music:1
僕の友人だった奴から聞いた話だ。
小学校五年生の頃の話だ。
俺は『白い影』との遭遇により、弱まっていた霊感を取り戻しつつあった。
リビングの隣に、最早物置と化している和室があり、風呂上りにパジャマを取りに和室に足を踏み入れ、電気をつける。
チッチッチと電球がストロボ点灯をするのだが、半開きの押入れの襖の中に女が見えた。
ゾワゾワと嫌な感触が全身に走る。
鳥肌だ…
数分経っただろうか?
未だに俺は動けないでいた。
▼
高校二年生最後の冬、久しぶりに押入れのドアに手をかけた。
スゥゥ…、と襖の木と木の擦れる心地よい音が鳴る、居るな、俺は確信する、押入れの中だ、リビングとは違い、冷たい空気が部屋を覆っている。
襖は僅かに隙間を空けている。
まるでその隙間がこの世とあの世を繋ぐ口のように思えるが、襖に歩み寄る。
開く。
目の前に、大きく目を開き青白い顔をした女の姿がそこにはあった。
俺が苦しんでいた小学校五年生…いや、幼少期から続く悪夢の黒幕だ。
女はこちらに手を伸ばす。
青白い中に紅い筋が見える。
冷たい手だった。
『 』
呟く。
女は動きを止めた、俺があの人に託された言葉だ。
女の姿が歪む。
まだ消えない、もう一度呟く。
女が何か言っているが、聞こえない、口を動かしているが、いびつに歪んだ女の顔
また口が動く。
すると、女は雪が溶けるように消えて無くなった。
▼
この話をしていた時の彼の顔を俺は未だに忘れられないでいる。
いつも不敵な笑みを浮かべていた友人
彼を助けていたというおっさん。
二人はこの街にはいない。
いや、この世にももう居ないかもしれない。
「人間は幽霊を退治できない、出来るのはただ…ただ連れて行ってやることだけだ」
僕はその言葉の意味をいずれ知らなければいけないのだろう。
作者慢心亮
ノーコメント!