「春ー!!」
友達が俺の名前を呼んだ。
黒い長い髪を振り乱して走って来るから、一瞬化け物かと思ったがよくよく見ると可愛い顔をしてる。
彼女の名前はあかり。今はまだ友達だ。
あかりは何処からか取り出したビジネス手帳を開いて俺に見せてきた。
そこには地図と宝箱のマークが描かれていた。
「あかり、その手帳どうしたの?」
「ひろったの」
なんの悪びれもなく言った。
「で、どうするの?」
「宝の地図を拾ったんだから、行くしかないでしょ」
あかりは厄介事を探してくるのがうまい。そして、変なものに好かれる気質を持っている。
「やめときなよ」
「どうして?」
「嫌な予感がするから」
「春のいくじなし」
「いくじなしでもいいよ」
あかりが平穏無事に過ごしてくれるなら。と、続けたかった言葉は言えなかった。
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結局、宝探しをするといって止まないあかりをほっとくわけにもいかず俺も付いてきた。
どうやら宝は山奥の神社の裏に埋まっているらしい。
その宝が何なのかは知らないが、何か良くないものだという事はわかる。さっきから後ろから何かが着いてきてるからだ。
あかりは全く気付いてない。鈍感にも程がある。
とりあえず生きてるか生きて無いか確認しよう、生きてたら警察…でもこんな山じゃ目印もないしなー。生きてたら捕まえてやろう。
死んでたら…その時は思いっきり怖がろう。
「あかり、ごめんちょっと先に行ってて」
「えー」
「後ですぐ追いつくから」
「…わかった」
渋々あかりは先に向かった。
俺はガサガサと藪の中に入って、息を潜めて奴が現れるのを待った。
ザッ…ザッ…ザッ……
少し遠くから足音が近づいてくる。
ザッ…ザッ…ザッ……ピタッ
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俺の前で足音が止まった。
急にパニックになった。こいつ、俺が隠れてるのが分かったのか?なんでここで止まったんだ。いや偶然か?偶然ならやり過ごそう。
自分に偶然だと言い聞かせ、俺はまだ息を潜めたまま奴を見つめる。
奴は生きていた。普通の人間だった。サラリーマンみたいなスーツに皮のバックという格好で、髪は無造作にまとめられていた。
しばらく俺が奴を睨んでいたら、奴は言った。
「これは独り言ですが、私は基本的に落し物はしないんです。故意的に落としたのもは別として。
私の狙いはあの女の方です。藪に隠れてる男には興味ありません。殺されたくなかったら、大人しく家に帰りなさい」
言い終わり、一息着くとまた奴はザッザッと歩いて行く。
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…………………なんかすげー腹立つ。
「おい」
俺は男を呼び止めた。ガサガサと藪から出て全然格好つかないけど俺は奴に指を指して言った。
「あかりは、俺のだ!」
自分でも恥ずかしくなってうぉーと叫びながら男に体当たりをし、よろけた隙にあかりの行った道を全力で走った。
「あっ、春遅いー!
ってえっ?なんで走ってるの?」
やっとあかりに追いついた俺はもう体力の限界だった。一本道だったから迷子になることはなかったのだか、あかりは俺が思っている以上に歩くのが早いようだ。
今俺たちは神社の境内に居る。宝はこの奥なのだが俺はさっきの奴が来る前に一刻も早くこの山を降りたかった。
「あかり、宝はまた明日探しに来よう」
「えっ、ここまで来たんだから見つけて帰らなきゃ!」
「なんか変な奴がつけてきてるんだよ」
「怖いからってそんなバレるような嘘つかないでよ」
「嘘じゃないって!」
あかりは全く信用してくれない。
「とりあえずまた今度一緒に探してあげるから!!」
あかりの手を掴んで俺は来た道とは反対側に走った。
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「ちょっと痛いっ、離して」
はっと気付くとそこは山の入り口だった。
「ごめん」
もう安心だ。山から一歩出た時に後ろから
「お気をつけて…」
と奴の声が聞こえた。あかりも気付いたらしく二人揃ってバッと振り返るとそこに奴がいた。俺があかりの手をもう一度掴むと、奴は反対を向いて歩きだした。
見えなくなって30秒くらいたって、俺は大きく息を着いた。
あかりは「変な人」と呟いた。どうやら普通のおっさんだと思ってるらしい。
それでいい。あかりは何も知らなくていい。
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何日かしてあの山奥の神社のさらに奥から死体が発見された。ばらばらになって地面に埋められていたらしい。
たまたま通りかかった人が人の手を発見して警察に通報したことにより事件が発覚したらしい。
被害者達の顔はどれもあかりにとてもよく似てた。
犯人はまだ捕まってないらしい。
「春ー、いつになったら一緒に宝探ししてくれるのー?」
「もう他の人に発見されてるよ」
俺は忘れたくて、そう言った。
作者KimisigurE
生きてる人がやっぱ一番怖いです。