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僕には自称霊能者を謳う友人がいた。
霊能者といえど、やる事は幽霊に物理攻撃を仕掛けたり、フラッシュライトのストロボで消滅させようと試みたりする
所謂異端の存在だった。
「だった」という表現なのは、今はもう彼は居ないからだ。
高校を卒業し、初めての春
僕は大阪の大学に進学し、友人も進学するものだと思っていたのだが、彼は就職も進学もせずに、ただ卒業した。
ある日、友人から『心霊スポットへ行こう』、と誘いが来た。
その頃の彼は、少し様子が違っていた。
思いつめているというか、こんな誘いが来たのは久しぶりだったので、喜んで付いていく。
今回は僕の家からも10分歩くか歩かないかくらいにある古いビルだ。
移住者はいるのだが、 昔、その屋上から飛び降り自殺をした人間がいるのだという。
友人とは、現地で合流し、このビルにまつわる話を語ってくれた。
「俺さ、このビルの二階の公文に小学校の時通っとったんよ」
公文に通っていたという話は聞いていたが、通っている教室は隣の市だと聞いていたので、頭に疑問が浮かぶ。
「なかなか問題が進まんくてな、窓の外をずっと見とったんよ
そしたら、窓の上部から下に向けて何かが落ちた」
「飛び降りたんですか?!」
なんてこった!
こいつはその自殺した瞬間を目撃したってのか?!
すると、友人は、フフと笑い、「違うよ」
と否定した。
「あの人はね、死んでもなお死に足りないんだろう」
訳が分からない、と思った。
「そうよな、俺も訳が分からん」
彼の背後に見えるビルの屋上から、何かが落ちたような気がした。
友人はビルに向けて歩み出す。
僕も後を追う。
「俺には自殺する人間の思考が分からない…」
そう呟いた。
屋上へ続く階段は南京錠で鍵をかけられていたが、友人はポケットから小さな鍵を取り出し、鍵を開けた。
ギィィ…と、錆びた鉄が悲鳴をあげ、その口を開いた。
彼は何も喋らない。
「その女性はなんで飛び降りたん?」
と何気なく問いかけた時だ。
彼は少し驚き
「なんで飛び降りたのが女だと思った?」
と問いかけてきた。
なんでも何も…と言おうとするが、わからない。
もちろん事前にここの話を調べたわけでもないのだが、彼の様子を見るに、飛び降り自殺図ったのは女性なのだろう。
耳鳴りがした、それもこれまでにないほどのビィーーーー…耳が痛い。
彼の背後だ、無数の人影がまるで夜の闇から這い出るように現れ…、彼を…
ビルから引きずり落とそうと…
ハッと目が覚める。
幻覚…なのだろうか。
そして彼は言った。
「俺には…自ら命を絶つ人間の感情がよくわからない」
二度目だったが、無表情の彼は少し悲しみを帯びているようだった。
一週間後、彼と連絡が一切取れなくなった。
彼は、もう俺の手の届かない所に行ってしまったのだろうか。
だが、その後も彼のばら撒いた火種は、僕に多大な影響を及ぼすのだ。
それは大学卒業まで続く。
作者慢心亮
o(^▽^)o