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(※サウンドノベル風モードでの閲覧推奨)
これは俺が小学6年生の時に経験した出来事だ。
小学生なら、一日の中で誰もが昼休みを待ち焦がれる。
俺がいたクラスでは、隠れ鬼が流行っていた。
説明は要らないと思うが、「どこかに身を隠すのも有りな鬼ごっこ」のことだ。
隠れて見つかっても、鬼に捕まらない限りは鬼になることはない。
普通は、誰かが鬼に捕まれば、そこで鬼は交代するが、俺たちのルールでは鬼は交代せず、鬼は必ず最後の一人まで捕まえる必要があった。
普通の隠れ鬼に飽きた奴らが編み出した、よりサバイバル感溢れる隠れ鬼だ。
ある日の昼休み、俺はいつものようにクラスの友人達と8人程で隠れ鬼をやっていた。
ジャンケンで鬼を決める。
俺がチョキしか出さないことを皆知っている。
チョキしか出さないのは、子供なりに考えたポリシーってやつのせいだ。
しかし、それを利用して今日はパーを出すことにした。
弱みというのは、時として強みにもなるのだ。
今思えば、総合的に負けている俺が言っても戯言にしかなっていない...。
いつもは必ず初手であいこになるが、今日はストレートに鬼が決まった。
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そう、俺だ。
俺は悟った
(慣れないことはするもんじゃない...)
俺は決まり通りに120秒数え、隠れ鬼が始まった。
大抵は幾つか隠れる場所のスポットがあり、鬼はまずそこをしらみ潰しに探す。
上手く見つけることが出来れば、そこからは脚で勝負することになる。
脚の速さには自信が無かったが、瞬発力には自信があったため、出会い頭で俺に見つかれば皆即捕まる。
死闘の末、8人中7人捕まえることが出来た。
残るは一人、Bだけだ。
そいつは隠れるのが上手い。
俺はしらみ潰しに探したが、中々見つけられずにいた。
既に捕まった奴らは
「まだかよー」
と怠そうに早期終戦を望んでいる。
すると、その内の一人、Aが
「3階の倉庫にでもいるんじゃね?」
と言い出した。
俺はそれを否定した。
「あそこは立ち入り禁止じゃん。第一、そこ鍵掛かってるし」
Aは
「でも校外以外ならどこに隠れてもいい決まりでしょ。それに、あの倉庫たまに鍵開いてる時あるし(笑)」
と反論する。
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その倉庫とは
《倉庫 立ち入り禁止》
と書かれたプレートが扉に貼られている部屋のことで、図書室の隣に位置している。
いつもは鍵が掛かっているが、Aが言う通り、たまに鍵が掛かっていない時がある。
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俺も一度中を見たことがあるが、中は8帖1間ほどのスペースがあり、窓も付いていなかった。
倉庫と言う割りには、棚や仕切りなど何一つ物が置かれておらず、電灯すらも無い部屋だった。
もし鍵が掛かっていなかったら、そこに隠れることは十分可能である。
立ち入り禁止であること、そしていつも鍵が掛かっているというイメージもあることから、身を隠すには絶好の場所だ。
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しかし立ち入り禁止という言葉は、子供の俺にとっては重くのしかかるものがあった。
そこで、俺はAを連れて倉庫に行くことにした。
Aも暇だったのか、俺の誘いには快諾した。
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校内の階段を登り、3階に向かう。
道中、俺は気に掛かっていることがあった。
それは、その倉庫にまつわる噂である。
『扉をノックすると、扉の向こうからノックし返す音がする』
というものだ。
謎が多い部屋ということもあり、一つや二つ噂があってもおかしくはない。
火の無い所に煙は立たないとは言うが、噂なんていうのは誰かがそれらしい事を言い出せば瞬く間に広がるものだ。
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倉庫の前に着くと、俺はまず扉のドアノブを回した。
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カチャカチャッ
扉には鍵が掛かっているようで開かない。
「Bの奴、中から鍵掛けてんじゃねーの?」
「ありえる(笑)」
「ノックして脅かしてやろうぜ(笑)」
「御意(笑)」
俺は扉をノックした。
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コン、コン
........
反応は無いが、構わずノックし続ける。
sound:14
コン、コン
sound:14
コン、コン
「Bさーん!? いるのは分かってるんですよー??」
俺は借金取りのような真似をし、Aと可笑しく笑いながら扉を何回もノックした。
すると
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...コン、コン
扉の向こうからノックの音がした。
俺たちは、やっぱりと言わんばかりに顔を見合わせた。
あいつはここに隠れている。
「B~! もういるのは分かってんだから出て来いよ!」
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ドン、ドン
「チェックメイトですわよBさん!」
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ドン、ドン
勝負有り。
俺たちは喜々として扉を叩きまくる。
すると、後ろから声が聞こえた。
「何やってんのお前ら」
後ろを振り向くと、そこにはBがいた。
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「え?」
俺とAは呆然としたまま立ち尽くす。
「お前が探すの遅いからもうとっくに出てきたよ。さっき捕まってる奴にコッソリ聞いたけど、残ってんの俺だけらしいじゃん...。これ終わらせてもう1回やろうぜ」
とBはやれやれ口調で俺に言う。
俺は間髪入れずにBに聞き返した。
「いやいやいや、出てくるってお前... ここにいたんじゃないの?」
「は? どこに?」
「この倉庫だよ! お前どうやって..」
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俺は、そう言いかけて気付いた。
Aはとっくにその違和感に気付いているようだった。
身体を震わせ、まるで目の焦点が合っていない。
「いや、お前(笑) さすがの俺も立ち入り禁止のとこには入らないってば。俺はずっと中庭でお前らの裏をかきながら様子見てたけど? どうしたのお前ら。ってかA大丈夫?」
Bはまるで理解が出来ていなかった。
無理も無い。
この扉の向こうにいたのはBでは無かったのだ。
「じゃあこの中にいるのは誰なんだよ...」
やっとAが口を開いた。
心無しか声が震えているように聞こえた。
俺も少し怖くなってきたが、この倉庫に入っている「誰か」が、逆に俺たちにイタズラをしているという可能性も捨て切れなかったため、戦意を喪失するにはまだ早いと思った。
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コン、コン
しばらくすると、扉の向こうからノックの音がした。
Aはビクッとした。
俺は扉を見つめ、謎を解こうとしている。
「え何? ここ誰かいんの?」
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カチャカチャ
Bはドアノブを回すが、鍵が掛かっていて開かない。
するとBは扉を叩きながら言った。
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「おーいイタズラなんて止めて出て来いよ。ここ立ち入り禁止だぞ。先生に言うぞー」
その時
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バンッ!!
扉を激しく叩く音が、扉の向こうから聞こえた。
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バンッ!!
sound:26
バンッ!!
sound:26
バンッ!!
「うわああああああああ!!」
Aは叫びながら廊下を走ってどこかに行ってしまった。
「おい!! ふざけてんじゃねーよ!! いい加減にしろ!!」
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さすがのBもビビったらしく、激怒しながら扉を蹴ったり殴ったりしている。
Aのことも心配だったが、キレているBを放っておいても収拾がつかないので、俺は走って先生を呼びに行った。
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近場にいる先生に事情を説明すると、その先生は俺の雰囲気を察したのか、急いで職員室から鍵を取ってきた。
そして、俺は先生と倉庫に向かった。
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倉庫に着くと、そこにはふてくされたBがいた。
Bは先生を連れた俺を見るや否や、こう言った。
「先生!! 早く鍵開けてこいつ引っ張り出してよ!! 絶対許さねぇ!!」
先生はBをなだめる。
「少し落ち着きなさい」
そう言うと、先生はポケットから鍵を取り出してドアノブに挿した。
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カチャリ
鍵が開く音がした。
Bは睨みながら扉が開くのを待っている。
相当頭にきていたのだろう。
Bは短気だ。
ギイィ
扉が開いた。
俺とBは驚愕した。
俺たちが目にしたものは
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何も無い部屋だった。
前に一度見た時と同じで、窓が無く薄暗い部屋で何一つ物が置いてない。
さっきまで相当荒ぶっていたBも言葉を失っている。
もちろん、俺もだ。
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先生は
「うーん...」
と口に手を当て、俺たちに話し掛けた
「何も無いけど... 君たちが言ってることが嘘じゃないっていうのは信じてあげたい。○○(俺)君が職員室に入ってきた時も只事じゃない感じがしたし...」
ここでBが口を開いた
「嘘なんかじゃないですよ!! 俺も○○も、Aも扉から音がするのを聞いてます!! それに、○○が先生を呼びに行ってからも俺ずっとここにいましたから、中にいた奴が逃げるなんて有り得ないですよ!!」
先生は
「私もこの部屋には初めて入ったけど、この扉、内側からは鍵が掛けられないようになってるから、一度閉めたら外には出れないと思うの」
とBに説明する。
Bは
「えっ...そんな...」
と信じれない様子だった。
俺は状況が飲み込めないまま、先生とBの会話を聞いているだけだった。
しばらくすると、教頭先生が小走りでこっちに向かって来た。
教頭の後ろにはAが見えた。
落ち着いた後、俺と入れ違いで職員室に先生を呼びに行ったのだろう。
教頭は俺たちのところに来るや否や、怒鳴りつけた。
「ここで何をやった!! 立ち入り禁止と書いてあるだろうが!!」
俺は怒鳴られたことを理不尽に感じ、少しイラッとした。
確かに立ち入り禁止とは書いてあったが、俺たちはそこに入ってはいない。
それに、その倉庫はどうせ何も無いのだから、仮に入ったとしてもそこまで怒られる言われなど無い。
教頭は俺に反論する暇も与えず言った。
「とにかくもうこの辺りで遊ぶのは止めなさい! 近くに図書室もあるんだから、迷惑になるだろ!」
図書室のくだりは、表向きにそう言っているだけ
のように聞こえた。
騒音だけが問題なら、そこまで怒る必要などないはずだ。
俺は教頭に事情を説明した。
しかし
「タイミングよく図書室かどこかから音が鳴って、それがこの部屋の中で響いただけだろう」
と、まるで相手にされなかった。
俺は扉を直接叩く音をこの耳で確かに聞いた。
そんなはずはない
俺たちはそんな顔をしていたと思う。
今でも、あの音の正体が何だったのかは分からない。
たかが子供の遊びに過ぎないのに、教頭は何故あそこまで感情的になって怒る必要があったのだろうか。
あの倉庫が立ち入り禁止の理由も、今となっては謎のままだ。
作者Diablo616
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
4回目の投稿となりました。サクッと読んで頂けるように努力はしているのですが、どうしても長くなってしまいます(笑)
今回のお話は、私の中では怖さよりも謎の残る出来事でした。ノックは必要最低限に留めましょう...。