恋人が去っていった。
初めて彼を見た時、運命を感じたのに。彼も私と同じ気持ちだと思っていたのに。
結婚するなら宇宙全神コスモ様に婚姻の誓いを捧げなくちゃと言ったら、彼の態度が変わった。
迂闊だった。
彼はまだ覚醒していなかったのね。まだコスモ様の御力に目覚めていなかったんだ。
だけど私は信じている。
私はコスモ様に選ばれた人間。そんな私にコスモ様が下された運命の彼。
きっと彼との間に産まれる子供は世界の救世主となるに決まっている。
人類を救うために、私は何としても彼と結婚して彼の子供を産まなくては。
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だから私は一生懸命、彼に説いた。
宇宙全神コスモ様の御存在や、この宇宙のすべてがコスモ様によって創造された事、
コスモ様の声を聞けるのはコスモ様に心を開いた人間だけで、
中でも私はコスモ様に聖母として選ばれた人間なのだから、
その私と結婚して子を成す事はあなたの使命、コスモ様の御意志に叶う事、
私たちの子は人類の救世主となって世界を導くだろう事も話した。
だけど彼はろくに聞こうとしないどころか、私を避ける。
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しかし、最近その理由が分かった。
彼の傍らに出没し始めた女。いつも彼に付き纏っている。
あの女は悪魔の使いなのだ。彼は悪魔に惑わされてコスモ様を見失ってしまったんだ。
私が救わなきゃ。これはきっとコスモ様の試練なのだ。
私が聖母として相応しいか、コスモ様が私を試しておられる。
それから私は何とか彼に目を覚ましてもらおうと努力した。
知り合いたちはどんどん私から離れていった。
これも悪魔の力に違いない。私を孤立させてコスモ様の御力を弱めようと。
そうはいくものか。コスモ様、あなたの下僕をお守りください。
知り合いたちはコスモ様をカルト呼ばわりして遠巻きに私を見てる。愚かな人たち。
ある日、一人が私をキリスト教会に誘ってきた。私は説教してやった。
バカみたい。キリストも釈迦もコスモ様が御作りになられたものなのに。
またある日、別の知り合いが、病院に連れて行こうとした。私は拒絶した。
病んでいるのはあちらなのだ。なんて愚かしくて可哀想な人たち。
早くコスモ様の偉大さを知らしめてあげないと。
コスモ様に心を預け、耳を傾ければ、みんな幸せになれるのに。
やっぱり人類を導くのは聖母たる私。
彼との間に産まれるだろう救世主の聖なる母として、私は人類を導かなくては。
愚民どもの目を開いてあげなくては。
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彼が女と並んで皆に囲まれて笑顔で笑っていた。
挙式がどうのドレスがどうのと話している。
ドレスは白だのお色直しで赤だのピンクだの、やれ引き出物がどうのと、
漏れ聞こえてくる話を総括すると、もう一刻の猶予もならないようだ。
このまま彼があの女のものになってしまえば、人類は滅びるしかない。
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私は最後の手段に出る事にした。
コスモ様が御守り下さる。コスモ様どうか私に御力を。
私は金物屋で大きめの出刃包丁を買って、女の住むアパートに出向いた。
部屋を訪ねると女が出て、どうやら私の正体を知っているのか、追い帰そうとしてきた。
悪魔め。お前などに負けるものか。今こそコスモ様の裁きを。
私は出刃包丁の刃を上に向けて柄の底を体に押し付け、包丁ごと女に体当たりした。
女の体にずぶりと刃がめり込む感触があって、同時に私は刃を少し捻った。
これで確実に死に至らしめると何かで読んだ。
きっと、こういう時のためにコスモ様が授けてくださった御知恵に違いない。
女は声を上げる間もなかったようで絶句したまま私の方に倒れてきた。
重くてよろけそうになったので、私は女の体を足で蹴り倒した。
腹に刺さった包丁が抜けて、血が噴き出した。悪魔のくせに、一人前に赤い血だった。
念のため、私は仰向けに倒れた女の体に馬乗りになって、さらに刺し続けた。
両手で握った出刃包丁を、何度も何度も女の体に振り下ろした。
顔と言わず体と言わず、あちこち刺してみたけど、女はとうとう悪魔の本体を現さなかった。
なかなか、しぶといヤツだ。死んだふりかもしれない。気を付けないと。
本当に死んだかどうか確認していると、近所の愚民が出てきて、きゃあきゃあと姦しく喚いた。
女が最期まで悪魔の正体を見せなかったので、私は車に乗せられて警察に連れて行かれた。
手錠までかけられて。人を犯罪者みたいに!
せっかく貴方たち愚民のために悪魔を殺してあげたのに。聖母たる私に何という無礼。
コスモ様の御力を知れば、きっとこの人たちも前非を悔いて私に平伏す事になるのよ。
愚民どもめ。
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どうして殺したんだとかいろいろ喚いているけど、どこから説明しようかしら。
そうね、まず最初に、ダークマターに満ちた闇の中に宇宙全神コスモ様がご降臨なさって、そして宇宙を御作りになって、私たちを御作りになった。
そしてすべての運命をつかさどるドレスは白がいいと思うのよ挙式はコスモ様に人類を救済されるためお選びになってからお色直しの救世主はピンクか赤の彼は私をカルトで結婚キリストは釈迦と出刃包丁ならお目出鯛でも捌けますのよ引き出物は刺してクイッと一捻りで相手は確実天国地獄大地獄愚民どもよさあ目覚めなさい疲れ切った体を投げ出してお預けしましょうコスモ様の子守歌は試練の道を行くが女のど根性だわ重いコンダラどこまでも私は聖母よ聖母よお歳暮は丸坂屋デパートへ人類を救うためならエンヤコラサのヨイトマケ理解できたかしら愚民ども私は選ばれたのよおーほほほほ、ほっ、ほひ、ひひひひひ、けけ、けけけけけけけけ。
作者退会会員
狂信者って怖いですね。
っていうか、自分で書いといてなんですが、コスモ様ってなんだよ(笑)
支離滅裂な文章って、書けそうで書けないものですね。難しいです。
“私”の頭の中も反映しつつ狂った様子のつもりで、もう最後はヤケクソ全開です。
なんかすみません(笑)