昔から「坊主丸儲け」ちゅう言葉があるやろ。あれな、そのまんまの意味やで。税金かからんし、ほとんどコストもかからんしな。
有る程度の広さの墓地とそれなりの寺さえあれば、後は檀家さんさえ付いてくれたらええねん。
親の代からお寺さんやっとったら檀家さんはそれなりにおるやろうしな。
檀家さんがしょっちゅう高級な菓子を持ってきてくれるのがありがたいわ。ワシ甘党やさかいな。まあおかげで軽い糖尿になってもうたけどな。
ん?肉とか酒か?そりゃあ飲むし食うわいな。何十年前の話しとるねん。今は21世紀やであんた。
まあ仕事もぶっちゃけ今は昔と違って楽になったしなぁ。お経も襟元にスピーカー仕込んで録音してる音流してるだけやしな。もちろん口パクはしてるけど、超高音質なスピーカーつこてるから今んとこバレたことあれへん。
ワシは戒名考えるのが苦手やってんけど、ええの見つけたんや。スマホの無料アプリでな、故人の本名を入力するだけで勝手に戒名を決めてくれるその名も「戒名くん」や。便利な時代になったもんやでほんま。
それでもめんどくさい仕事もある。人間に取り憑いた霊を外す、いわゆる「お祓い」っちゅうやっちゃ。ワシはこれまでに数え切れんほどのお祓いを成功させてきた。
何?霊がほんまに存在するんかって?アホか。そんなもんおるわけないやろ。人類が火星に行く時代やぞ。
それが証拠に、ワシの親戚のおじさんが戦後の混乱期に高利貸しをやっとったんやけど、おじさんかなり悪どい商売しとったらしくて、おじさんを恨んで自殺した人間もたくさんいて、遺書におじさんを呪い殺すと書いた人も多いそうや。
その結果おじさんは「霊など存在しない」とゆう事がわかったそうや。なぜなら「化けて出てきたためしがない」そうや。結局97まで生きたしな。
要するに霊などあんなもんは思い込みや。怖い怖いと思っていたら、ただの石ころが人の顔に見えたり、風の音が人の声に聞こえたりするやろ?あれと同じや。
お祓いっちゅうのはやな、呪われていると思い込んでいる人の思い込みを解いてやることなんや。もちろんタダちゃうで、それなりの料金はもらうわな。これが料金表や、高いやろ。
ついさっきも、霊に取り憑かれてると思い込んでる若者が1人助けを求めてきたんや。その若者は、異様に背が高くて「ぽぽぽぽ」とか言う女の霊に憑かれていると思い込んでるらしい。
ワシはいつも通りにとりあえずその若者に適当に経を読んでから、離れにある小さいお堂に入るように命じた。そのお堂には隙間なくビッシリとお札が貼り付けてある。
威厳を出すためや、ちなみにお札はワシが適当に書いた。まあ、何の力も無い。
そいつには「夜が明けるまでは絶対に出てこないこと」
「誰に呼びかけられても決して返事をしないこと」
「小便はペットボトルにすること」
を言い聞かせておいた。まあ今頃、風の音が知り合いの声にでも聞こえてることやろう。
ワシは本堂で夜が明けるまで経を読み続けておると言っているが、そんなめんどくさい事をするわけないわな、意味ないし。
ま、朝になって出してあげたら、霊が外れたと思い込んで納得するやろ。今は生きた心地がせんやろうけどもうちょっとの辛抱や。
だからこうして缶チューハイ飲みながらあんたと世間話しとるんや。
お、こんな夜中にまた誰か来たぞ。若い父親と小さい女の子や
何?娘と山道をドライブしてたら車がエンストして、変な妖怪が現れた?
そいつが近づいたら娘が「はいれたはいれたはいれたはいれた」って言った?
それはヤバイ、ワシが外してやろう。しかし今は先客がおるからちょっと待ってな。
その場合の料金ですがねぇ、まずはこちらの料金表を見ていただいて…クレジットカードも使えますのでね…
作者あきら