ザーーーーーーーーー・・・
何か遠くの方で音がしている。
雨でも降っているのだろうか・・
ザーーーーーーーーー・・・
うるさいなぁ・・・
意識がだんだんとハッキリしてくる。
静かに目を開けると、見えたのは見慣れた自室の天井だった。。
「んー・・・」
大きく伸びをしながら、ゆっくりと体を起こす。
ザーーーーーーーーー・・・
雨だと思っていたこの音は、どうやら目の前のテレビから発せられていたようだ。
画面の中では、放送休止中を知らせる灰色の砂嵐が吹き荒れていた。
時計を見ると、午前3時ーー
テレビを見ながら、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
部屋の明かりは点いておらず、辺りを照らす光源は目の前のテレビだけのため、部屋全体が薄暗い。
(リモコンは・・・と)
まずはこの五月蝿い砂嵐の音を止めようと、リモコンを探す。
起きたばかりでまだ目のピントがあまり調節できてない上、部屋の中は薄暗いために、なかなか見つからない。
「あぁぁ、もう」
俺はとうとう痺れを切らして、部屋の明かりを点けようとその場に立ち上がった。
その時ーー
《ジャジャジャーーーーーン!!》
テレビから大音量でファンファーレが流れた。
「うわっ!」
あまりの驚きで思わず飛び上がった。
何事かとテレビに向き直ると、さっきまで画面を埋め尽くしていた砂嵐は消え、その代わりに画面いっぱいを覆うように、赤色の垂れ幕が映し出されていた。
「・・・ん?」
こんな時間から番組が・・・?
よく状況を理解できないまま画面を見つめていると、赤い垂れ幕をバックに、画面中央を白文字のテロップがゆっくりと流れてきた。
“これはあなたが主役の番組です。”
「俺が主役ぅ??」
更に俺の頭が混乱する。
こんな真夜中に、視聴者参加型の番組が始まるなんて、テレビ局のミスなんだろうか・・
そんなことを考えていると、突然画面の垂れ幕がバッと開いた。
『THE・今夜は誰でSHOOOOOOOOOOOOW!!!!』
またもや大音量で、テレビから男性と女性の声が流れた。
軽快な音楽が流れだし、観客席からワーパチパチと拍手喝采がおこる。
「うっるせぇな!」
俺はあまりの騒音にしかめっ面になりながら画面に走り寄ると、テレビ本体の音量ボタンを連打した。
男:『さぁぁて、今夜も始まりました!あなたが主役のTHE・今夜は誰でSHOW!!今夜も最高の恐怖を・・・』
男女:『あなたに!』
おそらくこの番組の司会者であろう男女二人が、明るく番組の始まりを告げると、また観客席側から拍手がおこった。
「・・・・。」
黙ったまま画面を見つめていた俺は、眉間にしわを寄せてつぶやいた。
「・・・お面?」
画面の中の司会者二人は、この番組の明るい雰囲気には似合わない、真っ白な能面をつけていた。
(何でお面なんか・・)
そんな疑問を抱く俺をそのままに、番組は進んでいく。
男性の司会者がジョークを言うと、観客からドッと笑いが起こる。
隣の女性司会者も、楽しそうに肩をゆらして笑っている・・・・ように見えた。
顔に能面がついているため、相手の表情がわからない。
軽快なリズムで流れる音楽に、観客の笑い声、明るいセットに、愉快な司会者。
聞いただけならなんともワクワクする状況だが、そこから漂う雰囲気はなんとも奇妙なものだった。
男:『さぁぁて、そろそろ今日のメインに移るとしましょう!』
ひとしきり話を終えた男性司会者が画面に向き直った。
男:『この狭くも広い世界の中でただ一人、幸運にも選ばれた今夜の主役は~~!』
《ダララララララララララララララ・・・・・》
ドラムを連打する音が流れだした・・と思ったら、ドラムではなく隣の女性司会者がマイクにむかって一生懸命舌を鳴らしていた。
(ドラム鳴らせよ・・・)
苦笑いで軽くツッコミを入れた瞬間、
男:『この人です!!』
ダダンッと大きな効果音と共に画面が切り替わった。
俺は一瞬なにが起こっているのか理解できなかった。
画面越しに、誰かとピッタリと目が合っている。
「・・・・・・は!?」
ようやく状況がわかると、俺は思わず後ろにのけぞった。
画面の中の人物も同じようにのけぞってこちらを見ている。
映っているのは、俺自身だった。
(一体なにがどうなってんだ・・・?)
画面の中のもう一人の俺と目を合わせたまま混乱していると、画面がまたスタジオへと切り替わった。
男:『おや、どうやら相当びっくりしているようですねぇ。そうですよ!あなたが主役ですよ!』
観客から笑いが起こる。
女:『どうですか?今夜の主役に選ばれたお気持ちは!』
女性の司会者が画面にマイクを向けて質問を投げかけてくるが、そんなことはどうでもよかった。
どうやって俺を・・・
たらりと嫌な汗が顔を伝う。
俺はテレビの上や画面の端などを必死で探したが、どこにもカメラのようなものは見当たらない。
男:『おや、どうやら緊張気味のようですね。』
またも観客から笑いが起こった。
男:『どこを探しても見つかりませんよ!吉田さま!』
画面越しに能面が話しかけてくる。
名前まで・・・
ドクンドクンと心臓の音が速くなっていくのがわかった。
男:『本人は少々混乱気味のようですが、参りましょう!!クイ・・・・・』
俺はテレビ本体の電源ボタンを押していた。
テレビの電源が切れ、画面が真っ暗になった。
と同時に、唯一の明かりを失った部屋も闇に包まれる。
「はぁ、はぁ・・」
俺は大きく肩で息をした。
ぬるい汗が何滴も首筋を伝い落ちていく。
カメラもないのに、画面に映し出された自分、少しもテンションを落とさず喋り続ける司会者、ただひたすらに笑っている観客・・・
さっきまで僅かにも感じていた俺のワクワクした気持ちは、今やすべて気味の悪さへと変わっていた。
「で、電気・・」
俺は右手で首筋の汗をぬぐうと、手探りで壁にある明かりの電源を探した。
部屋がパッと明るくなる。
しかし部屋を照らしたのは、部屋の明かりではなく、自分の背後にあるテレビだった。
軽快な音楽と共に観客の拍手が聞こえる。
男:「では気を取りなおして、参りましょう!!」
すぐさま男の声が番組を進行し始める。
体中にゾッと寒気が走った。
俺はダッシュでテレビまで駆け寄ると、電源ボタンを連打する。
何度押しても、テレビの画面は消えなかった。
「なんで消えねぇんだよっ・・・」
歯を食いしばって何度もボタンを連打する。
首から流れる汗が、俺の着ているシャツを濡らした。
男女:『クイズ!!テレフォーーーーンチャレンジ!!!』
流れていた音楽が一段と明るいものに変わった。
観客からは大きな歓声と拍手が起こる。
「・・・クイ・・ズ?」
汗だくの俺は電源から指を離し、力なく画面を見つめた。
男:『いまから吉田さまに挑戦してもらうのは、名前の通り電話を使った簡単なクイズです!いまからこのスタジオより吉田さまに電話をいたします!そこで出題されるクイズに吉田さまは30秒以内にお答えください!』
女:『見事正解されれば、番組より素敵なプレゼントをさしあげまぁす!!』
男:『でももしも答えが不正解だったならぁ・・・・』
突然番組内の照明が落ちた。
男女:『おしおきタァァァァァィム!!!』
真っ赤なライトがセットを照らすと、ガァァァンとピアノを殴ったような効果音が響き渡った。
俺の喉がゴクリと音を立てた。
またも画面が明るくなると、司会者の間にはいつのまにか巨大な電話の形をしたレプリカが出現していた。
《プルルルルルルルルル・・・》
番組内に電話の発信音が響く。
俺はビクリと肩をすくめた。
俺の隣に置いてある携帯がけたたましく鳴り響いたのだ。
(本当にかかってきた・・・)
俺は震える手で携帯を拾った。
発信元の名前に「誰でSHOW!」と出ている。
誰からの着信かは明らかだった。
男:『そうです!そのまま電話に出てください!』
テレビの中で男がほらほらという風に手を振っている。
俺はフゥッと一度大きく息を吐くと、意を決して携帯の画面の受話器マークをスライドさせた。
男:『応答ありがとうございまぁぁぁぁす!!!』
あまりの音量に俺は思わず受話器から耳を離した。
今、あのスタジオとこの携帯が繋がっている・・・・
確信とともに緊張が走る。
男:『それでは早速吉田さんに問題です!』
テレビの画面と携帯から同時に男の声が聞こえる。
《ジャーラン!》
クイズの出題を告げる効果音ーー。
「ちょ・・ちょっとま・・」
俺は慌てて携帯に耳を近づけた。
男:『同じ学校に通う、カヤコちゃんとトシオ君は、運動会の日も、遠足の日も、音楽会の日も同じお弁当でした。さて、それはどんなお弁当だったでしょう!!』
問題文を必死で頭に叩き込む。
男女:『それでは、シンキングターーーーーイム!!!』
司会者二人の声と同時に、テレビに映し出された30秒のタイマーが動き出した。
《チッチッチッチッチッチッチッチ・・・》
予期せぬ難問に俺は目を白黒させた。
もしも正解できなかったら、おしおきタイムだと言っていた。
おしおきって・・・・一体どんなものなんだろうか・・・
俺はハッと我に返った。
(今はこんなこと考えてる場合じゃない・・問題に答えないと・・)
タイマーの針は20秒前を知らせていた。
(二人のお弁当が運動会も遠足も音楽会も一緒だった・・・三回とも一緒・・三回とも同じ・・・三度同じだった・・・・ん?)
俺は急いで携帯に向かって大声で叫んだ。
「サ・・サンドイッチ!!」
《ピピーーーーーーッ》
0を示したタイマーがけたたましく鳴り響いた。
男女:『・・・・・・・・・・大正解ーーーーーーーーーーーー!!!!』
豪華な音楽が鳴り響き、スタジオ内をカラフルな紙吹雪が舞った。
男:『二人のお弁当が三度、一致したのでサンドイッチ!いやぁ、素早くそして素晴らしい解答でした!』
観客から一斉に歓声が湧き起こった。
とりあえず一難を乗り越えた俺はふぅと胸を撫で下ろした。
(これでおしおきは・・・)
男:『では!約束通り、吉田さまには番組から特別賞として、その名も『スリラーナイト』をプレゼントします!!』
「ス、スリラーナイト?」
聞き覚えのない単語に、俺は思わず電話口に向かって尋ねた。
女:『そうです!『スリラーナイト』!その名の通り、特っっ別で超スリリングな夜をあなたにお届け致します!!』
「は・・はぁ・・」
俺はよく意味が分からず、とりあえず返事を返す。
よくよく考えれば、今となっては俺もこの奇妙な番組の雰囲気に飲み込まれ始めていた。
現にこの携帯ごしに相手と会話さえしてしまっている状態だ。
しかし、だんだんとこの状況に慣れてきていた俺の脳は、次に発する司会者の言葉で一瞬にして現実へと引き戻された。
男:『それでは吉田さま!到着まで今しばらくお待ちください!』
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・え?
「と、到着って・・到着ってどういうこと・・」
全く予期していなかったその二文字が俺の口から零れ落ちる。
男:『はい!あと数分でそちらに到着致しますので、その場で今しばらくお待ちください!最高の恐怖をぉぉぉぉ・・・・』
男女:『あなたに!!』
途端にその場に凍りついた。
(あと数分って・・・・今夜中だぞ!?それにその場でって・・ここに来るってことか・・?最高の恐怖って一体なにが起こるってんだ・・・)
様々な疑問が俺の頭の中に浮かんでは消えていく。
嫌な汗が背中を這った。
「いや・・いらなっ・・・」
ツーーーーーーーー・・・・・・
通話はすでに切られていた。
それと同時に違和感に気づく。
異常に静かなのだ。
俺はすぐに、それはさっきまでテレビから垂れ流されていた軽快な音楽が聞こえなくなっていたからだと理解した。
更に、司会者の二人をよく見ると、さっきまで二人がつけていた能面がいつの間にか般若の面へと付け替えられている。
俺はぎょっとした。
いままでの楽しげな雰囲気が一瞬にして何かおぞましいものへと変貌してゆく。
スタジオ内だけではなく、俺の部屋の空気までズシリと重くなっていくのを感じた。
(このままここで待っていては駄目だ・・・)
脳からの必死な危険信号を感じ取った俺は、携帯だけを持ってすぐに部屋から飛び出した。
アパートの少し錆付いた階段を一段飛ばしで駆け下りる。
俺はアパートから10メートル程離れると、塀の後ろに身を隠した。
ここからなら、部屋の様子を伺える。
俺は塀の後ろから少しだけ体を覗かせると、ここから見える自室の窓をじっと睨んだ。
異変が起きたのは、それからすぐのことだった。
部屋の明かりが点いたのだ。
自室にかけられたカーテン越しに光がぼんやりと漏れている。
「・・・・!!」
体の震えが止まらなかった。
部屋の明かりを受けたカーテンは、無数の人影に埋め尽くされていた。
「一体いま何人俺の部屋にいるってんだ・・・」
額にじわりと脂汗が滲む。
カーテンに映し出された無数の人影は、俺の部屋の中をただひたすらに動き回っていた。
きっと俺のことを探しているのだろうと悟った。
俺は改めていま自分の置かれている状況の危なさを理解した。
と同時にさっきまでとは比べ物にならない程の不安と緊張が俺を包み込んだ。
(これからどうすれば・・とりあえず警察よぶべきなのか・・・)
俺は手に持っていた携帯に目を移した。
これまでじっと握り締めていた携帯は、手汗でじっとりと湿っていた。
警察の番号を押そうと画面を表示させるも、あまりに手が震えてうまく押せない。
「くそっ・・くそったかが3桁じゃねえかよ・・・」
こんなときに限って冷静になれない自分に苛立ちながらも、ゆっくりと1桁ずつ番号を入力した。
「1・・・・1・・・・0・・よし!」
俺はすぐさま携帯を耳へと運ぶ。
呼び出し音が1回と鳴らない内に繋がった。
警察:「はい、どうかなさいましたか?」
俺は慌てて叫んだ。
「あ、助けてください!俺の・・・俺の部屋に知らないやつらが入り込んでて・・・テレビが俺を主役に選んで・・・それで能面が・・」
自分でも何を言っているのか分からなかった。
とにかくいかに俺が助けを必要としているのかを相手に知らせたかった。
警察:「大丈夫です、落ち着いて。もう一度内容をはっきりとお願いします。」
「だから俺の部屋に知らないやつが入ってきてて・・・とにかく助けてください!」
初め、俺は警察が俺の言っていることが理解できずに、聞き返したのだとばかり思っていた。
警察:「・・・・・すみません、パニックになっているのは分かります。もう一度おねが・・すみません、一度あなたの周りの人たちを静かにさせてもらえますか、焦る気持ちはわかります。」
俺は携帯を耳に付けたまま固まった。
・・・・・周りの人たちって・・・・?
警察:「もしもし?どうかなさいましたか?すぐにそちらに向かいます。お名前と住所を・・もしもし?」
耳元で話しているはずの警察の声が遠くに聞こえる。
俺は恐怖でだんだんと視界がぼやけていくのを感じた。
「・・・うぉああああ!」
俺は覚悟を決め、大声で叫びながら後ろを振り返った。
誰もいなかった。
警察の言った「周りの人たち」に該当するものは愚か、俺の周りには人ひとりとして歩いていない。
俺は静かに携帯を下ろした。
携帯からは、警察が一生懸命こちらに問いかける声が漏れていた。
そんなのどうでも良かった。
俺はただ呆然とその場に立ち尽くした。
俺の自室に浮かび上がっていた人影は、今やもうただの影ではなくなっていた。
カーテンを開けて、じっとこちらを見ていたのだ。
膝がガクガクと震えているのが分かった。
窓からじっとこちらを見つめるそいつらは、人型ではあるが、あきらかに人とは違った。
全身が真っ白なのだ。
服は着ておらず、頭にも、足にも毛は全く生えていない。性器もない。
男か女なのかも分からない。
まるで全身が青白い皮膚で覆われているかのような・・・
けれど何よりも恐ろしいのは、そいつらの顔だった。
目は窪み、まるで真っ暗で深い穴のようだ。
鼻の部分にはただ二つの小さな穴が開いているだけ。
そして口は耳のところまで大きく裂けていた。
この時ほど自分の目の良さを恨んだことはなかった。
俺は何を思ったのか、急いで塀の後ろに背中を貼り付けた。
今更隠れて何になるというのか。
俺はもう一度塀の影から自室の窓を伺った。
「あ・・・」
思わず口から声が漏れた。
明かりが点き、カーテンが開け放たれた俺の部屋には、何も、誰一人いなくなていた。
これが何を意味するのか、俺はすぐに察しがついた。
逃げようとアパートに背を向けたとき、目の前にパトカーが停まっていた。
あまりの衝撃に俺は思わずその場にしりもちをついた。
「早く乗ってください!」
恐怖や焦りで我を失っていた俺は、運転席から顔を出した警察官に言われるがまま、パトカーの後部座席に乗り込んだ。
俺が乗ったことを確認するや否や、パトカーは猛スピードでその場から急発進した。
俺は後部座席から、さっきまで俺がいたところを振り返った。
「ひっ・・・」
俺の自室にいたあいつらが塀の前で、遠のいていくパトカーに乗った俺ををじっと見つめていた。
(間一髪だった・・・)
「あの・・ありがとうございました。おかげで助かりました。」
俺はほっと胸を撫で下ろしながら、前で運転する警察官の背中に向かってお礼を言った。
「いえいえ、無事で何よりでした。で、どうでした?」
「え?何がですか?」
思わぬ問いかけに俺は怪訝そうに聞き返した。
「・・・・怖かったですか?」
警察官が背中で問いかけてくる。
俺は、頭の中で次第に膨らんでいく不安を必死で抑えた。
思えば、パトカーがサイレンも鳴らさずに俺の後ろで静かに待っているなんてあり得ることなのだろうか・・・
不安がだんだんと確信へと変わっていく。
「怖かったですかぁぁぁぁぁ!?」
突然警察官が大声で怒鳴った。
俺はビクッと肩を震わせた。
「だ・・・・だからなにが・・・」
ジワジワと涙がこみ上げてくる。
「・・・・・・・・・・・・・さっきのやつですよ。」
そう言うと同時に警察官がこちらを振り返った。
真っ白な皮膚に覆われ、目は真っ黒に窪んでいた。
「ぎゃああああぁぁぁぁ!」
パトカーはそのまま目の前のガードレールへと突っ込んだ。
ーーーーーーー
ーーーーーー
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
ー
「うぅ・・・」
ゆっくりと目を開けると、天井にいくつもの照明が見えた。
あまりの眩しさに俺は顔をしかめた。
(スタジオ・・・?)
その場に立ち上がろうと体に力を入れたその時、
突然回りで拍手と歓声が湧き起こった。
ワァァァァァァァ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチ
顔を上げると、すぐ目の前に般若の面があった。
「うわっ」
思わず後ろに飛び退いた。
男:「お目覚めですね!吉田さま!」
般若の内の一人が俺に話しかける。
俺が部屋で見た番組の男の司会者の声だった。
「お・・・俺は・・・」
まだ混乱した頭の整理がつかず、なかなか次の言葉が出てこない。
ワァァァァァァァァ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチ
拍手はまだ鳴り止まない。
俺は周りを見渡した。
「え・・・」
観客席に座っている観客は、すべてマネキンだった。
それぞれが腕や首をあらゆる方向に向けて客席にただ置かれている。
そのあまりの量に俺は息を呑んだ。
観客から発せられていると思っていた歓声と拍手が、客席の下の大きなスピーカーから流れている。
周りで録画を続けているカメラの後ろにも、カメラマンの代わりにマネキンが添えられていた。
「なんだよ・・・これ・・」
俺が後ろに数歩後ずさった瞬間、
男女:「これにてスリラーナイト、しゅーーーーーーーーりょーーーーーーーーー!!!!」
スタジオの照明がバツンと落ちた。
辺りは一気に闇に包まれる。
「おい・・おい・・何も見えねえよ、早くここから出せよ!」
俺は大きな声で叫びながら、ぶんぶんと腕を振り回す。
だが、俺の腕はむなしく空をきるだけだった。
方向感覚を失い、俺はその場にしゃがみこんだ。
物音一つしない・・・。
さっきまでの拍手も歓声も、司会者の声も、何も聞こえなかった。
真っ暗で何も見えない。
「誰か・・・・・俺をここから・・・・おーーーい!誰かいねぇのかよ!!」
誰の返事もなかった。
それどころか、自分の声の反響も返ってこない。
壁が・・・ない・・・
それは途方にくれるほどの、この部屋の広さを物語っていた。
俺の目の前に広がるのは、ただ永遠に続く闇の世界だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
{現在行方不明の、吉田俊彦さん(25)の捜索が始まり、今日で10日が経ちますが、未だなんの手がかりも掴めておらず、警察は市民からの情報提供を求めています。またーーー}
男はそこでテレビの電源を切った。
「男一人消えたくらいで、いちいち大騒ぎしやがって・・」
男は冷蔵庫を開けて、缶ビールを取り出すと、グビグビと喉へ流し込んだ。
時計の針は深夜の2時を回っていた。
きっと番組もあのニュースが最後だろう。
男は缶ビールを片手に、ソファに腰掛ける。
そのとき、目の前のテレビの電源が音もなく入った。
「な・・リモコンの上にでも座ったかぁ?」
男が腰を上げようとしたその時、
『THE・今夜は誰でSHOOOOOOOOOOW!!!!』
男女の声と共に、軽快な音楽が大音量でテレビから流れた。
男が呆気にとられているのを尻目に、司会者はどんどんと番組を進めていく。
男:『さぁて、今夜は誰が主役かなぁぁ?』
《ダラララララララララララララララララララララ・・・》
男司会者の隣で女の司会者が懸命に舌を鳴らしている。
男:『この人です!!』
「・・・・な!?」
男は画面に映し出された自分を見て、素っ頓狂な声をあげた。
女:『しかも今夜は出張スペシャルですよね!』
男:『そうなんです!あなたのお家へ私たちが突撃訪問しちゃいますよ!それでは、今夜も最高の恐怖を・・・・・・・・』
ー
ー
ー
ー
男女:「あなたに!!」
男の室内から二人の声が響き渡った。
作者籠月
今回は怖さよりもユーモア重視で書いていますので、楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
こちらはノリノリで一気に書いてしまったので、果たしてきちんとした読み物になっているのか不安ですが、よかったらお付き合いください。
誤字、脱字等ありましたら、遠慮なくご指摘お願いします。