あら、あららら~。いやあ、すんまへん、ホンマすんまへん。
おおきに、おおきにな。お姐ちゃん。すまんなあ。
いややわあ、安モンの袋やから破けてしもたんやね。
ごめんなあ、おおきに。おおきに。ほんま助かるわあ。
あ、ウチここ。ありがとなあ、お姐ちゃん。
雨の中、送ってもろて。荷物まで持ってもろて。
ホンマ、助かったわあ。
けど、お姐ちゃんのきれいなベベ、雨で台無しになってしもたな。
弁償するわ。ううん、遠慮なんかせんといて。
ちょっとウチ上がって茶ぁぐらい飲んでってや。美味しいお菓子もあんねんで。
服も乾かした方がええやろし。
そや、服。弁償する言うといて何やけど、これ、娘の服やねん。
どやろ。こんな服アンタ着る? こんなんで良かったら貰たってくれへんやろか。
ちょっと当ててみ。ああ、よう似合うわあ。娘が還ってきたみたいや。
あ、ごめん。娘な、去年死んでしもてん。生きとったらあんたと同い年や。
ごめんな、死んだ娘のお下がりなんかイヤやわな。
気に入らんねやったら今度一緒に服買いに行こか。何でも好きな服、買うたるわ。
せやけど、あんたみたいな、かいらし(可愛らしい)子が着てくれたら、
娘も浮かばれるやろなあ思て…
ごめん、オバちゃん、なんや泣けてきてもた。いややわあ、年取ると涙もろなって。
え、貰てくれる? 着てくれんのん?
いやあ、嬉しわあ。なんぼでも好きなだけ持ってって。
アンタ名前なんちゅうの。美知香。ええ名前やねえ。ほな、ミっちゃんでええな。
オバちゃんはな、トミ子いうねん。
“トミ子さん”て、いややわ、そんなんこそばい(くすぐったい)わ。
“オバちゃん”でええで。
ミっちゃん、あんたホンマにエエ子やねえ。
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◇◇◇◇◇
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おはよう! ミっちゃん、おはようさん。
今から学校かいな。オバちゃんはちょっと宇目田までヤボ用や。
アンタも美堂筋? ほな一緒にいこか。
あれやろ、美堂筋線て痴漢よう出るんやろ?
けど今は女性専用車両やらいうんがあるよってエエわな。
ああ、今朝もよう混んでるわ。
うわあー、もう女性専用車両も満員やがな。こんなん乗れへんわ。
ちょお待ちぃ、ミっちゃん。オバちゃん駅員さんに言うてきたるわ。
ちょっと駅員さん、女性専用車両、足らんのん違うん?
今すぐ一両、増やしてえな。
何ゆうてんの。ミっちゃんが痴漢に遭うたら、あんた責任とってくれはんの?
あかんわ、アンタでは話にならん。上のもん呼んでや!
何やミっちゃん、もうエエて、アンタ。
あかんで、アンタみたいな別嬪さん、痴漢に狙われるで。
ああ、そやな。時間もないしな。
ちょっと駅員さん、今日は我慢したるけど、ちゃんと上のもんに言うときや!
ほなミっちゃん、オバちゃんが守ったるわ。オバちゃんの後ろに隠れとりぃ。
誰もミっちゃんに手ぇ出させへんで。安心しいや。
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ミ~っちゃん! ミっちゃん! こっちや、こっち。
あははあ、びっくりしたあ? 一緒に帰ろー思て待っとってん。
ミっちゃんご飯まだやろ? 一緒に何か食べて帰らへんか。
友達? ああ、お友達か。ふーん…。
あかんあかん、アンタみたいな若い別嬪さんが夜遅うに街うろついとったら。
はいはい、ごめんなアンタら。ミっちゃんはオバちゃんと帰るねん。
悪いけど今日はアンタらだけで行って。また今度、誘うたってなー。
なあ、ええやろ、ミっちゃん。オバちゃん、ミっちゃんのこと待っとってんで。
あ、そう。やっぱりアンタ、エエ子やなあ。
ほな、なに食べてこか。そやな…ミっちゃん肉好きか。焼き肉いこか。
ええねん、ええねん、オバちゃんがご馳走したるがな。
若いもんがそんな遠慮したらあかん。水くさい事ゆうたらあかんで。
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ほい、ミっちゃん、これ焼けてるで。こっちも焼けてるわ。
どんどん食べてえや。ほれ、野菜も食べなあかんで。
ご飯おかわりは? 肉もっと頼もか。何でも好きなもん注文してや。
ええ? もうご馳走さん? えらい小食やねんねえ。
最近の若い子はやれダイエットやなんや言うてあんまり食べへんねんなあ。
せやけど、ミっちゃんは細いねんから、しっかり食べなあかんで。
そうゆうたらミっちゃん、アンタ普段はご飯どないしてんのん?
自炊。はあ。エラいんやねえ。学生さんの一人暮らしやと自炊も大変やろ。
親御さんは心配したはるやろねえ。
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ミっちゃん、おはよう。
これな、オバちゃん弁当作ってん。良かったらミっちゃん、昼に食べたって。
学食? ああ学食な。コンビニ。あかんて、そんなん。栄養偏るわ。
オバちゃんの弁当は栄養満点やで。ミっちゃんの好きなお肉も入れたぁるでな。
な? 持ってってや。遠慮しんといてや、ほんま。
おおきに。ミっちゃん、ほんまにエエ子やねえ。
ほな、あんじょう気張りや。行ってらっしゃーい。
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おかえり。弁当どやった? 美味しかったやろ?
ええ、なんやて。弁当いらんて…なんでそんな。
そやから学食とかコンビニは…ああそうか…友達なあ…
最近の若い子らは…なんちゅうの? かふえーとか言う洒落たとこで食べるんやろ。
そらそやな…オバちゃんの田舎料理なんか迷惑やわな。
堪忍なあ、ミっちゃん。
オバちゃん、つい、ミっちゃんが娘みたいな気がして…
また娘に弁当作ってやれる思たら嬉しなってなあ…。
ええわ、わかった。明日からまた淋しゅうなるけど。
ええねん、オバちゃんが悪いねん…堪忍な…。
あ、ごめん、気にせんとって。ほんま年取ると涙もろなってアカンわ…。
…え? ほんま? 食べてくれるん?
また弁当持ってってくれるん? ほんまに?
いやあ、嬉し。ほんまに嬉しい。
ほなオバちゃん、明日からまた腕によりかけて美味しい弁当作ったるわ。
ミっちゃん、あんたほんまにエエ子やねえ。
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へええ、ミっちゃんアンタ、彼氏いてたん?
いややわあ、そない大事なこと、オバちゃんに教えといてや。
で、どんな子? 同じ学校? どこら辺に住んでんのん?
写真? どれ、オバちゃんに見せて。
どれどれ。へえ、男前やねえ。今はイケメンっちゅうんやな。
せやけどな、ミっちゃん、気ぃつけなあかんで。
男なんかみんなアホで嘘つきや。
まあミっちゃんの彼氏はそんな事ないやろけどな。
オバちゃん? オバちゃんも結婚してたで。昔な。
そやけどアカンわ。オバちゃんは男見る目なかったんやね。
旦那、よそに女こさえて逃げてしもた。
ホンマにもう男はこりごりや。
男なんかロクなもんちゃうでホンマ。
そうか、ミっちゃん、彼氏いてるんやあ…ふーん…。
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あれ、ミっちゃん、どないしてん。目ぇ腫らして。
なんぞご不幸でもあったんか、喪服やろ、それ。
ええ? なんやて? 彼氏、亡くならはったん? なんでまた。
事故。えっ、轢き逃げ? 犯人捕まったん?
白のセダン…て、そんなん佃煮にして売るほど走っとるがな。
手掛かりがそんだけて、話ンならんな。
大体、ご丁寧に2回も轢かれたら、そら、たまらんわ。そら死ぬわ。
…え? なんで知ってるんて…。
あー…ほれ、なんや、アレやがな…新聞。
そう、新聞で読んだんや。夕刊に載ってたやろ。
どっかで見た男の子や思ててんけど…今、話聞いて思い出してん。
そやそや、ミっちゃんの彼氏やってんな、あの記事。
ほんまビックリしたわ。
ミっちゃんも新聞は読まなあかんで。
新聞読まな、アホになるで。
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ミっちゃん、どこ行くん? そんな大荷物抱えて。
実家。ええ? ミっちゃん、実家帰ってまうん?
ああ、なんや。一週間だけ。
そやな。彼氏亡くならはって淋しいもんな。
たまにはお母ちゃんに甘えてくるとええわ。
せや、駅まで送ったるわ。荷物重いやろ。
オバちゃん、車出したるさかい。ちょっと待っとってや。
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はい、お待たせ。
うん、オバちゃん実は車持っててん。まあ殆ど乗らんけどな。
オバちゃんなあ、渋滞キライやねん。それに街中やと駐車料金もバカにならんやろ。
せやから地下鉄ばっかや。もう車も売ったろか思てんねん。
ああ、それ? ちょっとぶつけてしもてな。
思いきりボンネット凹んでしもてん。みっともないやろ?
せやけど、たまにしか乗らんもん、修理すんのも勿体ないやん。
オバちゃん、普段あんまり乗らへんよって、運転ヘタクソやねん。
大丈夫。ミっちゃん乗せてんねやから安全運転で行くでな。
はい、乗って乗って。
…うん、まあ…そやな。オバちゃんの車、白やな。
セダン? これもセダンちゅうの? ブルウバアドやろ、これ。
ふうん…せやから言うたやん、佃煮にして売るほど走っとるて。
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ミっちゃん、おかえりぃ。
あははは、びっくりした? 今日からお隣さんやで。
あ、これ、つまらんもんやけど、引っ越しの挨拶な。石鹸、使うやろ?
いや、なんでて言われても…水くさいこと言いないな。
ほれ、遠くの身内より近くの他人て言うやろ。
これからは、オバちゃんのこと親やと思て頼ってくれてええねんで。
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あ、ミっちゃん、おかえり。
遅かってんな。あかんで。若い娘さんが夜に外うろついとったら。
夜は早ように帰ってきて家でご飯食べるもんやで。
はい、オバちゃん、夕ご飯こさえといたったからな。一緒に食べよか。
鍵? ああ、鍵な。
ミっちゃんアンタ、電気メーターの上に鍵置いてるやろ。
あんなんすぐ泥棒にバレるで。不用心やさかい、これからは自分で持っとり。
オバちゃんは大丈夫。
これな、合鍵。さっき作ってきてん。
なんやのん、そない顔して。
心配せんでも合鍵代はオバちゃん出しといたるわ。学生さんはお金あらへんやろ。
な、これで安心や。これからはご飯も掃除もオバちゃんに任せとき。
どないしてん。あんまり箸が進まんようやな。お腹空いてなかったん?
なんか食べてきたん? あかんで買い食いは。エエとこの娘さんがする事ちゃうで。
胃ぃ? 胃の調子悪いん?
胃ぃかあ…胃はストレスやな。
あかんでぇ、ストレスは溜めこんだら。
今度、オバちゃんとパーッと遊びに行こか。
ミっちゃんの行きたいとこ、どこでも連れてったるで。
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机の上の?
ああ、なんか知らんけど散らかっとったよって、ほかっといた(捨てておいた)で。
ええ? そうなん? あれ、要るもんやったん?
いやあ、それは堪忍なあ。オバちゃん何も分からんもんで。
ただ、散らかっとんのが嫌いやねん。そやから掃除したろ思て。
資料…て、なんや知らんけど、そんな大事なもんやったら、
ミっちゃんも、ちゃんと片しとかな(片付けておかないと)アカンわ。
な? そやろ? オバちゃん、なんか間違うたこと言うとる?
ほんま、ミっちゃんは箱入り娘さんやからなあ、
ポーッとしてて、オバちゃん心配でしゃーないわ。
これからもオバちゃん、あんたのお母ちゃん代わりに頑張るでな。
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今日もよう混んでるなあ。
ミっちゃん、電車くるで。危ないよって後ろ下がりや。
ちょっとミっちゃん、何すんのん! 危ないやないの! ちょっと…
あっ、ミっちゃん!
誰かー! 誰か助けてえー! ミっちゃんが線路落ちてもたー!
ちょっと早よう引き上げたって、早よう誰か…ああ、電車が。
あかん! 電車とめてええええー!
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ミっちゃん! ミっちゃん大丈夫か? 返事しぃや、ミっちゃん!
ちょっと駅員さん、早よう電車どけたってや!
ミっちゃんが下敷きになってるんやで!
あ、ちょっとそこのアンタ、それ、腕、拾といて。
ミっちゃんの大事な腕や。あ、そっちの脚もな。
ボケッと見とらんと早よ拾いや!
急いで病院持ってったら、まだくっつくかもしれんやろ。
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は? 事情聴取? まあ…よろしおますけど…。
いや、隣に住んでる大学生の女の子ですねん。
まあ独り暮らしで難儀してはったみたいやから
アタシがいろいろ面倒みてきたってんけどね…。
さあ…分かりまへん。
なんで急にあんな真似してきたんか。いきなり突き落とそぉしてきましてん。
な、君も見てたやろ。オバちゃん、何もしてへんなあ?
あの女の子がオバちゃんを突き落そと押してきたん、ボクも見てたなあ?
オバちゃん、何も悪ないやろ、オバちゃん、被害者やろ?
いやホンマ最近の若い子は何考えてるか分からしまへんわ。
恩知らず言うか…あれやろか「ヒト殺してみたかった」ちゅうヤツやろか。
おーコワ! ヘタに親切も出来へん時代やわ。
あ、はい。ほなこれで。また何かあったら連絡…はい、どうも。
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あ、ちょっとボク! そこのボク! そう、アンタや、兄ちゃん。
昨日、一緒に証言してくれた子やろ?
オバちゃんのこと覚えとる? 昨日のホームで…女の子落ちた時の。
この駅やったらまた兄ちゃん来るかな思て、オバちゃん待っててんよ。
あん時は面倒かけて堪忍やったなあ。
おかげでオバちゃんも助かったわ。おおきになー。
今日はお礼したい思てな。
どやろ、焼き肉でもご馳走させてくれへん?
焼き肉好きやろ? オバちゃん美味しい店知ってんねん。
遠慮せんでええねんで。若い子が遠慮なんかしたらアカンで。
兄ちゃん、名前なんちゅうの。
亮平。ええ名前やねえ。りょう君て呼ばしてもろてエエかいな。
オバちゃんはな、トミ子ゆうねん。
アンタ、どこの子? どこら辺に住んでるん? 学生さん?
オバちゃんの死んだ息子にそっくりやわあ。
りょう君、あんたホンマにエエ子やねえ。
作者退会会員
怖いというより、心の中の「うざい」ボタンを連打中ww
『何がイヤかって「想像力に欠けた善意の押し付け」ほど
タチの悪いもんはないわー。
しかも、拒絶したり少しでも非難めいたこと言ったら
ものすごい心外そうな顔されて、こっちが悪者にされてしまう事も。
いっそ明確な悪意の方がまだ対処のしようがある。
ほんま、かなわんよなー』…って話を友達としていたら、
こんなオバハンが生まれてしまいました。
トミ子さんはフィクションです。全国の「トミ子」様にお詫びしますm(__)m
しかし、トミ子さんの進撃はまだ続きます。