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「神山さん.....大丈夫かな...?」
丸山が、前田の背中でグッタリと気を失っている神山を見ながら、ふと呟いた。
痛々しい手足。
通常ではあり得ない方向へ折れ曲がり、ダランとした腕のYシャツの裾には、血と砂が混じった赤黒い染みが付着していた。
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「......あぁ、今のところ....はな。」
丸山の発言から数秒の間を置き、前田が静かに答えた。
そして、重たそうな背中の神山を一度持ち直し、腕の裾で額の汗を拭き取った。
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「.....で、その五つ目の祠の場所は分かんのか?」
そう聞かれ、一瞬考える素振りを見せた丸山だったが、おおよその検討はついている。
夢で見た、あの本家の隠し階段。
そこから繋がる地下に祠がある可能性は充分に高い。
それでも、もし仮に違っていた時の保険をかけるように、丸山は少し曖昧に返事をした。
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「.....恐らく...な。」
その自信の無さげな丸山の発言に前田は少し眉を寄せたが、「.....そうか。」と答えた。
他の屋敷の並びから少し外れた所にある「本家」の屋敷。
玄関には、月日の経過をあまり感じさせない程の立派な「姪黒 千影」と書かれた表札。
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「せん.....えい.......?」
「......馬鹿か、「ちえ」だろ。」
丸山の発言にすぐさまツッコミを入れた前田は、つくづく呆れたようにはぁ.....と溜息を付いた。
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「まぁ、恐らくあの儀式の中央にいたババアの本名だろうな。
もし俺がくたばったら、真っ先にあの世にいるこのクソババアをブン殴りに行くぜ。
全ての元凶だからな。」
前田は、そう言うとペッと表札に向けて唾を吐き捨てた。
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「......同感だ。」
その様子を横目に見つつ、丸山もボソリと呟いたのだったーー。
*************
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ガララララ.....
玄関の大きな引き戸を開け、三人は屋敷へ入った。
玄関の横には、あのテープに映っていた「神山接骨医院」のカレンダーが、大量の埃をまとって掛けられていた。
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正面左奥の襖を開ければ、あの儀式部屋がある。
丸山の脳裏には、夢で見たあの恐ろしいシーンがよぎる。
階段を降り、あの少女が地下から上がってくるあの恐ろしい恐怖がまた訪れるのでは?
.....そんな事を考えていた。
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「あの左奥のとこだっけか?」
「.....あ、あぁ。」
丸山の心の準備などお構い無しに、前田がスタスタと部屋の襖を開けた。
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shake
バンッ!!
前田が力任せに開けたせいで、襖が大きな音を鳴らして開く。
部屋には、夢同様の光景が広がっていた。
ただ、やはりここは現実であり、神山が言っていたあの六人が実際に殺害された空間に他ならない。
夢とは違い、床に敷かれた畳には、当時のものと思われる茶色い染みが大量に付着していた。
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そのおびただしい量の血痕の跡が、神山があの時どれほどおぞましい体験をしたのかを物語っている。
窓や家具に至るまで、隅々に付着する血痕。
視界が若干歪んでいるせいもあり、丸山にはそのシミが徐々に少女の「顔」に見えてくる気がした。
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「おいっ、ボサッとしてねぇで早くこの台どかせ。
こっちは手が塞がってんだよ!!」
重たそうな神山を背負いながら、前田が丸山を睨んで怒鳴った。
その声に慌てたように、丸山は中央に置かれた台を退かした。
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「......うぉ...。
ここに入んのかよ...。」
思わず前田が弱々しく呟いた。
珍しいこともあったものだ。
前田がそんな弱気な声を出すなんて.....。
いや、実際当然といえば当然だろう。
夢で見た時とは違い、地下への階段は月日の経過で更に不気味さを増していたからだ。
ましてや、部屋中血痕だらけのこの空間にあるのだ。
丸山に至っては一度夢で見ているにも関わらず、顔が相当引きつってしまっていた。
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「...なにビビってんだよっ!
お前は一回見た光景だろうが!
.....おら、早く行け。」
「えっ!?
お.....俺から.......?」
「......ったりめーだろっ!
両手塞がってんのにどうやって前照らすんだよ!!!」
「う、、確かに.....。」
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ガクッと肩を落とした丸山は、しぶしぶ先に降りることにした。
前田の懐中電灯を含めた二つの明かりを手にし、足元と行く先を照らす。
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(....うぁっ....!?)
地下へ続く真っ暗な空間を照らすと、壁に張り付いていたゴキブリやカマドウマ達が光に驚き動いた。
湿気を含み、外敵のいない地下への階段は、彼らにとっての最高の住処となっているようだ。
......そして、丸山は虫が苦手だった。
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「あぁ.....まさに地獄だ....。」
丸山は、少女への恐怖と虫への恐怖が入り混じった複雑な心境で、ゆっくりと階段を降りていくのだったーー。
*************
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ギシ....
ギシ..........
木造の階段は、夢の時同様不気味に軋む音を響かせる。
だが、現実では「少女」は現れず、何なく地下へ辿りついた。
階段を降りた先には、腐りかけた木製の引き戸。
そして、丸山は慎重にその戸を開けた。
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shake
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「!!!!!!!」
.......大きな赤い祠だ。
その周りを囲むように、真っ赤な蝋燭がズラリと並べられていた。
そして、その祠の中央には四角い木箱が置かれている。
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......だが、その木箱は今までの物とは少し違っていた。
中央に奇妙な穴が五つ空いており、箱にはビッシリと文字が印されている。
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「何だろう....?」
丸山と前田は、木箱のある大きな祠へ慎重に近づいた。
そして、木箱を取ろうとしたのだが.....。
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「何だよこれ.....?
う、動かせないっ....!?」
何故か、その箱は動かそうとするもののビクともしない。
どうやら、この木箱には特殊な封印がかけられているようだ。
大きさから察するに、恐らく中身はあの「首」で間違いないだろう。
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......そして、五つの奇妙な空いた穴。
穴はひし型に四つ、そして中央に一つ空いている。
それぞれの穴の形は若干異なるが、ほぼ円形だ。
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「まじかよ......。
時間ねぇのにこう来るとはよぉ。
めんどくせぇ封印の仕方しやがって、宮坂勇樹とかいう野郎.....。」
「で、でも解除しなきゃどうしようもない。
何か.....何かヒントになるものないかっ!?」
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丸山は、必死に祠の周りを探してみたが、それらしいものは見つからなかった。
暫く二人はその場で考えたが、ヒントがない以上自力で答えを導くには果てしない時間が必要だ。
......だがその時、ふと丸山が発した言葉が後に答えを導くことになる。
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「......何で、こんな複雑な封印じゃなきゃダメだったんだろう......。」
それを聞いた前田が、ハッとしたような表情を見せた。
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「待てよ....?
確かに、この封印の仕方は結構複雑だ。
だが、この封印を行ったのは自殺した宮坂勇樹だよな?」
「あ、あぁ.....。」
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「死ぬ前に何故こんな複雑な封印を行う必要があったのか?
それは、間違いなく「この封印法で無ければならなかった」からに他ならないだろ。
.....つーことは、だ。
古文書には確かに封印法が書かれていたが、大まかにしか書かれていなかった。
もしかしたら、封印について書かれた書物が別にあるのかもしれねぇ.....。
そう思わないか?」
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確かに、古文書に書かれた封印法はバラバラにした身体を別々に封印するとしか書かれていない。
具体的な順序、方法については記載されていなかった。
だが......。
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「で、でもよ。
宮坂勇樹が単に覚えていただけってことは有り得ないか?
一応、姪黒家とは身内なんだしさ。」
「.....いや、それはねぇよ。」
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丸山の質問に、前田はアッサリと否定した。
そのあまりの拒否の早さにムッとなった丸山は、声を少し荒げた。
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「な、何でそんなこと言えんだよっ!?
有り得るかもしれないじゃねぇか!!」
そんな丸山を細目で冷たく見ていた前田は、ゆっくりと座りながら「仕方ないなぁ。」と言わんばかりの表情で返答した。
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「あのなぁ.....。
姪黒家は、代々赤神の封印を行ってきたが、この完全なる封印の儀式は始めて行ったんだろ?
更に、正式な姪黒家の連中とは違って宮坂勇樹は儀式にも参加していない。
つまりは「除外」されてる身内ってことだろう。
そんな男が、封印法の詳細まで把握している訳がないし、何より忘れたのか?
お前が見つけた宮坂勇樹の日記の中に、奴はババアから儀式内容を聞いたと言っていた。
儀式に参加しない宮坂勇樹にババアが事細かく「封印の詳細」を教える訳がねぇ。
......とまぁ、これが理由だよ。
ご納得いただけましたかね?」
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「な.....成る程、な。」
前田の頭の回転には、つくづく劣等感を感じてしまう。
だが、丸山は悪い気はしなかった。
心ではわかっているからだ。
前田には敵わない....と。
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「でも、その詳細の書かれた書物があるとして、それって何処にあるんだろう。
......宮坂家かな?」
丸山がそう言うと、ふふんと鼻を鳴らした前田が、かけてもいない眼鏡を上げるフリをしながら答えた。
......その時、背中に背負っていた神山が落ちそうになった。
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「ふっ.....。
この見た目はイケメン、頭脳はアインシュタイン、その名は名探偵マエダンによるとだなぁ。
そいつぁーこの屋敷にあるだろうな。」
......当然、丸山は前田のつまらないボケをスルーした。
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「.....その根拠って何だよ?」
「.....ちっ。
あぁ、これも根拠っつーか単なる推理になっちまうんだが.....。
宮坂勇樹は、ここでガキの遺体を発見したろ?
そんで封印することを決めた。
だが古文書に詳細が載っていないことに気づいた奴は、当然ババアが詳細を知っていると思うわけだ。
でもババア達姪黒家の連中は皆くたばってる。
......普通ならどうする?」
「.....婆さんの荷物を探る.....かな?」
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前田はパチンと指を鳴らし、人差し指を立ててニヤッと笑った。
「そう!
そしてこの家の何処かにあったババアの書物で封印の詳細を知り、実行したと考えるわけだ。
急いで封印しなきゃいけない時に、わざわざ書物を自宅に持ち帰って読む馬鹿はいないだろう?
......真実はいつも一つ!ってか。」
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丸山は終始前田のボケには反応しなかったが、その推理自体には納得がいった。
....だが、一つ引っかかる。
丸山は一度、この屋敷の隅々まで「祠探し」の時に見ているのだ。
夢は時間の経過以外は全て現実と変わらない。
そのような書物が保管されていた部屋があった記憶がない。
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「......俺、この家の隅々まで確認したけど、書物が保管されていそうな部屋はここの上の「儀式部屋」を除いて無かったと思うぞ....?」
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「.....っそか。
じゃあお前が見落としただけだ。
こうして地下への隠し扉があったんだから、他にも隠された部屋があったって変じゃない。
.....とりあえず探すぞ。」
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前田は、もう一度背負った神山を「重ぇ。」と愚痴りながら持ち直した。
そして、二人は「儀式部屋」へと階段を戻ったのだったーー。
*************
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「....とりあえずよぉ、人間隠したい物は手元に置きたくなるもんだ。
ババアの部屋らしきとこがねぇか探すぞ。」
前田は、そう言うと玄関前の廊下に神山を降ろした。
「くぁーっ....!」と全身を伸ばし、首を左右にバキボキと鳴らした。
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「流石に俺の腕も限界だ。
オッサンには悪りぃが、ここにちょっと寝かしとく。
まぁ同じ家にいるわけだし、ちょくちょく確認すりゃ大丈夫だろ!」
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前田はニコッと丸山に微笑んだ。
実際この男は何の根拠があって言っているのだろうか。
だが、自分には神山を背負って家中を探す筋力も体力も精神力も残っていないこともあり、丸山は何も言わなかった。
そして、二人は「本家」の大きな屋敷内を捜索し始めたのだったーー。
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......探し始めてから30分程経った。
もう既に屋敷の至る部屋を確認したが、どれほど探しても書物も隠し部屋も見つからない。
珍しく前田の推理が外れたのだろうか?
そもそも、姪黒千影の部屋すらも見当たらないが.....。
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「くそっ、何処にもない....。」
丸山は正面右奥にある小さな部屋にいた。
部屋の天井には一つの白熱球がぶら下がっている。
そのちょうど真下辺りで、埃だらけの床に座りペットボトルの水を一口飲んだ。
前田も屋敷中を探したものの、見つからなかったようだ。
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前田は自分の推理が間違っているかもしれない現状に少しふてくされた様子だったが、諦めきれないようで部屋を這うようにして探し回っている。
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「.....もう宮坂家の方をあたってみようぜ。」
前田の様子を見ていた丸山が、水の入ったペットボトルの蓋を締めながら言った。
ところが、その時前田の動きがピタッと止まる。
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「.......丸山、これ見てみろ。」
前田は部屋の壁際にある柱の下の方を見ながら、丸山に「こっちに来い。」と手招きした。
丸山が柱を見ると、そこにはあの「ひし形の四つの穴と、その中央に一つの穴」があったのだ。
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「お....おい、これって....!」
「あぁ。
あの封印された木箱に印されていたものに似てるよなぁ...。
それとよ、このマーク何を表してるか分かるか?」
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「何って......
お前、分かんのかよ?」
丸山も前田も、人生で始めて見たこのマーク。
それが何を表しているのか、当然分かるはずないと丸山は思った。
だが、前田には心当たりがあったのだ。
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「こいつぁー恐らく、「赤神」を表す印だ。
お前、覚えてるか?
神山のオッサンが話してた過去の、少女が言ったセリフをよ。
「首の後ろに、四つのひし形の赤いホクロがある」。
そして、それは「赤神に呪われた証拠」だと。
.....偶然じゃねぇ、これは必ず何か意味があってここに彫られてるはすだ。」
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丸山の頭に、神山の過去のセリフがよみがえる。
そうだ、確かにあの少女はそう言っていた。
「....見ろよ、同じような印がこことあそこと、あそこにもある。」
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見ると、それらは東西南北の方向に一つずつ彫られている。
それらを結べば、ちょうどひし形になるようにして.....。
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「......そして、この四つ穴の真ん中の穴。
これは、この部屋の真ん中を指してるんじゃねぇか?」
ハッとしたように、丸山は部屋の中央の床を這うように見た。
....が、四つん這いになっていた丸山のお尻を前田が足でチョンと蹴った。
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「床には何もねぇよ、さっき俺が血眼になって探したからな。
.....そこじゃねぇ、ここだ。」
前田が指差した先には、ぶら下がった一つの白熱球。
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「ここ、よく見てみろよ。
変だと思わねぇか?」
shake
「......あっ!!」
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前田の言った「変」な場所は、白熱球では無く、それを支えるコードの部分だった。
通常一本しかない筈のコードは、複数のコードで絡まるように何重にも巻かれ、太いのだ。
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「何で太くする必要があるのか....?
簡単だ、引っ張っても大丈夫なように....だよ!!」
そう言った前田が、ぶら下がった白熱球のコードを下へ引っ張った。
.....と同時に、部屋の隅の天井から
shake
ガタンッという音と共に小さなハシゴが落ちてきた。
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「....こ、こういうカラクリかっ....!!」
探しても見つからないわけだ。
「それ」は屋根裏にあったのだから。
二人は、天井から伸びた小さなハシゴを慎重に登り、屋根裏をライトで照らした。
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すると、そこには一本の巻物のようなものがあった。
「.....ビンゴ!!!」
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二人はハモるように言った。
そして、それを下に降ろし、慎重に開いて見る。
「これは....。
村の地図か....!!」
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そこには、村の全体図と見られる地図が書かれていた。
どうやら、封印の詳細では無いようだが....。
「へっへへ....!
望んでいた代物とはちげぇが....。
全然いいぜ、これで分かったよ。」
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丸山の頭の上には、大きなクエスチョンマークが浮かんでいた。
何が分かったのだろうか。
たかだか村の地図で...。
「....よく見てみろよ、この地図を。」
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丸山は、前田の言う通りじっくりと地図を見た。
木々に囲まれた村の中に十数棟の屋敷、森の祠の場所も書かれている。
....すると、丸山はあることに気づいた。
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「そ、そういうことだったのか...!!」
.....そう、今まで丸山達が見つけてきた「少女の身体」。
それらが置かれていた祠は、北の森の中に一つ、南の屋敷に一つ、東に位置する宮坂家の屋敷に一つ、そして村の中央にある先程行った四つ目の屋敷に一つ。
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......つまり、上から見て初めて分かったのだ。
それらが「赤神」の印の形に納められていたことが.....。
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そして、残り一つは西の祠だ。
そこには、丸山がすっかり忘れていた「赤神トンネル」の名前があった。
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「なんだ?
この赤神トンネル....てのは?
.....お前、こんなんあるの知ってたか?」
「.....わ、悪い。
すっかり忘れていた。」
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それを聞いた前田の眉が、徐々にハの字になったと思った瞬間、丸山の頭に強烈な張り手が襲った。
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shake
「アホかよ!!!
いかにもな場所じゃねーか!!!!
夢で何でここを確認しなかったんだよ??」
「....い、いや、確認しようとはしたんだよ...!
でも、入ろうとした時に儀式のシーンになっちゃってさ。
.....それ以降、忘れてました。。」
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パチリと前田が自分の両目を手の平で抑え、呆れ切った様子を浮かべた。
だが、流石に丸山もこれは仕方ないと思った。
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「......まぁ、いい。
実際はこの屋敷の隠し階段の方が見つけづらいからな。
あそこを見つけただけでも、良しとしなきゃか....。
....問題はあの封印の穴なんだが.....。」
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「そ、そうだ。
それが分からなきゃ話が進まねーだろ!!」
確かに、祠の位置を示す地図だけでは不十分だった。
だが、前田は得意気な表情を見せている。
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「.....あぁ、ありゃあ恐らく穴に何かをセットして意味を成すもんだろ?
で、その「何か」だが....。
おおよその検討は付いてる。」
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「なっ......!
ほ、本当かよ!!
それって....?
「何か」って何だよ!!?」
「.......それは知らん。」
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....何?
今、こいつは知らんと言ったか。
正直、そんな冗談を言い合う時間はない。
もし分かってて言った冗談なら、丸山にも前田を殴る権利があるんじゃないか?
.....そんなことを考えていたが、ポカンとする丸山を余所に前田は続けた。
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「まぁ聞けよ。
知らんっつーのは、あの穴に何を入れるのかは分からんという意味だ。
.....俺が検討ついているのは、その何かがある場所だよ。」
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それを聞き、丸山にもピーンと来た。
封印の祠が、あの印にそってあったということは.....
「.....あの封印の祠のどこかにその「何か」もあったってことか!?」
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「....いや、半分正解だが半分ハズレだな。
確かに「何か」のあった場所は各封印の祠だろう。
だが、今は違う....。」
前田はそこまで言うと、丸山に答えを言わせるようにして黙った。
祠にはあったが今は無い....?
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「お、おい.....まさか....?
......少女の一部の中....とか言わないよな....?」
パチンと前田が指を鳴らした。
そして、集めてきた「木箱」を親指で指差し、丸山にクイっと合図を出した。
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「う、嘘だろ.....?
お、お、俺にその少女の一部の中を確認しろってのか....!?」
「あぁ、そうだ。
....まぁ流石に俺も手伝うがな。」
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そう言うと、前田は木箱の一つを取り出し、蓋を開けた。
中には腐臭漂う生々しい「右手首」と、それを宿にするウジ虫の群れ。
前田は鞄から手袋を取り出し、そして少女の一部を手に取った。
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「うぇ.....。」
丸山は、その光景を見るだけでも吐き気が襲った。
手袋をしているとはいえ、とても丸山には出来ない芸当だ。
前田は、手に取った「右手首」をグニグニと親指で押した。
押す度に、肉や骨の間からウジや赤黒いドロっとしたものが外へ押し出されている。
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丸山の胃にあるものが喉元まで押し寄せてくる。
胃酸で喉から胸あたりがムカムカと焼けた。
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(....何でコイツは平然とやってんだよ....!!)
丸山が睨みつけると、前田はちょうど手の甲へ差し掛かった辺りで動きを止めた。
そして、同時にニヤッと口の端を上げた。
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sound:18
「.....あったぜ。」
前田は少女の右手の甲に少し指を突っ込み、丸い数珠のようなものを取り出した。
そして、赤黒い液体の付着した一つの「数珠」を手に持ち、ドヤ顔をしてみせた。
だが、なぜ前田は少女の一部の中にあることが分かったのだろう。
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「....す、すげぇけどよ。
なんで分かったんだ?
少女の一部の中にあることを...。」
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「....まぁ、少し考えりゃ分かることだ。
これら「一部」達は木箱に保管され、封印を施されていた。
つまり、俺らのように故意的に解除をしなければ、最も安全な場所と言っていい。
この「数珠」を無くす訳にはいかねぇだろう?
仮に各屋敷に保管した場合、なにかしらの理由で紛失する可能性が高い。
なら、いっそ封印する遺体と一緒に納めた方が確実だ。
木箱の中にそれらしいもんは無かったからな、後は「一部」の中しかあり得ない.....。
そう踏んだわけ!分かった?」
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丸山は、この時なぜ前田が「探偵」を職業にしていないのか分からなくなる程の感動を覚えた。
手にウジと赤黒い液体を付着させながら微笑む気味の悪ささえなければ、丸山はもし自分が女だったら前田と結婚したいかも、とさえ思った程だった。
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ーーそして、「各一部」からはそれぞれ異なった形の数珠が一つずつ、計四つ発見された。
......当然、終始丸山は作業を手伝うことはなかった。
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丸山は、気味が悪いので水でそれらを一度洗い、内胸ポケットへしまった。
「次は.....トンネルだな。」
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前田は、今だ意識を戻さない神山を背負った。
そして重そうに背中に担ぐと、丸山への皮肉を込めて、一言「重ぇな、くそ。」と吐き捨てた。
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あまりの頼り甲斐に、すっかり丸山は前田へ心酔しそうになっていた。
.....が、屋敷を出る際に前田の尻から出た「ブッ」という音に、ハッとしたように我に帰った。
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そして、二人は村の西側にある「赤神トンネル」へと向かうのだったーー。
続く
作者鳴終魏-NAOKI-
このお話は、以前投稿させていただきました、
「赤い村-目眩-」
の続編になります。
毎回たくさんのご声援に、心から感謝を申し上げます。
とても嬉しく思っております^_^
皆様の「怖い」を糧に、ここまで書くことが出来ました。
次回で、最終話となります。
どうぞ、最後までお付き合い願えれば幸いです。
宜しくお願い致します^_^