その箱は、ある古びた家屋を取り壊している時に発見された。
その家屋は、何の変哲のない住宅であったが、
数年前にその住宅に住んでいた家族が一家揃って行方不明となり、
その後、長らく放置されてた結果、
木造部分の腐食が進み、屋根は傾き、いつ倒壊してもおかしくない程に荒れ果て、
取り壊しの工事が行われたのだった。
その工事の最中。
その箱は、発見された。
地面の中から、発見された。
箱を発見した関係者は、その箱を見た瞬間、既視感に包まれた。
日本人なら誰でも、その箱を一度は見たことがある。
土砂にまみれ、蓋となる部分は壊れてはいたが、
幅180cm
高さ40cm
桐でできた、白い箱。
その箱は、
死者の埋葬に用いられる
「棺」だった。
まさか…
関係者は慄いた。
地面に埋められた棺。
その中にあるモノ。
それがなんなのか。
誰もが想像したとおりのモノが…
いや、者が、入っていた。
箱の中にあったモノは、
死体である。
蓋が壊れていた為に土砂にまみれ、
すでにミイラ化していたが、
確かに、人の死体である。
…
だが。
その死体の身元を調査するうちに、
幾つか不審な点が見つかった。
まず、指紋が無かった。
正確には、
両手合わせて10本の指全ての表面が、
『削り取られていた。』
まるで、表面を削ぎ落とすために鑢にかけたかのように。
爪も全て剥がされており、ただ指にくっついているだけにような有様だった。
また、頭部にも外傷があり、何かに頭を強くぶつけたかのように、『額が大きく裂けていた』
…
不審な点は、まだある。
服装、そして持ち物である。
有り触れたメーカーの、Tシャツにジーンズ。
死者を祀るにしては、カジュアルな格好である。
そう、その格好は、まるで、
『近所に散歩に出かける』ような、
ごく日常的な、普通の格好である。
ポケットの中にも、
財布や携帯電話といった身元の解る物は無かった。
ただ、
オイルの切れた100円ライターと、焦げたレシートが一枚入っていた。
そのレシートも、文字は既に消えてしまい、身元に繋がるヒントにはならない。
結局、指紋からも持ち物からも、死体の身元が解る物は見つからなかった。
いったい、この死体は、何処の誰なのだろうか?
…
調査を進めるうち、
さらに、驚愕する事実が発見された。
棺を調査していた時である。
棺の内側に、傷が発見された。
その傷は、何かの切り傷…、
いや、掻き傷のようであった。
だが。
その数が尋常ではなかった。
棺の内側の木の表面の形が変形する程の量であった。
そして、更に調査を進めるうちに、
恐るべき推測が打ち出された。
内側の傷は、
全て『棺の中の死体の手が届く範囲』に密集していたのだ。
そう、例えるなら、
棺に中に横たわった人物が棺の内側を引っ掻き続ければ、このような傷が生じる、ということだ。
…
さらにもう一つ。
戦慄する事実が見つかった。
棺に中には土砂が入っていた。
その土砂は、ちょうど死体の顔の辺りに密集していた。
当初は、地下に埋められているうちに棺が破損し、中に土砂が入り込んだと推測されていた。
…だが、違った。
棺は、『内側から破壊されていた』
ちょうど、棺に中の死体の、頭の正面に位置する箇所が、破壊されていた。
内側からの衝撃で、である。
…
棺の中の擦り傷と、死体の指の欠損。
棺の内側からの破壊と、死体の頭部の外傷。
この二つの事実は、『とある真実』を、関係者に悟らせる。
まさか。
まさか。
まさかまさかまさか。
…
『生きたまま、埋められた?』
…
…
…
…
…
…
…
死体の身元調査と、事実の解明のため
家屋の取り壊し工事は中断された。
そして、その家屋の残骸を調査しているうちに、
新たなる発見があった。
家屋の残骸に中から、
一本のカセットテープが見つかったのだ。
だが、そのカセットに録音された内容を聞いた時、
この棺と死体の謎が更に深まることとなった。
…
…
…
以下は、テープに録音された内容である。
…
…
…
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music:3
『おい!
なんなんだ これは!
おい! お前!
聞いてるんだろ!
出せよ!
ここから出せよ!
いきなり攫って!
こんな箱に閉じ込めたがって!
一体俺を、どうする気だ!
…
俺が何をしたってんだよ!
おい!
なんでこんな事するんだよ!
そこにいるんだろ!
もう酸素も残り少ないんだ…
苦しいんだよ…
…
いいか! 解ってるんだろうな!
これは犯罪だぞ!
誘拐だ!
監禁だ!
俺が警察に行けば、お前は破滅なんだぞ!
解ってるんだろうな!
ここから出たら、だだじゃおかねえ!
…
おい!
おい…
返事しろよ。
そこにいるんだろ?
聞いてるんだろ?
な、なあ、ちょっと言い過ぎたよ…
だからさ、あんたがここから俺を素直に出してくれりゃあさ、
お前がやったこと、黙ってるから…
もちろん、警察に行ったりなんかしないからさ…
だからさ、出してくれよ…
…
あ?
なんだって?
Δ×~γθ⚪︎×αθγ×?(聞き取れない。何かの名前?)
そんなもの聞いた事もねえよ
え?
◽︎ω×ε◽︎⚪︎廿△?(同じく聞き取れない)
知らねえよ!
何度も言ってるだろ!
お前、気は確かかよ!
おい!
おい!
だから知らねえって言ってるだろ!
おい!
おい!
…
…
なあ、出してくれよ…
お願いだよ
暗いのはもう嫌だよ
息苦しいんだよ
何なんだよ
なんでこんなことするんだよ…
…
なあ、なあ、頼む
俺が悪かったんだ
きっと、俺が悪かったんだよな?
反省してる…
だから、出してくれよ…
…
何でもするから、
出してくれよ
命だけは助けてくれよ…
金ならいくらでも払うから
なあ、そこにいるんだろ?
返事してくれよ
寂しいんだよ
一人にするなよ
おい、
おい!
おいおいおいおい!
おい!
…
な、なんだって?
なんて言ったんだ?
…
え?
穢れ
は?
浄化する?
は?
生贄?
νθΓΔΩ×⚪︎×γの生贄?
おい、何言ってるんだ?
俺が?
生贄?
なんで?
お前、普通じゃねえよ
なんなんだよお前は…
おい!
おい!
やめてくれよ…
気が狂いそうだよ…
なんなんだよそれ…
…
もう…
やめてくれよ…
耳元でブツブツ言うんじゃねえよ
黙れ!
静かにしろ!
やめろって言ってるんだろ!
…
いや、ダメだ、やめないでくれ
一人にしないでくれ
やめてくれよ
いくなよ、いくな
だめだ
だめだよ
やめてくれよ
おい
…
おい
…
…おい
…
(カリ)
(カリ)
(カリカリカリ)
(カリカリカリカリカリカリ)
※しばらく無言。何かを引っ掻く音のみが聞こえる
(カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ)
(カリカリカリカリカリカリ)
…
出してくれ…
なあ…
助けてくれ…
(カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ…カリ…カリカリカリカリ)
(カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ…カリ…)
…
(ガリ!)
痛え!
爪が…剥げた…
痛いよ
痛いよぉ
(ガリ)
(ガリガリガリ)
(ガリガリガリガリガリ)
(ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ)
…なあ、
頼むよ
助けてくれよ…
知らないんだ
νθΓΔΩ×⚪︎×γなんて、知らないんだ
本当だよ
俺は無関係だ
だから
出してくれよ…
(ガリ!!)
(チュク…)
(ガリガリ)
(ガリガリガリ)
(ガリガリガリガリジクガリガリガリ)
(ガリガリガリガリガリ)
(ガリガリジクグチュガリ)
(ガリガリガリガリグチュガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリブシガリガリガリ)
…
…頼むから
出してくれ
ここから出してくれ
苦しいんだよ
もう息が出来ねえ…
助けてくれよ…
…
…
…
…
…
…
アア
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アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!※叫び声?
(バン!)
※硬い物に何かを打ち付ける音?
(バン!)
(バン!)
(バン!)
(バン!)
(バン! )
アアアアアアアアアアアア!!
頼む!
…もう、気が狂いそうだ…
(バンバンバン!)
(バンバンバンバン!)
(グチュ)
頭が、痛え…
もう嫌だ…
(バンバンバン!)
(バンバングチュバンバンバン!)
(バンバンビチャバンバングチュバンバンバンバン!)
(バンバンビチャバン!)
嫌だ嫌だ!
嫌だ!
嫌だ!
出してくれ!
ここから出してくれ!
(ドン!)
(ドン!)
(ドンドンドン!)
(ドンドングチャドン!)
(ドンドンドンドングチドンドンミシドンドンドンドンドン!!)
(メキ)
(メキメキ)
(バキ!)
(バキバキィ)
…
…やった!
板が、…壊れた!
出れる!
これで出れる!
…
(ガサ)
(メキ…バキ…)
…
(ザ…ザザ…)
わ!
うわ!
(ザザザザザザザザザザザザザザ)
な、
なんだこれ!
土が、
土が、入ってきた
埋まる、
埋まっちまう!
う、ペッ!
ペッ
ぺッ
ゲハゲボ!
うぅ
ダメだ
苦し
息が、出来ねェ
だめだ
死ぬ
死んじまう
助かったと思った…のに…
死ぬんだ
死ぬんだ、俺…
…
嫌だよぉ
やだよぉ
死にたくない
死にたくない
死にたくないよぉ
死にたくない
死にたくない死にたくないて
死にたくない死ニたくない死にたくナい死にたくない死にたクない死にたくな
嫌だ嫌だ嫌だいヤダあやダ
死にたくな嫌嫌だ死にた嫌だ知らない知らない俺は知ラない嫌だダメだ嫌だくルし嫌…死にたく死に死に死死に死にたく助けテ
出してここから出して嫌だ暗いは嫌だやだやだやぁやだやだやだやだゃ助けヤダゃダいやだやだやだやぁやだ死にやだやだやだ
やだ
や
だ
や
や
…や
……だ
…ァ
…ァ
…
…タ…ス…
…
…
…
…
…
…
…
…
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カチ(何かの操作音)
…
…
…
…
…
…
…
ブツン』
(ここでテープは終わる)
…
…
埋められた男性は、
はたして誰と会話をしていたのか。
今も解らないままである。
作者yuki