「息子の勇四郎がいないんだよ」
康司は落ち着いた声で言った。が、心の中はかなり慌てていた。
「ほう。最後に見たのはいつですか?」
「・・・昨日の夜だったかな?」
「ふむ」
刑事の細田は頷く。
「で、私の家に来たと?」
「そうだ。大きな警察沙汰にはしたくない」
「ですがね。私だけで探すといのは困難です」
「そこを何とか・・・!」
「そんなこと言われましてもね・・・」
「信じられるのは細田しかいないんだ」
細田と康司は同級生であり、当時からの大親友であった。
「いくら、親友の頼みと言ってもねえ・・・」
「・・・関係ない話だが、そこのオーブンで焼いているのはなんだ?」
「いいものでしょう。昔のマキを燃やす式の奴さ。これがよく燃える」
「・・・」
「ああ、質問の答えになってないね。君の好きなものだよ」
「そりゃ、楽しみだ」
ぱちぱちとオーブンの音だけが、静寂と化した部屋に響いた。
「・・・で、どうするんだ?」
「ん?どうするとは?」
「意地悪をしないでおくれよ。息子の件だ」
「ああ。そうだったねえ」
「息子の幼形は・・・」
「いや、言わなくてもいい。知っている」
「ん?お前に会わせたことあったか?」
「ああ。会ったことあるよ」
「それなら話しがはやい」
「君の息子は迷子じゃないんだろう?じゃあ、なんで幼形の話しをする?」
「もしかして迷子かもしれないさ」
「なら、自分で探してみたらどうだい」
「探したさ。今日1日かけてね。でも、見つからないからここにいるんじゃないか」
「そういことか・・・」
「お願いだ。息子を・・・」
「分かった。親友の君の頼みだ・・・実はね私は息子さんのいる場所を知っている」
「え?」
「騙して悪いね。ちょっとした冗談さ」
「・・・なんだ!お前らグルだったのか!」
状況を理解した康司は驚愕に目を見開いた。
「・・・この家に君の息子はいるよ」
「本当かよ!おいおい。俺の一日を返しておくれよ」
「本当にすまないね」
「さ、息子はどこだい?」
「探してごらん。すぐに会える」
「もー君は意地悪だなあ」
「・・・なんか変な匂いがしないかい?」
康司は鼻腔をつく異臭に目を細めた。
そんな康司をみて、細田はニヤニヤと笑う。
「君の好物が焼けたようだ。息子に会うのはそれをしてからでも遅くはない」
「そうだな」
康司はオーブンに近づき、ドアをゆっくり開けた。
「おい細田、これどうやって火を消すんだい?」
「ふっ火は消さないよ」
「へ?」
いつのまにか、康司の後方に細田はいた。
「よーく覗いてみてくれ」
康司が目を凝らすと、炎を奥に黒いものがある。
もっと目を細める。
ニヤニヤと細田は笑った。
「! おいコレ・・・」
「君は息子さんが大好きだろう?」
「て、てめえ!」
康司が後ろを向いた瞬間、棒で首を押さえられる。
「うぐっ!お前何を・・・・」
「私は嘘が嫌いでねえ。君がここにきて嘘をついたことはない」
「だから、会わせてあげよう」
『君の好物が焼けたようだ。息子に会うのはそれをしてからでも遅くはない』
康司の頭に細田の台詞がリピートされる。
「お前ぇぇ!殺してやる。殺してやるぅぅぅ!」
「じゃあ。息子さんと会ってこい」
細田は容赦なく、棒に力をいれる。
「ああああああああああああああああああああああああ!!!」
康司は必死にもがくが、その努力は皆無だった。
「あああああああああああああああ!!嫌だあああ!嘘だあああああ!!」
最後に康司が見たのは、肌が真っ黒になった息子の死体だった。
作者なりそこない