僕はクラスの人気者だ。
僕が学校に登校して最初にすることは、自分の机に飾ってある「花」を片づける事だ。
皆は相当僕の事が好きみたいで、毎日欠かさず僕の机には花が飾りつけられる。
その花は毎日決まって白い、きっと僕の心の清廉さを表してくれているのだと思う。
「だれがこの花を飾ってくれたの?」
初めて僕の机に花が飾られた時、僕は誰がしてくれたのか思い切って聞いてみた。
が、誰も答えてくれなかった、皆恥ずかしがり屋なのだろう。
噂では、当番制になっているらしく、組織的に僕の事を喜ばせようとしてくれているらしい。
休み時間になると、男子は僕の周りに集まってプロレスごっこをする。
人気者の宿命だ。
運動神経がパーフェクトな僕は、いつも一人で数人を相手にする。
いつもギリギリで技をかけられっぱなしになるが、相手の人数を減らすと僕が圧倒的に勝ってしまうので仕方ない。
いや、本当はそれでも勝てるんだけどね。
それだとつまらないから、やりたいようにやらせてるんだ、あの糞どもに。
女子に至っては、僕の人気はさらに神がかり的なんだ。
誰も僕と目を合わすことが出来ない。
女子達は恥ずかしがって、僕を正面切ってを見ることが出来ないみたいなんだ。
でも僕は知ってるよ。
正面切っては見ることは出来ないけど、部屋の隅の方では僕に気付かれないように女子達はいつも僕を見ているんだ。
女子達は細心の注意を払っているから、目が合う事は今までなかったけどね。
でも、女子達は確実に僕を意識している。
放課後、女子だけが残ってたりする教室から僕が立ち去ったりすると、後ろの教室から急に談笑が始まるからね。
きっと僕のかっこよさで持ちきりなんだろうね。
そんな調子だから、廊下ですれ違いざまに肩が触れたりすると、もう大変なんだ。
「キャーキャー」喜んでは、そのアマは周りのクソビッチどもに触れた所を擦り付けあうんだ。
僕の触れた箇所を、皆と共有しあうんだね。
それは本当にほほえましくて、笑顔になっちゃうんだけど。
女子は、そんな僕を見て恥ずかしがって逃げちゃうんだな。
どんなメスも、僕の前では恥ずかしがり屋。
それが僕の日常なんだけど、ある時ちょっと不思議なことがあったんだ。
授業中にふと辺りを見回すと、僕の事をずっと見つめる女子が居るんだ。
その時は相手の娘が、照れちゃうと可愛そうだから、僕は直ぐに目線を逸らしたんだけど。
それからそんな事が何度かあったんだ。
おかしいよね?
他の万年発情のメスどもは、僕の顔を見ると恥ずかしがって目線を逸らすのに。
逆に見つめて来るなんて……
余りに衝撃的で信じ難いけど、彼女はきっとこのパーフェクトな僕の事をカッコいいと思ってないのかもしれない。
そう気づいた夜、僕はなんだかドキドキしてしまって寝ることが出来なかった。
きっと彼女は、僕の事をなにか誤解しているんだ。
ならば……うん……、誤解を解かねばならない!!
うーーーーーーーーん。
うーーーーーーーーん。
うーーーーーーーーん。
うーーーーーーーーん、よし!!
明日はあの娘に声をかけみよう!!
あ、いや別に。そんなに意気込んでいるわけじゃないんだけどね。
全然気負いなんてないよ。
ただ……そう……ただ。
他の女子が嫉妬して、彼女が苛められるかもしれないと思ったからなんだ。
うん……そうなんだ。
だから……、だから……博愛主義者の僕は、誰かを依怙贔屓するような真似をしたくなかった。
だから、今まで一回も女子に話しかけなかったんだ!!
そういう事にしよう。
次の日の昼休み。
僕はひとり、屋上で弁当を食べていた。
何故一人かというと、それが平和に繋がるからだ。
僕のクラスは昼休み、好きな者同士でグループを組んでご飯を食べることが一般的だ。
だが、考えてみてくれ。
僕が昼休みどこかのグループとご飯を食べたとしよう、その他のグループはどう思うだろう?
どのグループだって、僕とご飯が食べたいに決まっている。
つまり、グループ間でのいざこざの元になる。
僕は入学以来、誰ともご飯を一緒に食べたことがないけど
僕の人気を考えると、多分そうなる。
だから、敢えて一人で屋上で食べるんだ。
普段、屋上へ出る為の扉はナンバーロックがかかっているのだが、実は僕は偶然その番号を知っていた。
それまで人気者の僕は、あのクソヤロー共に昼休みにしょっちゅう囲まれていたのだが、此処を発見して以来、僕が学校内で唯一落ち着ける場所になっていた。
いくら人気があっても、ああ毎日じゃ疲れちゃうからね。
僕にだって一人になる時間が欲しいよ。
僕はお弁当を食べると、そのまま寝っころがった。
空が気持ち良く晴れていて爽快な気分になったところで、今日あの娘に話しかけるための作戦を考え始める。
………………。
…………。
……。
特にこれといった名案が浮かばず「まぁ明日にしようかな」と思い始めたころ。
僕の視界の片隅を何かが横切った。
僕は、すぐさま起き上がるとその方へ視線を向けた。
そこにはあの子が居た。
心臓がドキドキし、頭がパニックになった。
もう作戦なんて関係ない!!
今すぐここで話しかけるんだ!!
「あ、あ、あ、あのー。ぼ、僕はですね。貴女と同じ……クッ、クラスノォオ……」
そう話しかけると、彼女は僕の方に無表情で振り返った。
僕は恥ずかしくなり、俯いてしまった。
何故か彼女の顔を直視することが出来ない。
俯いてしまっている僕の視界に、彼女の足が上の方から入ってきた。
彼女は今僕の目の前に立っている。
下から上を覗き込むような彼女の顔が、視界の右横からスライドしてきた。
女の子の顔がこんなに接近したの初めてだった。
僕の心臓がそれまでに経験したことが無いほどの速さで脈打つ。
彼女は口を開いた。
「なんで、あなたは死なないの?」
そう言うと彼女は、僕の体をすり抜け、屋上のフェンスをすり抜け、ヘリに立つと……飛び降りた。
僕は暫く唖然としてしまった。
そして、数分が経過し、ようやく落ち着いて考えられるようになった頃。
僕は彼女がなんだったのかを理解した。
きっと彼女は生前、『真実』を直視をしてしまったのだと思う、受け止めきれないほど過酷な『真実』を。
馬鹿な話だ。
『真実』はこの世に厳然とただ存在する、意図だとか意義なんてものは介在しないたった一つの答えだ。
それに対して『現実』は違う、『現実』は『真実』の受け取り方によって姿形を変えるものだ。
同一の『真実』でも受け取り方によっては『幸せな現実』が存在し、『不幸せな現実』も存在する。
受け止めきれないほど過酷な『真実』であるならば、まともにそれを『現実』として捉える必要なんてない。
『真実』が変えることが出来ないのであれば、受け取り方を変えればいいのだ。
それだけで『現実』は変えられる。
もっとも『現実』がどのように姿形を変えたところで、僕が人気者であることは変わらないので、僕にはどうでもいい話なんだが……。
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……………………。
…………。
……。
「僕は死なないよ」
作者園長