俺はスマホの無料ゲームアプリをダウンロードした。
ごく普通の育成ゲームアプリで、自分の畑に種をまき、育てるというアプリだ、
ようするに暇つぶしだ。このゲームの特徴は、種を蒔いて、必ずしも
育つものが野菜ではない可能性があるのだ。
蒔いてからのお楽しみ、というわけだ。
いろんな条件で、育つものが変わるらしい。
運が良ければ、かわいい植物の妖精の女の子が育ったりするらしい。
オンラインでつながっているので、他のユーザーとも交流できるし、
もしかしたら、このアプリで出会いがあるかも、なんて、俺は
甘い夢を見ていたのだ。
ゲームの中で水をやったり、肥料を入れたり、そしてたまに
スマホを日に当ててやったりしなければならないのだ。
そして、俺の畑の種が今日芽吹いた。芽というには、ちょっと奇妙な形だった。
葉のようではない。まだ頭を出しただけなので、まるで土筆みたいな形だ。
「見てくれよ、これ。俺、こんな芽が出たんだけど。」
俺は、友人にスマホを見せた。
「なんだこれ。俺のは見事に双葉だぞ。」
友人は自慢げに自分の畑を見せた。
「きっと俺のは妖精になるに違いない。」
そう言って、友人はニカっと笑った。
やっぱり、こういうのって性格とか出ちゃうのかな。
友人は何をやってもそつなくできるタイプの男で、ぼんやりしている
俺とは全く別のタイプの男だ。
俺は悔しくて、ちょっとその日から真面目に世話をした。
だけど一向に双葉になる気配を見せない芽は、どんどん真っ直ぐに育っていった。
「こ、これ。」
まるで、人間の指じゃないか。なんと趣味が悪いのだろう。
俺はまた、友人に育ったものを見せた。
「おい、これ、レアなんじゃないか?確か、指に育つ確立って少なかったと思う。
指が5本、全部生え揃ったら何かイベントがあるらしいぜ?」
俺はそう言われ、ちょっと得意になった。
そうか。俺ってレア物を育てたんだ。
その日から指は1本ずつ生え、すくすくと育っていった。
そして、ある日5本全部生え揃ったのだ。俺は期待しながら、イベントを待った。
あれ?何も起きないじゃないか。あいつ、ガセネタを俺につかませたな?
まぁ、そんなに夢中になるほどのゲームじゃないか。
俺は苦笑いし、その日は床についた。
その夜俺は夢を見た。あのゲームの育った指が、うにょにょと動き出したのだ。
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「うわ、何これ、キモい。」
俺がそう思いながら画面を見ていると、その指が急速に伸びだした。
そして、スマホの画面から勢いよく飛び出してきたのだ。俺は驚いて、スマホを
放り投げた。するとその指はどんどん伸びてきて、ついに俺の手を捉えたのだ。
「うわぁあぁぁぁ!」
俺は叫び、必死でこれは夢だ、夢だ、早くさめてくれと願った。
そこで俺は意識が途切れた。
朝、目が覚めると俺の視覚は真っ暗だった。
なんだこれ、どうなったんだ、俺。俺は体を動かそうとする。
体が全く動かない。周りから何かが圧迫しているような。
俺の目の前を、長い生き物が通った。目が見えない。
長くてぬるりとしたものが、俺の眼球をかすめて通り過ぎたのだ。
うわ、気持ち悪い。ミミズ?
どこかで嗅いだ事のあるにおいだ。
これは・・・土のにおいだ。
うそ、俺、今土の中にいるのか?まさか。
口をあけると、中に容赦なく土が入ってきた。
しまった。気持ち悪いけど、俺は確かに生きてる。
土の中なのに息が出来ている。何故だ。
「よし、水でもやってみるか。」
天から声が降ってくる。人だ!
助けて、ここから出して!
俺は渾身の力をこめて土を掘る。
そして、一日かけて、俺はようやく指を一本土の上に出すことができたのだ。
「うわ、なにこれ。指生えてきた。キモ。リセットしよ。」
待って!待ってくれ!リセットしないで!
助けてくれ。俺をここから出して!
俺の意識がブラックアウトした。
作者よもつひらさか