俺は12年間も交通事故で昏睡状態だった。
結婚を約束した彼女を残して。
俺は眠り続けた。
…………………。
…………………。
とっくに愛想つかされて彼女はどっかに行ってしまっただろう。
情けない自分が憎い。
憎い…憎い!!
彼女との日々が悪夢のように現れては消えていく。覚めない夢。
その彼女との幸せが毎日毎日、夢に現れる。それが一番辛い。
もう側には居ないであろう彼女を想いながら暗闇の中で動けずにいた。
どうか、あいつだけは幸せでいて欲しい…眠り続ける俺なんかを愛さずに、新しい大切な人の側にいて欲しいと願ったりもした。
そして夢にあの男が現れた。
「君は…愛されていること…忘れてはいけない。」
優しく響く声が聞こえる
「ダレだ?何が言いたい?」
優しい声は「君の夢の一部だよ」
夢の一部?優しい声がした後に
ハッキリと声の主の姿が見えた。
白衣姿の男だ…。
「彼女との約束を破るのかい?」
俺は諦めた口調で「昏睡状態の俺に、その約束は果たせない。」
白衣姿の男はニッコリ笑い
「でも、君は口では言うけど本心はそうじゃないよね?」
俺は黙り込んだ後、質問する
「俺はあいつを幸せには出来ない…俺の代わりなら沢山いる。」
白衣姿の男は黙って強い口調で俺に話す。「彼女には君しかいないんだ!
彼女は毎日のように君の元に来ては、病院に居られるギリギリの時間まで君が目覚めるのを12年間も待ってるんだぞ!」
俺は白衣姿の男の話を聞き黙り込む
「いいかい?君にしか彼女を幸せには出来ない!彼女は諦めてはいない!」俺は暗い空を見上げ
「あいつは…待っているのか…この俺を…。」白衣姿の男は俺の元へ歩み寄り「君はこの眠りから覚めて、彼女を精一杯抱き締めてあげなさい。これは私からの贈り物だ。あずま君。」
白衣姿の男は‘贈り物’だと言って俺の肩を触ると周りが優しい光に満たされ、俺は慌てて白衣姿の男の名を聞いた「私は飯島 なぐさ。君を救うために来たんだよ」
そして誰もいない部屋で目が覚めた。
そこへ花束を持った彼女がやって来た。「あ…ずま?あずま!?」
彼女は花束を落とし泣きながら俺に抱きついてきた…。
「良かった…本当に良かった…」
俺は彼女を強く抱きしめた…もう離さないように…。
「悪りぃな…かおり。ごめんな…」
彼女は嬉しそうに涙を流しながら
「奇跡が起きたね!」と満面の笑みで微笑み返す。
あれから俺の背中には手形が浮かび上がった。それはまるで天使の翼のように…。
shake
作者SIYO