中編3
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七坂の女

よくある話と笑われるかもしれないが、体験してしまった。

随分秋めいてきた、ある夕方、用事があって美章園の駅から桃谷まで歩いた。桃谷で用事を済ますとすっかり夜、

警察病院の前の道を浪速区まで歩く。

電車に乗っても、歩く距離はほとんど変わらない。NTT病院前の坂道をえっさか歩いていると、警察病院。行き来する人影もない。車すら通らない。物音すら聞こえない。でも、こんな日もあるよな、ってあり得ない納得をしていた。

上町筋でふと後ろを振り返ると丸い月が登っていた。

中秋の名月か?

携帯で旧暦を確認すると今夜はお月見前夜だった。

それは見事な月だったな。

それにしても、この街中で、人とすれ違うこともなかった。

なんとも妙な気分だ。ここでふと、私は愛染坂を下るか、口縄坂を下るか、迷ったんだ。

この道のどん詰まりは谷町筋、四天王寺前夕陽ヶ丘という、谷町線によくあるハイブリッドな名前の駅がある。

頭の中は、喜連瓜破とか野江内代とかいう駅名を思い出している。多分四天王寺前夕陽ヶ丘という名前が一番長そうだ。などと考えていた。

依然人影も車の行き来もない。

私は信号待ちでふと左の前方に目を遣っていた。口縄坂を下る道が一番住処に近いのだが……。

なぜか愛染坂のほうが気になった。

月が綺麗だ遠回りしようって、馬鹿で間抜けな事を考えた。

そう、月は私の背後にあるんだ。

でも、信号が変わり横断歩道を渡ると六万体の方に歩を進めていた。ここでは月を少し見れた。

そして愛染坂の方に曲がって、源氏堂の前を歩くが依然人影もない。シーンという耳鳴りだけがうるさかったよ。

愛染坂は大江神社の脇にある。

何気に坂道を降りようとすると、前方約十メートル辺りに女の人が坂を下っている。

思わず鳥居の脇で立ち止まったよ。

定番と言うか、鉄板と言うか?その人、白のワンピに黒のロングヘアー、当然私は鳥居の方をくぐった。

そして拝殿を遥拝して、神社の階段の方に走ったよ。

そして、注連縄掛けをくぐり、階段を降りようとすると、

さっきの女の人が階段を下っていた。

そこで私はそっと引き返して、拝殿の前に行き、もう一度参拝、今度はお賽銭を上げて、きっちり二礼二拍手一拝、谷町筋に戻ると、何時も通りに人が歩いている。

なんだったんだ?

口縄坂の道の方に戻ると、地下鉄の駅から出てきた人が数人口縄坂の方に行く。そこで私は、その人たちとともに坂を下って住処に帰った。ミニストップの明かりを見ながら、帰りの曲がり角に入ると、私の後ろから「なぜ引き返したの?」と声がかかった。なんかハウリングかかった声だった。何気に振り向くと女が立っていた。ワンピでロン毛の……顔に髪の毛がかかっていて口しか見えない女の人が。

声は出なかったね。

五十メートルダッシュして住処に辿り着き階段を4階まで駆け上り、もたつきながら部屋の鍵を開けて飛び込み、しっかり施錠して、朝まで震えていたよ。

なんだったんだ?あれは……。

Concrete
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奥さん、コメントいただきありがとうございます。お礼が遅れました。申し訳ありません。
私はアフロの幽霊でも、遭遇したらやっぱりガクブルです。

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生きてる猫さんも必死で守ってくれてますよ。遊んでくれる人に一番懐いているし、好きな人と心を通わせることが一番幸せなんでしょうね。

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私の以前の通勤路の近くです〜(^^)でも夜中に帰っても怖い思いした事ないです(;^_^A
知人曰く、逆霊感体質なんだそうで…更には、「あんたが背負ってる後ろのたくさんの猫の方が怖いわ…」だそうです。私には見えないし、感じないし…

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