友人の姉に、俗に言う《見える人》が居る。
名前は《のり塩》
通称《のり姉》
彼女は、人を見るのと同じ様に幽霊を見、山や川を見るのと同じ様に妖怪変化を見る。
拙くは有るが、彼女の話をしてみよう。
強く、脆く、優しく、残酷で、
そして、心の底まで腐敗してしまった彼女の話を。
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ある日、のり姉とスーパーで買い物をしていた時の事だ。
一人の人物がのり姉に話し掛けて来た。
「のり塩!久し振りだな!!」
話し掛けて来た相手は、男だった。
黒く短めの黒髪と、こざっぱりした服装。更には良い笑顔。
全身で爽やかオーラを発している様な、そんな奴だった。
・・・・・・正直な所、僕の苦手なタイプだ。
抑、女性が男と二人で買い物をしていると言う状況の中で、そんな平然と話し掛けに行ける神経が理解出来ない。
「弟さんだよね?」
あ、単に子供扱いなだけだったのか。此れが兄や友人ならば、こんな事は無かったのだろう。ちゃんと彼氏として認識されていた筈だ。
いや、別に、のり姉の彼氏になんて認識されたく無いけど。
其れでも何か苛つく。
僕は曖昧に頷き、一礼した後に、そっと距離を置いた。
男はのり姉の方を向き、親しげに話し掛ける。
のり姉は、苦虫を噛み潰した様な顔で答えた。
「元気だった?高校以来だと思ったけど。」
「其の高校も、途中からだけどね。三年になっていきなり転校して来たんだから。」
「確かにそうだけどな。あ、皆元気?あんまり会ってないから、分かんなくて。」
「知らない。私がそんな事知ってる筈も無い。」
「のり塩、そう言う所は変わらないな。じゃあさ、のり塩が仲良くしてた連中は?」
「・・・・・・元気、なんじゃない。」
「そっか。あ、そうそう。三村の奴居ただろ?」
「興味無い。」
「相変わらずの無関心っぷりだなー。のり塩、昔からそんなんじゃ無かったか?」
「覚えてない。」
「結婚したんだってよ。一年先輩だった田辺と。」
「そう。」
「出来ちゃった婚だってさ。其れにしたって早いよな。再来月にはもう産まれるって。」
「・・・・・・。」
「あと、隣のクラスに居た山崎。覚えてるか?彼奴は・・・」
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「ねえ。」
唐突にのり姉が強い声を発した。
男は一瞬肩を震わせ、黙った。
のり姉が逸らしていた目線を合わせ、一歩だけ男に近付いた。
「ハルナちゃんは、元気?」
男の顔が、血の気を抜いた様に白くなる。
のり姉は更に続けた。
「知ってるんでしょう?」
距離を少しだけ縮め、のり姉はニヤリと笑う。
「彼女の中にはね、貴方のーーーーー」
「黙れ!!折角話し掛けてやったのに、変な事言いやがって!!!」
男は後退りをしながら叫んだ。
然し、そんな大声程度でのり姉が止まる筈も無い。
「此方こそ、折角教えてあげようとしてるんだから、逃げないでよ。」
のり姉の顔から、フッと笑いが消えた。
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「ねえ、最近右の肩が妙に重たくない?」
「五月蝿い!!」
ブン、と空気の動く音がした。
男がのり姉に向かって腕を降り下ろしたのだ。
「お前に何が分かる!!仕方無かったんだよ!!」
「責任は彼女だけの物?散々弄んで、一方的に捨てるのが本当に最善策だった?するべき事が他にも、有ったんじゃない?」
「じゃあどうしろって?!産ませろってか?!高校生だぞ!!出来る訳無いだろ!!!」
「違う。そんな事は誰も言ってない。貴方は、きちんと悼み、ちゃんと受け止めるべきだった。貴方のすべき事は、懺悔と贖罪だった。」
のり姉がスッと腕を上げ、男の肩を指差す。
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「誰に対する物かは、自分で考えなさいね。」
哀れむ様な表情で、のり姉はゆっくりと瞬きをした。
「多分、もう遅いけど。」
そして、クルリと僕の方を向き、笑った。
「・・・・・・鶏肉、まだ買ってなかったね。何処だっけ?」
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帰り道、僕は彼女に言った。
「さっきの・・・」
のり姉は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「ああ。あんまり説教臭いのは得意じゃないんだけど。」
そして、何処か遠い目をして笑う。
「アレはもう、駄目だろうなぁ。ちゃんと供養してあげても。自業自得だけどね。」
僕は少しだけ苦々しい思いで聞いた。
「水子・・・・・・ですか。」
「・・・ん?」
のり姉は、一瞬不思議そうな顔をした後に、ポツリと答えた。
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「ううん。居たのは《お母さん》の方。あれは、多分、生き霊とかじゃない。」
彼奴の右肩で、笑ってたよ。
作者紺野-2
どうも。紺野です。
書いていた話が勝手に消えてしまったので、急遽別の短い話を書かせて頂きました。
オリジナルタグ、一応付けておきました。
宜しければ、お付き合いください。