此の話は完全なフィクションです。
実在の人物、事件、団体とは何の関係も有りません。
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人の恨みは恐ろしい物で、其れは基本的に何年経っても消えない・・・らしい。
断言が出来ないのは、自分が其の例外だからだ。
誰かを長時間恨み続けたことは無い。嫌ったことも無い。だから、其の感覚が今一理解出来ない。
勘違いはして欲しくない。恨んだことや、嫌ったこと自体が無い訳ではないのだ。
只、ウジウジと何時までも恨むのは性に合わないだけ。其れだけ。
キッパリ忘れて、無かったことにしてしまう方が、ずっと楽だし。優しい自分でいられる。
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彼との結婚を決めたのは、趣味が合ったから。出会ったのは山登りしてた時で、私は山から降りる途中だった。
話が弾み、其の後、何回か会った。プロポーズは付き合い初めてから一ヶ月後だった。
私ほど優しい人は居ないと、彼は言った。当然だとも思ったが、嬉しかった。
式は身内だけでひっそりと挙げ、新婚旅行では少し遠くの山に登った。海外に行きたかったか、と彼は聞いてきたが、彼が飛行機を嫌いなのを知っていたので、何も言わなかった。
新しい部屋も借りた。広いマンションで、キッチンも綺麗だった。収納スペースも多く、便利そうだ。
彼は、私が料理好きなのを知っている。特に包丁使いはプロ顔負けだ。大きな魚も骨付き肉もあっと
言う間に解体できる。
此処でなら、思う存分に腕を奮えそうだと思った。
毎日、彼に料理を作ってあげられる。
幸せな結婚生活が始まる・・・筈だった。
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彼の母親は、良い人だった。結婚するまでは。
けれど、其の性格は結婚をしてから激変。
しょっちゅう我が家に連絡無しで訪れ、私に嫌がせをした。
例えば
・家具の趣味が悪いと文句を付ける
・突然現れては食事を作らせ、其れを残す
・お土産は基本的に腐っている
・嫌味を言う
等々・・・。
私も我慢はしてきたが、そろそろ限界だ。
いや、そもそも、私が我慢をしてきたこと自体が稀なのだ。例外の様な物なのだ。
其処まで考えて、私は大きく頷く。
此れは当然なこと。
そして、私が優しくある為には、必要不可欠なこと。
絶対に。
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ドアをノックする音。彼の母親だ。彼女は、チャイムを使わない。
私はゆっくりと立ち上がる。
・・・さぁ、全部無かったことにしよう。
全部やり直そう。忘れてしまおう。
その為に、少しだけ頑張ろう。
自慢の包丁は研いでおいた。よく行く山には穴を掘っておいた。
優しい私で居る為だ。
一瞬だけ、持てる限りの恨みと憎しみと怒りで、彼の母親を迎えよう。
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そして、また明日から、私は《優しい人》
作者紺野-2
どうも。紺野です。
店長への迸る怒りを込めて書きました。
ズリズリさんの方、遅れてしまい申し訳御座いません。