music:1
wallpaper:149
(サウンドノベル風モードでの閲覧推奨)
今年も汗ばむ季節がやってきた。
この暑さを感じる度に、あの日のことを思い出す。
wallpaper:23
ある夏の日
俺は休暇に入り、実家に帰郷していた。
地方の田舎だけあって、日頃の喧噪が嘘のように感じられる。
両親は共働きのため、インドア派な俺は一人家の中でくつろぐ事になる。
俺は、見慣れているがどこか懐かしい自分の部屋に入った。
wallpaper:66
自分の部屋ほど落ち着く空間は無い。
一人暮らしでも自分の空間というものはあるが、実家のそれとはまた別だ。
オーディオ機器にCDをセットし、選曲する。
俺は大のデスメタル好きだ。
部屋の扇風機を付け、俺はドサッと床に寝転ぶ。
家に誰もいない開放感。
俺はそれを味わうために、音楽を大音量で流した。
都会なら近所迷惑を考えるが、生憎ここはド田舎。
この程度じゃ迷惑になんてならない。
音楽を堪能している最中、チャイムが鳴った。
sound:16
ピーンポーン
誰か来たことは分かるが、日中に家を訪れるのはせいぜいセールスマンか新聞勧誘あたりだろう。
仮に用事があったとしても、俺じゃなくて両親にだ。
面倒くさいと思った俺は、居留守をすることにした。
まずこの音を何とかしなければならない。
俺はオーディオ機器のボリュームノブを左に回し、音を消した。
sound:16
ピーンポーン
さっきよりハッキリと聞こえ、家の中でこだました。
俺は近くにあった漫画を読みながら、チャイムが止むのを待った。
しばらくすると、チャイムは鳴らなくなった。
「行ったか」
俺は再び音楽の音量を上げる。
さすがにもう来ないだろう。
そう思った時だった。
sound:16
ピーンポーン
イライラが募る。
ひょっとしたら音が外に漏れているのを聞いていて、俺が居留守をしているのがバレているのかもしれない。
ノルマ達成のために汗をかくセールスマンなら、そこまでの情熱... いや、しぶとさがあってもおかしくはないだろう。
当時反抗的だった俺は
「こうなりゃとことん居留守決め込んでやる」
と変に意気込み、訪問者とのイタチごっこを続けることにした。
チャイムが鳴って音量を下げる
鳴らなくなったら音量を上げる。
そうするとまたチャイムが鳴る
「これ絶対居留守バレてるだろ(笑)」
俺は笑いながら、同じことを何回も続けた。
しかし、それが数分続いたところで俺はある事に気付いた。
wallpaper:1
music:4
俺の家は、雪国ならではの風除室がある。
風除室とは、玄関の所に併設され、風や雪を遮るためにある空間だ。
俺の家は、引き戸を開けて風除室に入り、玄関のドアを開けて入るタイプだが、この暑い中ずっと風除室にいたら絶対に暑さに根を上げるはずだ。
その暑さを俺は何度も経験している。
特に閉め切った風除室はサウナ以上の暑さで、鍵を開けている僅かな間でさえ汗が噴き出るほどだ。
訪問者は、そこで十分以上はチャイムを鳴らしている事になる。
そこまでして家に用事があるのか?
いや、その前に普通に考えてあの暑さに耐えられるわけがない。
wallpaper:66
最後のチャイムが鳴ってからしばらく経つ。
俺は玄関の様子を見に行くことにした。
しかし訪問者に姿を見られたくはない。
俺の部屋は2階にあるが、そこから玄関は見えないため、同じ2階にある別の部屋に移動した。
wallpaper:67
俺は部屋の窓から玄関を覗いた。
玄関に人は立っておらず、風除室も閉め切られたままだ。
(きっとチャイムが故障したんだろう)
俺はそう思い、自分の部屋に戻る。
wallpaper:66
今度は音楽を付けずに、漫画を読むことにした。
部屋からは扇風機の音しか聞こえない。
しばらく漫画を読んでいると
sound:16
ピーンポーン
とチャイムが鳴った。
もしかしたらピンポンダッシュのイタズラではないか。
ふと、俺はそう思った。
sound:16
ピーンポーン
2回目のチャイムが鳴った直後、俺はさっきの部屋に走って向かい、窓を覗いた。
wallpaper:67
しかし、玄関には人影も無く、風除室も閉め切られたままだった。
おかしい。
風除室の引き戸は、引くと金属が擦れる音がするため、静かな部屋の中なら絶対に聞こえるはずなのだ。
それなのに風除室は閉まっている。
仮に数人掛かりで協力してピンポンダッシュをするとして、引き戸が鳴らないようにゆっくり閉めようとしても、俺がチャイムに気付いて玄関を除くまで5秒も掛からない。
例え引き戸を何とかしたとしても、すぐ近くに身を隠すような場所は無い。
イタズラで俺に気付かれずにチャイムを押すには、時間的にも無理がある。
俺はそのまま玄関を監視していた。
数分経ったが、相変わらず人の気配は無い。
結局それが何だったのか分からないままだったが、空調の効いていない部屋で神経を使うのも応えるものがあった。
俺は喉を潤すため、飲み物を取りに1階のリビングに向かった。
wallpaper:69
2階の廊下を渡り、階段を降りようとした時だった。
sound:26
ガチャン...
sound:21
玄関の扉が開く音がした。
田舎、特に家の周りは治安が良かったため、日常的に扉に鍵を掛けることは無かった。
それが仇となってしまった。
心拍数が上がる。
家の中は静寂に包まれており、俺の僅かな息遣いでさえ、その訪問者に伝わりそうだった。
必死に息を押し殺すが、動悸のせいで肺が酸素を欲し、鼻息が荒くなる。
俺は音を立てないように、その場で立ち尽くしていた。
すると
music:3
「ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"。」
不気味な声が玄関から聞こえた。
声のトーンからして女の声だと思うが、念仏を唱える時に出すような、厚みのある声だった。
俺は戦慄した。
膝が震え、立っているのがやっとだった。
もしかしてあのチャイムは、この家に人がいるかどうか確かめるためのものだったのだろうか。
ただのイタズラ? 不審者? 空き巣? 強盗?
俺は様々なことを考えるが、階段の下の玄関にそいつがいるという事を考えた時、怖さで脳が思考をシャットアウトした。
そいつはさっきの声を発してから、何も行動を起こしていない。
玄関の扉を閉める音も聞こえていない。
・・・・・・
つまりだ。
wallpaper:535
そいつは玄関の扉から家の中を覗いているという事になる。
そう考えた時、ジワジワと嬲り殺しにされているような感覚に襲われた。
監視(み)られている。
俺は額から冷たい汗が落ちてくるのを感じた。
wallpaper:69
music:4
その横着状態が2分ほど続いた頃だった。
俺は何とか精神を立て直し、行動を起こそうと考えていた。
そうでもしなければ、とてもこの恐怖には耐えられない。
俺は霊的な可能性も考えたが、もしそいつが人間で危ない奴だったら、それこそ俺の身が危ないと考えた。
どこかに身を守るものはないだろうか。
そこで気付いた。
俺は趣味でナイフやガスマスクなどの軍の放出品を収集しており、部屋にはそれらが飾られている。
実際に使う時など来るわけがない。
ただの趣味だ。
俺はそう思ってコレクションしていたが、まさか本当に使おうとする時が来るとは思わなかった。
いつ襲われてもいいように、俺はそのナイフを取りに自分の部屋に戻ることにした。
音を極力立てないように、ゆっくりと後退りしながら部屋に入る。
wallpaper:520
俺はケースに入った刃渡り8cmほどの折り畳みナイフを手にした。
sound:27
アルミニウムフレーム、ドロップポイントブレード、デュアルサムスタッド、セレーション、ライナーロック付き。
これなら相手が銃でも持っていない限り、対等に戦えるだろう。
俺は折り畳みナイフの刃を出し、逆さに持つ握り方で手に持ち、廊下に向かった。
右手にはナイフ。
wallpaper:154
左手には、あらかじめ110の番号を押した携帯電話を持つ。
これなら万が一何があっても大丈夫だ。
いや俺は大丈夫じゃないかもしれないが....。
wallpaper:69
未だにシーンと静まり返った廊下から、俺は階段を降りる。
ゆっくり、ゆっくりと
一段一段、慎重に降りていく。
まだ扉が閉まる音は聞こえない。
あいつがいる...。
もうすぐ階段の終点だ。
俺は静かに深呼吸をする。
意を決し、階段の壁から顔を出して玄関を覗いた。
誰もいない......。
それどころか、玄関の扉は閉まっている。
不可能だ。
俺は思った。
何故なら、家の玄関の扉は結構大きくて、金属で出来た扉は開けたり閉めたりする時に必ず音がするからだ。
この静かな状態なら尚更、聞こえなければおかしい。
俺は通路の死角をクリアリングしながら玄関に向かった。
玄関に着き、俺はまず扉を調べた。
玄関の扉は完全に閉まっている。
sound:26
ガチャン...
俺は扉を開けて風除室を除く。
風除室の扉も閉まっている。
ありえない。
風除室の引き戸の音さえ、俺には聞こえなかった。
俺が目にしたもの、耳にしたものは、一体何だったのだろうか。
・・・・・・・・
wallpaper:66
music:5
俺は自分の部屋に戻ることにした。
握ったナイフをケースにしまう。
何も考えないようにしていた。
きっとチャイムが故障していただけだ。
玄関の扉も、きっと最後に閉めた時に扉が半分閉まっていない状態で、時間差で閉じたんだ。
チャイムも、故障しているせいでタイミングよく鳴っただけだ。
そうとしか考えられない。
俺は半ば強引に自分を説得した。
頭の中で何かが引っ掛かるけど、考えたくない。
きっとそれを考えてしまったら、俺はもうこの家には居たく無くなる。
何も考えないようにして、その日はいつも通りに過ごした。
チャイムの故障
これで全てが片付くはずだった。
wallpaper:532
あの声さえ聞かなければ...。
作者Diablo616
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
5回目の投稿となりました。「お前霊感あるんじゃない?」と周りによく言われます。私は幽霊など信じていません。あまりにも非科学的です。でも私には何か見えてしまうようです。
今回のお話は、今から約4年ほど前の話になります。実家って落ち着きますよね。そんなガードゆるゆるの状態であの出来事が起きましたから、そりゃあもう鮮明に覚えています(笑)