長編9
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野球観戦

私が高校に入学したての頃まだ友達はいなかった

なぜなら中学生の頃にその高校に志願したのは私一人で、受かったのも私だけだったからだ

まだ友達がいなかったから“グループに入れず一人だけ”というのがいちばん恐かった

そこで思いついたのが部活に入ることだ

美術部、バド部、バスケ部、吹部、水泳部、テニス部、ソフトボール部…

なんだか中学生の頃と殆ど変わりばえない部活ばかりだった(地方の田舎の学校だったからかもしれない)。しかし、映画鑑賞部などという変わったもの

も2・3個あった

運動するのも嫌だし文化部も嫌だしよく分からないまま野球観戦部に入った

部活の内容は至ってシンプルで野球観戦を皆でするというものだった。

普通に皆も優しくて、野球観戦もルールを覚えると楽しいものになっていった。何よりかっこいい2年生の先輩がいたことがとても嬉しかった

学校が夏休みになり部活にも慣れてきた頃“東京ドームに行って野球観戦をしてくる”という内容で合宿らしきものが行われた(ホテルに泊まったり普通に快適だったら合宿といいきれる気がしない)。

3日で構成されてて

1日目は東京に来た初日だから休む

2日目は野球観戦

3日目は東京を楽しむため観光

でもチケットが取れなくて1部の部員は来ることができなかった

私は先輩と仲良くするチャンスだと思った

「先輩は巨〇が好きなんですよね!」

「でも楽〇も好きなんだよな〜」

そんなことを新幹線の中で話していて予想以上に話が盛り上がったのでとても楽しく話すことができた

「実は俺、見えるんだよね」

「え??」

「幽霊とかがww」

「どんなのが見えるんですか?」

「…」

彼の話は

野球観戦をしていると、よく赤い服を着ている女性を見かける。顔は見えないことが多いが、たまにちらっと見えてその顔は全て別人

また、年齢層もばらばらでまとまりがないが共通しているのは自分の前の席に座っていることと、常に帽子を被っていて野球に熱中する様子もなくただただすわっているだけという事、赤い服を着ていること。

更に詳しく言うと全身赤の格好だそうだ

こういう類の話には殆ど興味がないので話だけ聞いたら

「気味が悪いですね」

などと言って軽く流しておいた

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2日目の野球観戦の日

席に行く途中に先輩が突然あっ!と声をあげた

「いるよ」

「え?何がですか?」

「赤い服の女」

そこには全身が赤い服の女はいなかった

先輩が座る席の前の席はただの空席だった

「怖いこと言わないでくださいよ〜ww本当に怖くなっちゃったじゃないですか〜www」

「え?何言ってんだ?あそこ、俺の座る席の前のとこに髪が肩ぐらいでキャップを被った女がいるじゃん」

「……」

言葉が出なかった

だってあそこには誰もいない、何もないただの空席だ

でもおかしい

今回の試合は、とても人気でチケットが入手困難なはずだ

他の先輩が少し遅れたから、もう人で埋め尽くされているはずの時間帯だ

だから周りは人で埋め尽くされている

しかしその席は不自然に空いている

突然背筋が凍った

“怖い”その2文字が頭をよぎった

しかし恐怖はそこで終わらなかった

「今こっち見た」

先輩が告げた

さらに先輩は続ける

「え?こっちを凝視してる。初めてまともにあいつの顔を見た。」

「何か喋ってる」

「.....」

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「具合はどうですか?」

優しい雰囲気の看護婦さんが話しかけてきた

どうやら今は病院のベッドの上にいるらしい

自分でも信じられないが、自分が何故今ここにいるのか全く分からない

言い換えると記憶がない

ズキッ

頭の後ろの方が痛い

「少し頭痛がします」

「そうですか、わかりました。そう言えばまる2日も寝ていたんですよ?ここには救急車で運ばれてきて大惨事だったんですから!くれぐれも安静にしていてくださいね。今先生を呼んできます。あ!お友達が来ていますよ中に通していいですか?」

「あぁ、どうぞ。お願いします」

部活の皆が来てくれていた(東京に一緒に行った人達)

「大丈夫!?」

「うん…」

「よかった…」

「そう言えば私、何があったの?」

「ええとね…」

(以下皆の話)

私はあの後倒れて偶然他の部員の所に倒れた。まさに不幸中の幸いだった

その後急いで救急車を呼んで都内の病院に搬送してもらった

その時は人がかなり集まって大変だったそうだ

地元に残っている部員にもこのことは伝えていて話し合った結果

とりあえず東京にいる人は用事がない限り帰らないで私を見守ること

だそうだ

結局試合をみることはできなかった事は、みんなは言わなかったが察することができた

これは皆の優しさだからあえて何も言わなかった

……。待てよ。

何かを私は忘れている

けれども思い出せない

…………………。

「ねぇ、行く時は13人だったよね?1人足りなくない?」

「……。(一同沈黙)」

1人の先輩が切り出した

「〇〇(先輩の名前)だろ?」

私ははっとした

私が忘れていたのは先輩だ

全て思い出した

私は無我夢中に問いただした

「先輩は今どこ!?ねえ!どこ!?無事なの!?」

今思い出すと先輩に向かってタメ語で喋ってしまったとても失礼だ

「知らねぇよ!あいつはあの後俺達が目を話しているうちにどっか行ったんだよ!仲間が大変なときにどっかに1人で行ったんだ!」

再度沈黙が走った

でもその時の私にはそんなことなど関係ない

私は冷静さを失っていた

だからこのままいくと絶対に皆に迷惑をかけてしまう。それだけは分かっていた

だから取り乱す自分を必死に抑えて告げた

「帰って下さい…。今日はとりあえず。頭の整理します。なのでお願いします……。…。すみません…。」

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その日の夜、私は喉が乾いたのでジュースが飲みたくなった

自動販売機へと向かいお金を入れ“りんごジュース”のボタンを押す。その瞬間

「おい」

後ろから先輩の声がした。とてもびっくりした。

私は先輩のことを心配していたし、一刻も早く先輩の姿を確認したい

しかし記憶を取り戻したために怖くなった

だけどやつぱり先輩が心配だから、私は思い切って振り向いた

やっぱり先輩がいる

しかし、その時の先輩はとても窶れていてあの先輩とは思えなかった

目も据わっていてとても怖かった

「大丈夫か」

先輩が問いかける

「はい、大丈夫てす。心配、ありがとうございます」

「…」

「…」

「見えてんだろ?」

突然先輩が切り出す

私は何のことか全く分からなくて話に追いつけなかった

「俺の後ろ。見えてんだろ。とぼけるなよ。」

「えっ?」

「なあ!見えてんだろ!正直にいえよ!」

何事だと思い先輩の後ろを見つめる

やがて後ろからスッと女の人が現れた

ひじあたりまでの長い髪、普通体型

そしてあの赤い服、赤いキャップ、赤いTシャツ、赤いスキニー、赤いサンダル

顔は…

私にそっくりだった少し下を向いてて見ずらいが、あの顔は私そのものだ

顔だけでない。体型、髪の長さ、全て私だ

彼女の表情は無表情だ。喜怒哀楽が全くない。それを見せる素振りもない。とても気味が悪かった

驚きの余り私は無意識に彼女を凝視してしまっていた。それが間違いだった

ばちっ

目が合った

改めてみてもやはり表情がなく気味が悪い。この世のものとは思えなかった

目が合って気づいたことがある

それは私と違う点があることだ

彼女には、瞳が片方の目に3つずつある。ピラミッド型に3つ確かにある

何度見ても気味が悪い。そう思った

同時に恐怖も感じた

だがその時の私の考えは今思うと恐ろしい

“あれは私ではない”

この考えが頭をよぎり恐怖の中に安心感も感じてしまった

“これは私に似てるから先輩は私に言ったんだ”私はそう悟った

「それは私なんですか?」

「そうだよ!お前だよ!これはお前だろ?なぁ、なんとかしろよぉ!」

「あのときなぁ?お前が倒れたときなぁ?こいつなんて言ったと思うか?『見つけた』なんだぞ!俺の事を探してあらかじめ取り憑くつもりだったんだ!」

先輩は遂に泣き出してしまった

しかし後ろの女は全く反応をしない

私も恐怖の余り泣きたくなった

だけどここで泣いたら私が負けな気がしたため、あえて泣くのを必死で堪えた

辺りには先輩の鳴き声だけが響きわたる

その状況に私は耐えられなかった

…………

……………………

………………

…………………………。

「なあ」

遂に先輩は口を開いた

「これ、お前なんだからさぁ、お前が引き取れよ」

先輩はもうパニックになっていたんだと思う

なぜなら話しながら何度も「ヒヒッ」とか「ハハッ」とか笑いながら私に告げてきたからだ

「これお前の責任だよな?」

先輩はそれをずっと言い続けた

私はその瞬間からゆっくりと女がこちらに近づいて来ている、ということがわかった

“怖い”

そう思った

更には“嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……”

「嫌だ!!」

ついに叫んでしまった

言う予定が全く無かった言葉だ。頭の中を何回も流れて言葉として出てしまった

それでも私は

「お前らなんか知らない!近寄るな!あっちいけ!」

そんなことを無我夢中に叫ぶ

こんな事をしては、もう自分を保っていられなかった

「ダダダダッ」

だから私は逃げた

もう後悔してもしきれない程のことをした

先輩には申し訳ない、いや、それではすまない程のことをした。けど私は人間がよくできていない、だから自分が一番大事。

後ろなんて振り返らない

振り返ったら奴が襲ってくる気がした

無我夢中で走った

とにかく逃げた

不思議なことに、通行人は誰一人としていなかった

急いで自分のベッドの中にもぐる

その時は既に9時少しを回っていて消灯時間も近かった

恐怖で寝られないと思っていたが、いつの間にか私は眠っていた

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朝、私は病院のベッドで食事を取り昨日のことを考えていた

“あの赤い服の女は何だったんだろう”

“あのとき逃げたことは正解だったんだろうか”

などの沢山の疑問を解決しようと私は考えを巡らせていた

プルルルル…プルルルル……

携帯がなる

相手は同じ部活の同級生のMちゃんだった

「もしもし」

「もしもし、○○(私の名前)ちゃん?」

「うん、そうだけど…」

「大変なの!どうやら本格的に先輩が行方不明になっちゃったそうで…」

「先輩なら昨日の夜私と会ったよ?」

「え!?それ本当!?じゃあ警察の人に連絡しておくね!」

そこで電話は切られた。相当忙しかったんだろう。電話の時も息が少し切れていた

後日、警察の人から事情聴取された

私はありのままに伝えようか悩んだが、信じて貰えないと思った。だから“会ったけど挨拶しかしていない”と嘘をついた

本当は罰せられるけどそんなことはどうでもよかった

2週間後私は退院した。精神状態があまりよくなかったそうで、入院時期が少し長引いての退院だった。入院中に夏休みが明けたので部活にも学校にも行き、今まで通りの生活を送った

更に1ヶ月後先輩は遺体となって発見された

死因は自殺でもう既に腐敗していたそうだ

それと、先輩の近くに赤い服の女はいなかった

ここからは後日談

あの時私が会った赤い服の女は私のドッペルゲンガーかと思われた。しかし、私はこうして今でもちゃんと生きている

また、その赤い服の女にもあれ以来会っていないし見かけてもいない

結局、正体は謎のままだ

先輩にはひどいことをしたと思う。私のせいかは分からないけど先輩の人生を狂わせてしまった。お葬式にも行った。とても泣いた

だから私は今までよりももっと強く生きていこうと思った。先輩の分もしっかりと。

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コメントありがとうございます
とても嬉しく思います

確かに生霊という見方もありますね

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途中で鳥肌が立ちました。自分に顔が似てるってことは自分の生き霊なんですかね。

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