成績が悪いということで、強制的に塾に通わされた。
反駁する語彙がまったく見つからず、ただ押し黙って説教を聞く破目になった。
塾の帰り道。2時間という時が終わり、自転車のペダルを疲労感が充満する足で漕ぐ。
何も塾が嫌と言うわけじゃない。
中学3年生のこの時期、自主的に勉強する気が皆無の俺には、強制的に通わせられない限り、何処の高校へも行けないだろう。
そこは、有難いと思っている。
だけど。
問題なのはそこじゃない。
帰り道だ。
曲がり角を曲がる。
嗚呼、居たよ。居た。
曲がり角を曲がって、すぐ。
女が居る。
ナイフを持った。こんな夏場だというのに、レインコートを羽織った。
曲がると直前にいるので、最初出てきたときは人を轢いてしまったと、思った。
だけど。
こいつは人じゃない。
俺はその女の胴体をすり抜けた。
最初のときは本当に吃驚した。
だって、人をすり抜けるなんて、現代じゃ考えられないことだろ。
後ろを向く。
こちらに背を向けて、ただぽつんと立っている。
何時までああしているつもりなのかな。
今日も何もしてこない。
追いかけてもこないし、あの手に持っているナイフで刺してきたりもしない。
用は、何もしないんだ。
微動だにしない。
怖いよ。何だよあいつ。
危害を加えないというのが、更に俺の恐怖心を掻き立てた。
うわ。居るよ。居る。
帰り道は、ある高校の前を通るのだけれど、その駐車場のところに居る。
暗くてよく見えないけど、恐らく男。
だけど、目が光っている。
いや、光っているっていう表現は正しいくない。
目が充血していて、そこだけがくっきりと見える。
そして、俺を目でギロリと追う。
気持ちが悪い。
最近は出来るだけ目を合わせないようにした。
あいつも、特に何もしてこない。
ただ、怖いだけ。
学校を通りすぎると、家がある。
小さい家だ。
俺が通るときはいつも、全部の部屋の電気が消灯されているわけだけど。
何故か2階の電気はついていて・・・。
そこにも居る。
体が長細くて、多分女。白いブラウスを羽織っている。
だけど。
顔は見えない。
体が長すぎて。
怖い。怖い。怖い。
早く家に帰りたい。
塾の疲労感。帰りの疲労感。
嫌だよ。あんな怖いのが居る道。
だけど、親に言っても信じてもらえないし。
逆に変な子だと思われる。
天井を見上げた。
背に当たる布団。心地いい。
あっ。
新しいの見つけてしまった。
ナイフ女。
充血男。
デカイ女。
そして。
今見ている。
自分。
天井にもう1人自分が居る。
何処もかしこも俺だ。
嫌だ。嘘だろ?
天井の自分は。
「今日も怖かったなあ」
そう言って、天井の中へ消えた。
作者なりそこない