とある夫婦が体験した奇妙な話。
ある日Kさんが残業の為いつもより遅く家路に着いた時の事。
くたくたになりながらも玄関へと足を進めていく途中で彼はそれに気づいた。
玄関の近くに置いてある物置が開いている。
ただ、その時は別段驚きもしなかった。
大方妻が何かを使った際に閉め忘れただけだろうと思ったからだ。
Kさんは物置の中を確認もせずに閉めると、そのまま玄関を開け妻と夕食の待つリビングへと急いだ。
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「・・・今日は物置を開けたりはしていませんよ?」
帰宅した夫の為に夕食をテーブルへと並べながら、Kさんの奥さんは不思議そうに言った。
「お前が開けてないってんなら・・・一体誰が物置を開けっ放しにしたってんだ?」
「さぁ・・・・何処かのお子さんがイタズラで開けていったんじゃないですか?」
Kさん夫妻には子供が一人いたがもうすっかり大人で就職時に家を出ており、今はKさんと奥さんの二人暮らしである。
二人が知らないとなるとこの家以外の人間が開けていったと考えるのが自然だ。
「人んちの物置を勝手に覗いていくとは。どんな馬鹿だまったく・・・・」
「あの中には大した物は置いていませんでしたけど、一応後で確認しておいてくれます?」
「あぁ解った。これを食べたらちょっと見てくるよ」
そう言ってKさんは普段通りに食事を済ませると、外へ出て物置の中を確認してみた。
しかしやはり特に何かが盗まれている様子はなかったので、その日はあまり気にせずそのままにしておいた。
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だが次の日、残業で夜遅くに帰ってきたKさんは昨日と同じ光景を目の当たりにした。
今度はすぐに中を確認したが変わらず盗られた物もない。
妻に聞いてみてもやはり開けてはいないという。
「今日買い物に行って帰ってきた時にはちゃんと閉まっていたんですが・・・」
「買い物から帰ってきたのは何時位だ?」
「・・・確か6時位だったと思います」
という事は6時からKさんが帰宅した10時までの間に誰かが物置を開けていったのだろう。
だとしても何のために?
「これ以上イタズラされても困るからな。明日の休みにホームセンターに行って物置に取り付けれる鍵を見つけてくるよ」
「そうですね。何かあってからでは遅いですし・・・」
翌日、Kさんはステンレス製の掛け金を物置に取付け買ってきた南京錠をセットした。
「これでもう勝手に開けられる事はないだろう」
二つあった鍵は一つは妻に預け、もう一つは自分の書斎の机の引き出しに入れておいた。
おかしなイタズラもこの日で終わるものだとKさん夫妻はその時は思っていた。
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休み明けの次の日の事。
その日は残業もなくKさんは8時頃には我が家の前まで着いていた。
物置の方に目を向けると扉はしっかりと閉まっており、昨日付けた鍵もキチンと付いている。
ふぅと安堵のため息をもらしながら物置の前を横切り、玄関へと歩いていたその時だった。
ガツン
不意に右隣の物置の中から物音が聞こえた。
一瞬驚いたが中で何かが落ちたのだろうとすぐ冷静さを取り戻した。
しかし・・・
ガツン・・・ガツン・・・
物音は一向に鳴り止む気配がない。
中に何かがいる・・・
Kさんは試しに物置の扉をノックしてみた。
ガン、ガン・・・・・
・・・・・・・・・・・ガン、ガン
同じようなノックが数秒後に返ってきた。
中に人がいるのか?
「・・・誰かいるのか?」
物置の中にいるであろう誰かに語りかけてみるが返事はない。
「おい聞こえているか?・・・いるんだろう?・・・おい」
「・・・・・・・・おじさん誰?」
聞こえてきたのは男の子の声だった。
声からして年齢は恐らく10歳前後だろうか。
「そこで何してるんだ?・・・どうやって中に入った?」
Kさんは中の少年に問い掛けた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
しかし返事がない。
「おい、どうした?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「おい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
たった一言発しただけで、少年はまた黙ってしまった。
辺りには夜の虫の鳴き声だけが響いている。
Kさんは仕事の疲れもあり少し苛立っていた。
「おい、黙ってちゃ解らんだろう!何か言ったらどうだ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「おい!いい加減にしろ!でないと~」
「・・・おじさんも僕を閉じ込めるの?」
「えっ?」
不意に背筋を悪寒が走った。
恐怖で思考が停止する。
何だ?どういう意味だ?
ガツン・・・・・ガツン・・・・・
扉を叩く音がまた鳴り出した。
思わず一歩後ろに下がる。
ガツン・・・・・ガツン・・・・・
やばい・・・何か解らないが危険だ。
気づけば玄関へと走って逃げ込んでいた。
直感がこのままここにいてはいけないと知らせていた。
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「あらお帰りなさい・・・・・どうしたんですかその顔?」
帰ってきた夫のただならぬ顔を見て妻が心配をしている。
「おい、昨日渡した物置の鍵はちゃんと持ってるか?」
「えぇ、まだ一度も使ってませんからその他の鍵と一緒にキーボックスに~」
最後まで聞かずにキーボックスまで急ぐと、中に物置の鍵が入っているのを確認した。
すぐに書斎に行って机の引き出しの中も確認する。
中にはしっかりともう一つの物置の鍵が入っていた。
おかしい・・・どうやって中に入ったんだ・・・
鍵を掴む指がぷるぷると震えた。
後から部屋に入ってきた妻に事情を説明すると、妻の顔はみるみるうちに青ざめていった。
その日は恐ろしくてそれ以上どうする事も出来なかったので、明日の朝に物置を調べてみようという事となった。
そして翌日の朝。
妻と二人で恐る恐る外へと出て行ったKさんは信じられない物を見た。
そこにはありえない形にひん曲がった南京錠と子供一人が出られる位に扉が開いた物置があったという。
その後Kさんはすぐにその物置を撤去した。
一時は元々中に入っていた一部の物が庭に出しっぱなしの状態だったそうだが、そんな事は気にしてなどいられなかったそうだ。
「新しい物置を買おうかと思う時もあるよ。でもまた『あの子』が戻ってきそうな気がしてね。あれからうちにはずっと物置がないんだ」
そう言ってKさんは苦い顔をしながら語ってくれた。
その時物置の中にいたであろう子供の事は、今も何一つ解っていないという・・・
作者バケオ
久々の投稿となります。
随分の間投稿していなかったので色々拙い文章ですが、お許し下さいませ。
物置に限らず開いている扉は何か不安にさせるものがありますね。
私は夜中にトイレに行く時にリビングや風呂場のドアが開いていると、いちいち閉めてからトイレに入っています(^^;)