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中編4
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蠢く部屋

※此の話はフィクションです※

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小学生の頃、一時期、廃墟巡りを趣味としていた。

主に休みの日に、友人と宛もなく自転車をかっ飛ばし、良い感じの廃墟を見付けると下調べ等は一切無しで突入。今思うとかなり危険なことをしていた。

床が抜けて怪我をしたり、不良の溜まり場になっていたり、抑廃墟じゃなかったり・・・。色々と危険な目にも遭ったし、多数の人に迷惑も掛けた。

然し、小学生男子という奴はとかくに阿呆な生き物なのである。なので、当時は危険とも迷惑とも、其れこそ、微塵も思っていなかった。

勿論、あの日も含めて。

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隣町に新しい廃墟を見付けた。どうやら元は民家だったらしい。

「いいな!」

「だろ?」

窓も割れているし、中には蔦が張り付いて繁殖している。屋根も崩れ落ちそうだ。

此れなら、誰も住んでいないだろう。

朽ち掛けた引き戸は、いとも簡単に開いた。

「お、開いた。」

「入ってみよう。」

中は薄暗く、埃臭い。スタンダードだが、良い廃墟だ。割れた窓から射し込む陽光が、良い味を出している。

僕と友人は、意気揚々と其の中へ足を踏み入れた。

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一階の探索を終え、二階への階段を上がる。

「荒らされてないな。」

「ね。」

こういった町中の廃墟は、荒らされている場合が多い。残された家財を盗み出す泥棒、壁に派手な落書きをしていく不良・・・。

此の家は、珍しいことに其れ等の形跡が全く見当たらない。

嬉しいが、あっさりし過ぎている気もした。

なので、奥の方には行かなかった。風呂場や脱衣場が有るらしかったが、其処も恐らく、何も無さそうだからだ。

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二階は、三部屋有った。

一部屋目は物置だった。

二部屋目は子供部屋。

三部屋目・・・

「あれ?」

友人が突然、声を上げた。

「なんだよ。」

「何か音しない?臭いも。」

「音?」

耳を澄ませると、カサコソと音が聞こえた。

臭いも・・・確かにする。

「虫かな。別に珍しくは無いだろ。」

廃墟に虫は付き物だ。家の中に蜂が巣を作っていた・・・なんてこともあった。

僕は気にせず、ドアを開けた。

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其の部屋は、壁、床、家具、全てが蠢いていた。

光沢の有る黒。波打つような動き。

ゾワゾワと、まるで、部屋全体が一つの生き物のようにーーーーーー

一瞬、何が何だか分からなかった。

ふわり、と熱い風が頬を撫でる。

嗚呼、此の部屋が本当に生き物だとするなら、今の風は僕達を誘っている呼び声に違い無い。

僕はゆっくりと、部屋の中へ足を踏み入れようとした。

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「ゲホッゴホッ」

友人が口許を押さえ、其の声で、立ち止まる。

そういえば、臭いも酷い。

甲虫を放置した時の臭いを酷くした感じの、噎せ返るような、胸の底がムカムカするような臭い。

そして、其の中に一筋、腐った苺に似た臭い。一瞬、ほんの一瞬だけ、其れが、甘酸っぱい良い匂いに思えた。

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動き続ける部屋。酷い臭い。異様な熱気。

僕は呆然と其の前に立っていた。

ブーン、

壁の一部が剥がれ落ち、此方に向かって飛んで来る。

サッと避けると、其れは廊下の隅に着地した。

「あ。」

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カサコソと蠢いているのは、ゴキブリだった。

そして、壁を、床を、家具を覆っているのも、全てゴキブリだった。

動く部屋は、無数のゴキブリに覆われている部屋だったのだ。

後ろで友人が悲鳴を上げる。

グイ、と腕を掴まれた。

強い力で引っ張られる。

僕は半ば引き摺られるようにして、部屋の前から離された。

また、あの甘酸っぱい臭いが、鼻を擽った。

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「あれから、廃墟行く時は下準備するようになったんだよな。俺ら。」

「そうだったっけ。」

あれから数年。一時期は悪夢に見たあの思い出も、少しずつ薄れつつある。

友人は眉を潜めながら言う。

「そうだよ。今でもトラウマだ。お前は何故か部屋の前から動かないし。ゴキ臭も酷かったし。」

「ゴキ臭?」

「ほら、あの、如何にも昆虫!って感じの臭い。」

「ああ、あれはゴキブリの臭いだったのか。」

だとすれば、あの甘い臭いは何だったのだろう。

僕は友人に尋ねてみようと、話し掛けた。

「「なぁ。」」

二人の声が被る。

僕は口をつぐみ、手で、友人が先に話すように促した。

友人は軽く頷いて、口を開いた。

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「・・・なぁ、あの部屋、死体が見付かったんだって。俺達が行った数日後に。死後一ヶ月半経過だとさ。」

探索をしなかった風呂場を思い浮かべた。

「一階の奥か?行かなくて正解だったな。」

友人は静かに首を振る。

「違う。」

「じゃあ何処だよ。他は全部見ただろ。」

「あの部屋だよ。」

「だって、あの部屋、人間は・・・」

誰もいなかった。ひたすら、蠢くゴキブリ達で覆われていて・・・

「発見されたのは部屋の中央だ。・・・埋もれて見えなかっただけで、俺達の直ぐ目の前に居たんだよ。ずっと。」

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鼻の奥にあの時の匂いが、鮮やかに甦る。腐った苺のような、甘酸っぱい匂いだ。

嗚呼、そうか。あの臭いはーーーーー

僕は今更口を押さえ、そのまま床に嘔吐した。

Concrete
コメント怖い
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百合野さんへ
コメントありがとうございます。

ああー・・・・・・。
なるほど、大丈夫です把握しました。

はい。Google先生に聞いてみたんですけど、似てますよね・・・。

返信

ただ間違えただけなんです、小さい時にベビーチョコと奴らの…その…
奴らのベビーチョコを私がどうしたかはきかないであげてください…。
っていうのを思い出しました。

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リュミエールさんへ
コメントありがとうございます。

僕も絶対見たくないですね。一匹でも嫌ですから、部屋中となると・・・もうあまり想像したくないです。

蛆・・・。路上でなら見たことありますが、冷蔵庫の中というのは・・・身の毛が弥立ちますね。

虫って、何時の間にか入り込んでいるんですよね。閉め切った部屋なのに何処からか蚊が侵入したり。

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ちゃあちゃんさんへ
コメントありがとうございます。

避けられないぐらいのゴキブリ・・・。
気持ち悪いですね。直径1メートルって結構ありますし、一体何匹居たのやら・・・。

サラリーマンさん、グッジョブですね。僕だったらとても出来ないと思います。一匹でも大声を上げてしまいますから(笑)

僕の住んでいる所では、梅雨になると田んぼから蛙が涌くんですよ。雨蛙より少し小さいくらいの奴が道一杯に広がって出てくるんです。
可愛らしいし、轢くのが忍びないので、梅雨になると自転車が使えません。

好きで人間に迷惑を掛けている訳ではありませんからね・・・。そう考えると複雑ですよね。
まぁ、僕は見付けたら即ゴキジェットを噴射するでしょうけど。

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おぞましいですね。そんな数を見たらトラウマになりそうです。(。>д

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昔々、住んでいた街の最寄り駅のそばには下水タンク?があってG氏が大量発生した事がありました…私は帰宅するのにその道を通らねばいけないけれど、動けずに固まっていると、OLらしき女性がG氏が見えてないのかヒールの音を立てながら突き進んで行き、地面を走り回るG氏をグシャグシャと踏みながらどんどん歩いて行きました…途中、直径1mくらいある水たまりに差し掛かると水たまりらしきそれは、一斉に四方八方に走り出し…((((;゚Д゚)))))))女性には見えてなかったようでした…暫く立ちすくんでいるとサラリーマンの男性が、僕が前を歩いて行きますから後ろについていらっしゃい、と。ヒーローに見えましたよ…おかげで私は無事に帰途につく事が出来ました。翌日、薬剤散布に来ていて、道路のあちこちにG氏の亡骸がポツリポツリと…何だか少しかわいそうな気持ちになりました…

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百合野さんへ
コメントありがとうございます。

有り難う御座います。
自分が嫌だと思うものを書くというのは、中々使える手法かも知れませんね。

不躾な質問かとは思いますが・・・思い出したって、一体何をですか?

返信

mamiさんへ
コメントありがとうございます。

そう言って頂けると嬉しいです。
最初は蛞蝓にしようとも思ったのですが、あまりの気持ち悪さに断念しました。蛞蝓マジ視覚の暴力です。

僕も絶対行きたくないです。

返信

紫音さんへ
コメントありがとうございます。

僕も行きたくないです。何せ、自分の嫌いな物を組み合わせた話なので。

そう言って頂けると光栄です。有り難う御座います。

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本当にパンチのある話ですね。
色々と思い出しました。

返信

パンチありました。
行きたくない、見たくない、想像したくない…(;゚д゚)

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絶対に行きたくないヽ(;゚;Д;゚;; )ギャァァァ

夢に出てきそうです( ºωº )

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