俺達は近くの廃病院へ肝試しに行った。
近くのと言っても車で20分程はかかる。
メンバーは、隆(たかし)、圭太(けいた)、傑(すぐる)、俺の四人だった。
人数分の懐中電灯を買い、隆が何か映るかもしれないからと言い自宅からビデオカメラを持ってきた。
携帯でいいじゃないかと言うと、ビデオカメラの方が雰囲気があるからこっちの方がいいんだと。
そして、俺の運転で廃病院へと向かった。
流石に夜の病院となると男四人でも怖い。
廃れた感じがより一層不気味さを醸し出している。
女の子がいれば和むのだが、残念ながら俺たちにはそんな当てがない。
まあそんなこんなで、正面玄関から中へと入る。
中は枯葉や木の枝、小動物の糞みたいなものが散乱しておりまさに廃病院と化していた。
『うお〜不気味だな。』
隆がそう言いながらビデオを回す。
『まずどこ行く?』
俺が三人に問いかける。
少し話し合った後、手術室へ行くことになった。
手術室に行こうにもどこにあるか分からない為、色んな部屋を見て回った。
そうしている内に手術室も見つけ特に何事もなく時間は過ぎていった。
最後に病室を何部屋か見て帰ろうかということになった。
天井からは朽ち果てた看板がかろうじてぶら下がっている。
どうやら今から行く病室は小児科らしい。
『おいっ、アレ。』
そう言って圭太が指差した先には人形が転がっていた。
よく小さい女の子が持っているような着せ替え人形のようなものだった。
隆はちゃっかりビデオでその人形を撮っていた。
『ここ何かいるんじゃねえの?』
傑が楽しそうにそう言った。
怖い話のパターン的にここで何か映るというのがお決まりだがただの人形しか映らなかった。
そろそろ帰ろうかということになり、出口へと向かった。
『先行ってて、靴紐解けた。』
そう言って隆はしゃがみ込んだ。
『おっけー。』
靴紐を結ぶなんて数十秒もかからないだろう。
俺と圭太と傑は廊下を真っ直ぐ歩き、突き当たり右手にある階段を降りようとしていた。
『おーい、降りるぞ隆。』
傑が懐中電灯で隆のいた辺りを照らす。
うっすらと隆がいることが確認できた。
『一人になって泣くなよー。』
圭太がからかう。
『待っとくか?もし何かあったら…』
もし何かあったらまずくないか?と聞こうとした途中で圭太に止められた。
(いや、ここに隠れて隆のやつ脅かしてやろうぜ。)
圭太が小声で俺と傑に話しかける。
面白そうなのでのることにした。
『隆、先行くわー。』
俺達は、隆に聞こえるよう足音を大きく立て階段を降りていった。
そして、ある程度降りたとこでひっそりと足音を立てないように戻った。
後は壁の角に隠れ、隆を待つだけ。
タッタッタッ…
『ワッ!』
『うおっ!っっ?』
期待通りの隆のリアクションに俺と圭太は笑った。
『脅かすなよな〜。じゃあさっきのズルズル這ってくるような音もお前らだよな?』
俺と圭太の笑いは止まった。
『いやー、聞き間違えじゃねえの?』
『確かに聞こえたけど…』
『ん?何やってんだ?』
傑が隆が走ってきた廊下を懐中電灯で照らしていた。
さっきまでは何かあったら面白いのにと思う半面、何事もなかったらいいのにと矛盾した考えを持っていた。
しかし、傑の言葉で今は完全に何事もなかったらいいのにと思っている。
『今、なんかいたような…』
懐中電灯で廊下を照らすが何もいない。
『ビビらせんなよ、見間違いじゃないか?』
うーん、と傑は納得のいかない表情をしている。
『まっ、車に戻るか。』
そこから全員少し早歩きになっている気がした。
車に乗り込み、エンジンをかけようとした。
ヴヴヴヴヴ…
エンジンがかからない。
『おい、もしかしてエンジンかからねえの?』
『そうみたい。』
後部座席に乗っていた圭太に振り向きながら言う。
ゆらゆらと車の後ろに白い布切れが飛んでいた。
それが風に乗って近づいてくる。
段々、段々とそれは確実に車の方へ近づいていた。
『あれって布だよな?』
……。
少しの沈黙の後、絶叫が狭い車の中で飛び交った。
『バカヤロー!早く車出せ!』
『どう見てもヤバい奴じゃねえか!!』
『近づいて来るぞ!』
あり得ない方向に手や足が折れ曲がった女がカクカクと奇妙な動きをしながら近づいていた。
しかし、エンジンはかからない。
俺たちは完全にパニックになった。
……なんて事もなく、エンジンは普通にかかった。
。
このまま帰るのもつまらないので、圭太の家で酒でも飲みながら隆が撮っていたビデオ鑑賞ということになった。
そして何事もなく圭太の家へと向かった。
ビデオを見始めて人形があった場面へとなった。
『ズ…ル…ズ……ズル。』
突然何か這うような音が聞こえてきた。
こんな音はあの場所にいた時には全員聞いていなかった。
『これ、靴紐を結んでいた時に聞こえた音だ。』
隆が言った。
『おい!ベットの下!!』
傑が指差した場所に女の子の様なものが、ベットの下から這いずり出ようとしていた。
皮膚は血の気がなく真っ白で、目は黒く窪んでいた。
そこで、画面が違う場所へと移った。
明らかにこの世のものではなかった。
『マジかよ、怖えぇー。』
『お祓い行っとくか。』
俺たちはバカだ。
何かあってからでは遅いのだ。
酒もはいっていたせいか、俺と圭太と傑はビビりながらも初めての霊体験に少し興奮気味だった。
そう隆を除いて…。
『どうしたんだよ、隆。』
隆は青ざめた顔で何か思いつめた顔をしている。
『なあ…俺をビデオカメラで撮ってみてくれないか?』
言われるがままにビデオで隆を映す。
そこには隆と本来"映るはずのないモノ"が映っていた。
先ほどのビデオで見たベットの下から這っていた女の子が隆の後ろから抱きつく格好でいた。
『なあ、俺の後ろに何かいないか?!』
俺たちはどう言えばいいか分からなかった。
女の子は目玉のない黒い穴をグニャリと曲げて笑った。
作者natu