
夢の内容を、起きても鮮明に覚えている。
そのうえ、夢の中での空気も、匂いも、感触も、痛みでさえ、現実そのものなのだ。
さらに、腕の痣同様、夢の中で負った傷は現実にも帰ってくる。
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(つ、つまり...夢で死ねば現実でも...。)
丸山は焦った。
もしそうなら、夢での行動も限定される。
無理な行動は出来ないうえ、またあの少女に見つかり殺されれば....。
丸山はコップに水を入れ、一気に飲み干した。
だが丸山には、分かった事がある。
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(まず、夢の時間は限られている。
あのメモは現実の時間とリンクしているようだ。
あと、服が白い装束衣に変わってすぐに儀式のシーンへ変わる気がする。
そして夢の中で死ねば現実でも恐らく死ぬ。
.....実際、これが一番マズイ。)
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丸山は、痛む足を引きずりながら、朝子がまだ寝ているのを横目に外へ出た。
一度、気分を落ち着かせるために外の空気を吸いたかった。
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「な、なんだこれ....!?」
丸山は驚愕した。
時間は朝の6時15分といった所だ。
既に6月の今頃はすっかり日は上がり、晴れていれば青い空が迎えてくれる....筈だった。
なんと空が赤黒いのだ。
まるで、夢の中のあの空のように。
更にマンション、ビル、車、人以外の全てに至るまで、赤黒い染みのようなものが浮かんでいる。
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(う、嘘だろ...?
まだ夢の中....なのか?ここは。)
いや、夢ではない。
どこを見ても、「赤黒い不気味な空と染み」以外は全ていつもの風景だ。
道を歩く人間も、車も、何の違和感も無しに動いている。
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「ってことは....俺だけ見えてるんだろうな。」
丸山は、はぁー...とため息をつき、家に戻った。
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(呪われた証拠.....ってか。
これで、あと8日で俺は....。)
丸山は換気扇の下で煙草に火を付けた。
先程はよく見ていなかったが、部屋の中にまで赤黒い染みが所々に見受けられる。
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(家の中にまで....。)
まるで、あの夢に現実世界が侵食されているように思えた。
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「.....ふーっ。」
このまま諦めてしまおうか。
残り8日で何ができる?
嫁とも倦怠期で、仕事もつまらないし趣味もないこんな人生、生きてて何か意味があるか?
そんなことが頭をよぎる。
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(俺が死んだら、朝子は悲しむのだろうか。
いや、むしろ今、あいつは本当に幸せなのだろうか。
....そんなわけないか。)
煙草を灰皿へ押し付けて火を消し、丸山はまた新しい煙草へ火を付けようとした。
その時、トイレの水を流す音が聞こえ、朝子が体調悪そうに出てきた。
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「なんだ、お前。
具合でも悪いのか?」
丸山は煙草を咥えたまま話しかけた。
すると、ヨロヨロと朝子が此方へ歩み寄り、丸山の腕を掴んだ。
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「おっ、おい。
どうしたんだよ....?」
様子がおかしい。
俯き、明らかに苦しんでいるように見える。
丸山の脳裏に浮かぶ嫌な予感。
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(ま、まさか....。
朝子にまで影響が及んでいるのか?)
震える朝子の手。
俯いていて顔が見えないが、恐らく泣いているようだ。
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「お前、本当に大丈....。」
そこまで言いかけた時、朝子が涙でぐしゃぐしゃになった顔で此方を向いた。
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「......できた。」
「はっ!?」
「赤ちゃん.....出来た。」
口をあんぐりと開け、丸山は固まった。
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(い、今こいつ...な、何て...言った。)
「おま、お前今....。
は?ちょ、ちょ、ちょっと待て。
証拠あんのかよ??」
それを聞いた朝子は、ポケットから何かを取り出した。
それは、妊娠検査薬だった。
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「....昨日、あなたが寝てから一度試してみたの。
それで今、気持ち悪くてもう一度測ってみたのよ。
.....2回とも、陽性だった。
ちなみにそれ、99%正確なんだって。」
目の前には、二本の縦線が入った検査薬。
最近の検査薬の正確度はかなり高い。
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「で、で、でも....。
俺は、お前をしばらく抱いて無い筈だ。」
はぁー...と朝子がため息をついた。
そして、不安いっぱいの表情を浮かべ、少し視線を逸らした。
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「....あなた、1ヶ月くらい前、会社の飲み会があったでしょ。
あの日、すごい酔って帰ってきたと思ったら、あたしのこといきなり....。
とにかく!
正真正銘、あなたの赤ちゃん....なのよ?」
そう言うと、朝子はまた目に涙が溢れ、丸山の胸へ飛びついた。
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確かに、丸山には覚えがあった。
丁度1ヶ月前くらいの週末に、飲み会があったことを。
すごい酔っぱらっていて、翌日には記憶が無かったことも。
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(まじ....かよ。)
丸山は嬉しかった。
始めて出来た我が子の存在。
それを知らされた時の感動は、一瞬で丸山の人生に光を差した。
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「そっか。
.....ありがとうな。」
丸山は、抱きつく朝子を抱きしめた。
いや、もう二人というのが正しいのだろうか。
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(死ねない....絶対に。)
「生きる」ことのこれ以上無い理由を、丸山は今、ようやく初めて得たのだった。。
*************
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music:3
2009年6月12日(金)
丸山は、油断するとついニヤついてしまう自分の顔をペシャリと叩き、インターホンを押した。
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ピンポーン...
応答がない。
「くそ、さっき自分でこの時間に
来いって言ったくせに。」
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ピンポーン...
「....うるせえ!勧誘は毎回断ってんだろうがっ!!」
いきなり出たと思ったら怒鳴り声がする。
全く....。
丸山はまたため息をついた。
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「.....俺だっつーの。」
「ん?.....おっ、わりぃ。
てっきりいつもの勧誘かと....。
あいつらしつこくてさぁ、こないだなんて...」
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「いや、いーから!
とりあえず中入れてくれよ。」
長くなりそうな話を打ち切り、丸山は中へお邪魔した。
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「まっ、どうぞ。
さっきお前を呼んでから、急いで片付けたからよぉ。まっ、数年ぶりにな!
カッカッカ!」
外観は比較的綺麗なアパートの一角にある前田の家。
しかし、外観と裏腹に中はひどい荒れようだった。
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(こ、これで....片した?
一体何を??)
部屋には少なくとも、腐った何かのゴミやカビ、積まれたゴミ袋で足場が殆ど無い。
バランスを崩しそうになりながら、丸山はピョコピョコと飛ぶようにして部屋の奥へ入った。
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「で、何か分かったのか?」
「まぁまぁまぁ。」
前田は、恐らくそこで寝ていたのであろう布団の上へ座れとジェスチャーする。
布団には、正体不明の染み。
赤黒いあの染みとは違うものだった。
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「い、いーから。
このまま聞くよ、何が分かったんだ?」
少しムッとしたような表情を見せた前田だったが、スッとパンツの中からリモコンを取り出した。
....ちなみに、前田はパンツ一丁の格好であった。
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「とりあえずよぉ、昨日帰って何度か見てみたんだよ。
色々分かったぜぇ?」
ニヤニヤしながら、前田はテープを再生した。
そして、カメラが屋敷の中へ入った所で一時停止をした。
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「ここだ、ここに画像は荒いがカレンダーがあるだろ。」
確かに、画面の右横にカレンダーらしきものが壁に掛かっていた。
しかし、画像が荒くてよく見えない。
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「そいつをよぉ、この俺のスーパーパソコン技術によって画像の荒いのを出来る限り除去、拡大させたのがコレだ。」
前田は、テレビの横のコピー用紙を差し出した。
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shake
「....あっ!!」
カレンダーには、
「1989年6月9日」と書かれていた。
「....20年も前のものなのか。」
それを聞いた前田は、ガックリを首を横に落とし、呆れた顔をして言った。
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「バーカ、見るとこそこじゃねえよ。
ここだよ、こーこ!!」
バンバンバンっとコピー用紙に写るカレンダーの下部を指差した。
丸山は、もう一度コピー用紙へ視線を落とした。
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「神山...接骨医院?」
そう書かれた病院名の下には、その病院のものであろう電話番号が記されていた。
住所も書いてある様だが、小さすぎて見えない。
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「大発見だろ。
その番号さえ抑えりゃあ、その村の周辺の場所くらいは分かるだろ。」
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(す、すごい。
俺なら、何の違和感もなしにスルーしてる所だ。)
丸山が感動していると、前田がチッチッチと指を振りながらリモコンを操作する。
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「分かったことはそれだけじゃねぇんだよ。
お前の言ってた、「探せ。」って意味は多分こいつだ。」
テレビのシーンは、あの少女の儀式のシーンの最後の方で止められた。
首が床へ落ち、画面下へ転がってくるシーンだ。
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「へへっ、何回見ても惨いぜ。
.....ここ、見てみろ。
変じゃねえか?」
前田の指差す先は、首の落ちた少女の身体だ。
丸山は目を凝らしてよく見つめた。
すると、、
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shake
sound:18
「あっ!!!!?」
首を落とし、終わったと思っていた儀式。
ところが、老婆は落ちた首に目もくれず、首の無くなった少女の右腕を切りつけている。
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「ど、どういうことだ....?」
前田は、得意気にドヤ顔を浮かべながら質問に答えた。
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「いいか、恐らく儀式はこのガキを殺して終了ではねーんだ。
腕を切りつけている所を見ると、多分殺すことに意味があるわけじゃない。
そして、お前が言われたっつー「探せ」だっけ?
これ、俺は最初この儀式が行われた場所か、もしくはこのガキを殺した連中を探せってことかと思った。
でも、この首に目もくれず腕を切りつけているシーンを見てピーンと来たよ。」
前田は、そこから少し間をあけるように身体を伸ばした。
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「な、なんだよ、早く言えよ。」
呑気な前田の態度と、何もピンと来ない自分の無能さが重なり、丸山は段々とイライラし出した。
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「これは、あくまで大前提として俺の勘でしかないがな。
このガキ、この後でバラバラにされるんじゃねぇかなぁ。
恐らく、最低でも5体バラバラってとこだろう。
そして、「探せ」ってのは、こいつのバラバラになった「身体のパーツ」を、ってことじゃねーか?」
丸山は、しばらく考えたが、納得するに至らない何かが引っかかる。
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(なぜ、身体のパーツを探す意味があるのだろう。)
考えこんで黙った丸山を見て、前田は話を続けた。
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「なぜ、バラバラにする必要があるのか、俺もすげー考えた。
ネットで、そういったアングラなサイトで、様々な儀式についても徘徊して調べたさ。
んで、辿りついた答えは、「バラバラに封印」して初めて意味の成す儀式だろうということだ。」
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「確かに....。」
前田の仮説は、確かに丸山の考えでは辿り着かないようなことだった。
それでも、もしそうなら殆どの疑問が解かれる。
バラバラに封印、または埋葬したからこその「探せ」は、納得がいく。
仮にこの儀式の行われた場所や人なら、いちいち人間に頼む必要はなさそうだからだ。
霊の直接関与できない、実際の現実世界でないとできないことだからこそ、少女が丸山に頼んだ可能性は十分にあり得る。
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「でも、集めてどうするんだよ?」
その質問に関しては、前田は分からないと首を横に振った。
しかし、それだけでも分かったことは大きい。
もし本当にこの仮説が正しいとするのなら、前田には叙○苑のひとつでも奢らなければ割に合わないだろう。
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「.....さんきゅ。」
「あ?それはまだ早いだろう。
んじゃ、行くぞ。」
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「.....へっ!?」
丸山は急に立ち上がる前田に驚いてしまった。
「へっ!?じゃねーつの。
電話番号の住所調べて、直接乗り込むぞって言ってんだよ。」
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「ま、待て待て。
まだ何も準備もしてな....。」
そこまで言いかけた所で、前田がふと奇妙なことを言った。
いや、その前に「見透かされたように」と入れた方が正しいだろうか。
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「.....お前、何かいい事あったろ?
どうした?まさか、ガキでも出来たか?」
ほとほと、こいつには驚かされる。
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(どんだけ勘が鋭いんだよっ!)
頭でツッコミを入れ、照れたように丸山は「うん」と答えた。
それを聞いた前田は、フッと一瞬笑った後で、ガシッと丸山の肩を掴んだ。
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「いいか。
子供にとって、どう足掻こうと父親はお前一人だ。
女房や友達や仕事なんてのは、幾らでも代わりが効く。
でも、この世で一番代わりの効かねーのが子供ってやつだ。
死ぬほど大切にしてやれ。
そんで、子供が成人するまでは、絶対に死ぬな。
男として、人として、だ。
子供を作るってのは、そういうことだろ。」
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「......あぁ、約束する。」
急に真面目な話をする前田に少し戸惑った丸山だったが、本当にいい友を持ったと、その時心から感じたのだった。
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「とりあえず、その番号に電話してみろよ。」
丸山は、携帯であのカレンダーに印刷されていた電話番号に電話をかけた。
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【.....お客様のおかけになった電話番号は、現在使われておりません。
番号をもう一度お確かめに....】
「....えっ。」
何度かかけてみるも、その番号はすでに存在していなかった。
しかし、頭のケタを調べれば、おおよその場所は分かる。
丸山は、会社の後輩の高橋へ連絡を入れた。
編集社なだけあって、会社でならすぐに番号から場所が割り出せる。
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「....あっ、もしもし高橋か?
悪いんだけど、ちょっと住所を調べてほしいんだよ。
....えっ、俺今盲腸で入院したことになってんの!?」
チラっと前田を見ると、ぺろっと舌を出した。
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「ま、まぁとりあえず色々あってな。
悪いんだが、今言った番号調べて連絡してくれ。頼んだぞ!」
電源を切ったと同時に、前田が舌を出しながらウインクをしてきた。
勿論、丸山はそれを無視した。
しばらくすると、高橋から連絡が入った。
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「石川県白山市周辺、だそうだ。
ただ、それ以上の詳細は分からないって。」
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「それじゃー、早速出発だな。
知らない地なら、車で行くのがいいだろ、小回りもきくしな。
後の詳細は、役所でも行ってきいてみよう。」
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丸山は、子供を授かったばかりの妻を残すことが少し心配になったが、妻には「取材で出張」とだけ伝え、なるべく負担のかからないようにした。
丸山は、一日ですっかり妻に優しくなっていたのだったーー。
続く
作者鳴終魏-NAOKI-
このお話は、以前投稿させていただきました、
「赤い村-夢と余命-」
の続編となります。
誤字、脱字、矛盾点などありましたら、ご遠慮なく言ってください。
なお、ご感想、ご意見などございましたら、ぜひコメントしてください。
よろしくお願いします。