中編3
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「面白いものを見せてやる」

そんなことを言われたら誰でも付いて行ってしまうだろう。

それも、自分と同じ趣味を持つ友人ならば尚更だ。

高校一年生の夏。

言ったのは僕の友人で、自称霊能者の変人だった。

もちろん付いて行くと答えると、彼は当たり前だと返した。

相変わらず強引なやつだ。

今は友人の部屋にいる。

「まだ4時か…」

友人が腕時計を覗き込みながらそう呟く。

時間によって見られるかどうかが違ってくるようだ。

彼が「昼でも出るもんは出る」と言っていたことをふと思い出して、笑ってしまう。

唐突に彼が

「バッターくん覚えとるか?」

と尋ねてきた。

バッターくんというのは、友人の命名したある電柱の上の方にしがみついている霊のことだ。

道端のど真ん中に居るからバッターくん

なんて意味不明な理由で彼がつけた愛称だ。

今思うと、道端の意味間違ってないか?

なんて疑問が頭に浮かんだが、指摘したら面倒くさそうだから指摘しない。

「それがどうしたん?」

と言いながら、麦茶を口に含む。

「あの近くのところやねんよな

おもろいところ」

上機嫌だ。

だが、その上機嫌も、天井からの足音のような音でかき消された。

彼の顔から表情が消え、うるさい、と一喝すると、音はやんだ。

彼曰く、霊体でも怖いものは怖いそうだ。

だからと言って、心霊スポットにガスガンを持って行くのはやめて欲しい。

6時までは、彼の体験した怪談を聞き過ごし

「さあ、行こうか」

と立ち上がった。

外に出ると、空は綺麗な青紫に染まり、西側は淡いオレンジ色をしていた。

熱されたアスファルトから陽炎が立っていたが、直射日光が無い分まだ涼しかった。

現場までは歩きで行くそうだ。

友人お気に入りの稲荷を通り、バッターくんに辿り着く。

上を見上げると、相変わらずと言うべきか、それはそこにいた。

視線が合った気がし、身震いする。

友人は前を見据えて歩いていた。

「ここだ」

そう言うと彼は立ち止まった。

真っ暗で何も見えない、日は完全に落ちている。

友人がプププと含み笑いをする。

何がおかしいんだと思った時だ。

彼の足元から気配を感じた。

そこからだけではない。

周りに何かの気配を感じる。

耳鳴りが鳴る。

突然一箇所が橙色で照らされる。

友人がいつの間にか懐中電灯を取り出していた。

光が彼の足元を照らす。

そこには丸いものに毛が生えた…。

人間の頭が…。

なんてことはなく、猫が居た。

黒と白のマーブル柄がかわいい猫だった。

猫は僕を睨んでいる。

「面白いものって猫のことなん?」

とため息混じりに言うと、彼は可愛いだろ?と言いながら笑う。

まだ耳鳴りは鳴っている。

周りの気配も全て猫だった。

全ての猫が僕を見ていた。

ゾッとする。

後ろに何か立っている。

猫は僕を見ているのではなかった。

後ろの何かをジッと見据えていたのだ。

友人は屈んで猫を撫でている。

気付いていないわけはない。

動けなかった、声も出ない。

その場を静寂が支配する。

周りは住宅があるのだが、誰も通らない細い道だ。

少し向こうの車道を車が通り過ぎる。

猫が鳴く。

「クハッ…」

空気が漏れる音が聞こえる。

僕の口から漏れたようだ。

動ける…後ろを振り向いたが、何も居なかった。

「まだおるで」

そういったのは友人だ。

俺には見えないが、友人には見えているというのだろうか?

ここではな…と友人が語り出す。

「10年前に、猫好きの女の人が、ここの野良猫に餌をやっている時に、後ろから殴り殺されたんやって。

即死だったんだと」

その女性が僕の後ろに立っていたのだろうか…。

「犯人はこの近所のおばさんで、野良猫が集まることを嫌がって、注意をしたんやけど、いくら言っても聞かんから殺したんやってさ」

猫が友人の手から逃げるように去っていく

彼は立ち上がり。

「彼女は死んだことをまだ理解してないんやろな」

少し寂しくなった。

猫たちはその女性に餌をもらえると思い、集まってきているのだろうか。

友人が昔言っていた話を思い出す。

「人間の噂話で霊が作られるなら、猫も例外じゃないんかもな」

脳内で呟いていたつもりだったが、言葉になっていた。

それを聞いた友人は僕を見て、いつものニヤニヤ顏を貼り付けて言った。

「俺の見解もそんな感じや」

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面白かったです。

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群青さん
コメントありがとうございます!
猫って良いですよね(o^^o)
でも自分は猫アレルギーぽいんですよ…泣

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猫可愛いですね。触れないけど、触りたくなります。

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