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中編4
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待ち影

勇斗「はぁ、綺麗だったな。」

香奈「うん!近くで良かったね。」

二人は大学生3年生。

6年間付き合っている。

就職活動前の最後のデートに選んだのは某テーマパークが期間限定で開催している「光の街」というイベントだった。

テーマパーク内が無数のLEDで彩られ、様々な世界が表現されている。

花畑、運河、フェリー、チャペルなど。

全てが光の粒で出来ている。

自然にため息が出るほどの美しさ。

それが作り出す大切な時間。

溶けて混ざり合ったみたい。

ここでプロポーズしない手はない。

勇斗「無事に就活終わってさ、大学卒業して仕事が落ち着いたら・・・。」

香奈「・・・。」

勇斗「その・・・、結婚してくれ。」

みるみる潤み、赤くなっていく香奈。

香奈「うん・・・。」

それ以上声が出せなかった。

勇斗も笑顔のまま何も言わなかった。

「ありがとう。」の意味を込めて、香奈の「長い髪」を超えて肩に手をまわした。

・・・という出来事が数十分前にあったのだ。

ほっこりする二人。

なんて幸せなんだろう。

明るい「光の街」を後にし、暗い夜道が二人を迎えた。

しかし、そこにも月光という粋な演出があった。

真っ白な光で照らすまんまる満月。

星の小さな光など見えない。

「御二人が主役ですよ。」と言わんばかりの堂々とした月だった。

片手はポッケに、片手は彼女の手に。

冷たい空気が暖かさを引き立てた。

香奈「ありがとね。」

勇斗「ん?」

香奈「ゆうについて行くから。」

勇斗「あぁ、俺の方こそ宜しくな。」

何かが湧き上がって来た。

守るものができた男の覚悟か。

今日は感情が様々な色に染まった。

香奈「月も綺麗ね。」

勇斗「香奈の方が綺麗だよ。」

香奈「えっ?」

勇斗「・・・って言ったらどうする?」

香奈「もぅ、からかわないで。恥ずかしいよ・・・。」

赤くなった顔が可愛らしかった。

その笑顔は一瞬で奪われた。

香奈「うぐっ・・・!」

香奈に向かって乗用車が突っ込んだ。

数メートル飛ばされ、動かなくなった。

勇斗「かっ、香奈ーー!!」

慌てて駆け寄る。

車は逃げていってしまった。

ひき逃げだ。

謎の痙攣を起こし、目は虚ろに。

赤い河が四方八方に広がっていく。

勇斗「おい、しっかりしろ!救急車を・・・。」

携帯を持った俺の手を香奈が握って首を振った。

香奈「・・・。」

何か言おうとしている。

最期の力を振り絞って。

勇斗「香奈・・・?」

香奈「・・・、ゆう・・・。つい、くか、ね・・・。」

勇斗「香奈、喋るな。目は閉じるな。」

香奈「かさ、なる、ら・・・。」

急にガクッとなった。

勇斗「・・・。」

立ち尽くす、言葉も出てこない。

香奈を守れなかった。

・・・。

葬儀に参列した後、勇斗は鬱になった。

何もしたくない。

最期の映像が忘れられない。

月に照らされた真っ赤の服の香奈。

そしてあの声。

何を伝えたかったのだろう。

分からない自分を責める。

気付けば体は爪跡だらけ。

俺が車道側を歩いていれば・・・。

犯人を殺したい。

そんな感情のウロボロスから抜け出せない。

就活なんてとてもできない。

期末試験を欠席し、留年となった。

泥を泳ぐような日々。

醒めない・・・。

・・・。

あれからいろいろ考えた。

死ぬ気で悩んだ。

俺は香奈のために生きようって。

それが答えだった。

約束通り、就活を終わらせよう。

そして、香奈の墓に報告に行くんだ。

だって、こんなだらしねぇとこ見せられねぇだろ。

しっかり自分を見て、現実を見て。

負けねぇ。

決心は香奈と別れて半年経った春の夕方に下された。

勇斗は変わり始めた。

懸命に勉強し、外に出て心を磨いた。

誰にでも誇れる自分。

誰より、香奈に恥じない自分。

それを目指すことしかできなかった。

毎日香奈を想う。

最期の言葉。

なんと囁いたのか知りたい。

知りたいと思うほどに声がループし、分からなくなる。

大切な言葉を聞いてあげられなかった自分を責めたくなる。

でも、それはしない。

香奈は望んでいないはずだから。

香奈のために生きたいから。

・・・。

やれることは全てやった。

本当に成長した。

これなら、いける!

就活が始まった。

乗り越えて証明してみろよ。

自分に言い聞かせた。

しがし、現実はあまりに苦かった。

内定が決まらない。

何社受けただろう。

心が枯れていくのが分かった。

はぁ・・・、だめか。

香奈・・・。

香奈「何?」

えっ?

勇斗「香奈!?」

香奈「声は出さなくていいのよ。ちゃんと伝わるから。」

勇斗「な、何で・・・。」

香奈「細かいことはいいから。それより何よ、この様は。」

勇斗「・・・、すまん。なかなか内定出ないんだ。」

香奈「最初は壊れた勇斗を見てられなかったけど、頑張ってくれたんでしょ?あたし為に。」

勇斗「あっ、ああ!」

香奈「まだ終わってないのよ。ゆうについていく。あたしの自慢なんだから。胸張って面接官を納得させてみなさいよ。」

勇斗「・・・そうだよな。待ってろ、報告しに行くからな!」

「最期の言葉」は「ついていくからね、重なるから。」であった。

勇斗から延びる影は長い髪を靡かせて・・・。

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