雨の中を全速力で走ったので、すっかり服が汚れてしまった。
石段を駆け上がり、鳥居をくぐり、お宮の中へ逃げ込む。
何時もの公園付き神社には誰も居なくて、何だか精彩を欠いているような気がした。
「着いたね。」
ピザポがポツリと呟いた。
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・・・・・・・・・。
持ってきたスポーツタオルだけでは追い付かず、結局、僕らはお宮の縁側でジャージへと着替えた。
我が校のジャージは見た目がダサいことで有名なので、学校の外で着るのは酷く恥ずかしかった。
「雨、夜には止むって。そしたら帰れるよ。」
携帯電話を確認したピザポが、僕の方を向いて言う。
「うん。」
どこかぼんやりと雨粒が落ちるのを見ながら、僕は頷いた。
全力疾走したからだろう。体が酷く重く、眠たかった。
雨はまだ暫く止まなさそうだ。少し眠るぐらい大丈夫だろう。
僕はお宮の外壁に寄り掛かり、目を閉じた。
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・・・・・・・・・。
揺すぶられて目を覚ました。
目の前を見ると、薄い茜色の空が見えた。
「思ったより早く上がった。」
横でピザポが言ったのは、恐らく独り言だろう。
「帰るか。」
「うん。」
どちらともなく立ち上がり、ゆっくり歩き出す。
少し先を歩いているピザポが言った。
「聞かないの?」
「何を。」
「ズリズリさんのこと。」
ピザポが立ち止まり、ゆっくりと此方を向く。
振り返った彼は、軽く目を伏せていて、決まり悪そうにしていた。
「聞いてほしいのか。アレはなんなのかって。」
「うん。」
「じゃあ、聞く。アレは、何だ。」
ピザポは小さく頷き、答えた。
「ズリズリさんは、神様だよ。」
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・・・・・・・・・。
「淋しい子供を助けるのが、ズリズリさん。」
「どういうことだ?」
「普通の子供とかにとっては妖怪だけど、いじめられっ子とかぼっちにとっては助けてくれる神様的なポジション。祠っぽいのがあって、其処に何か供えるんだ。」
「何かって・・・」
「何でもいいんだよ。お菓子でも、花でも・・・文房具供えた奴も居たみたいだし。俺は三角飴。またまポケットに入ってた奴。」
「ああ、だから・・・・・・。」
「さっきコンちゃんにあげたのも同じ奴。友達が出来たら助けてくれなくなる。」
「助けてくれるって・・・。どうやって。」
「いじめられてる子なら、そのいじめてる相手を引き摺ってくれる。ぼっちには友達になってくれる・・・ってさ。」
「友達ってそれ、アレが友達って。」
「慣れだよ。慣れ。コンちゃんも最初からミズチ様大丈夫だったわけじゃないじゃん。」
「・・・へぇ。」
「高校入ってから実家帰ってなかったからかな。放置しすぎて来ちゃったみたい。」
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・・・・・・・・・。
僕らは喋りながらも、また歩き出していたのだが、僕はピザポの言葉に驚き、思わず立ち止まってしまった。
「帰ってない・・・まさか、一回もか?」
「そう。必要性も分からなかったし。別に楽しくもないし。」
何でもないようにピザポはそう言った。
確かに彼には色々あったのだろうし、あまり帰りたくはないのかも知れないけど・・・。
其処まで嫌なのだろうか。
僕が呆然としていると、ピザポはまた笑って歩き出した。
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「さっき、彼女、どうして僕らを追い掛けてきたんだ。」
無理矢理話を変えると、ピザポはもう一度、あっけからんとして言ったのだ。
「だって俺、もうぼっちでも、況してやいじめられっ子でもないし。ズリズリさんからしても助ける必要無いじゃん。だからもう、俺は引き摺る対象にしかならない。」
その一言は、何故だろう、何だかとても怖かった。
作者紺野-2
どうも。紺野です。
他の作者さんの作品に付けたコメントって消せないんですね。消えてしまいたい。切実に。
やっとズリズリさん、完結しました。
遅くなってしまい、ごめんなさい。