前回までの粗筋。
生理血フェチの田中と何だか変態っぽい三島の陰謀に巻き込まれた俺は、隣町の公園にいるという、足の間から血を流す少女の幽霊《ダラダラ子》を見に行くことになった。
一人で変態二匹をセーブするのは不可能だと考えた俺は、ダラダラ子を見たことがあるという知人の狐目を巻き込み、公園へと向かった。
nextpage
~~~
「彼女が、ダラダラ子です。」
そう言って狐目は顔を背けた。
公園の隅の東屋から出て来たワンピースとボロボロのサンダルの少女。
彼女の足の間には、確かに鮮やかな赤い液体が伝っていた。
「うわぁ・・・!本当に居た!!」
田中が目を丸くして呟く。
そして、懐から携帯電話を取り出した。どうやら写真を撮るつもりらしい。
普通なら単なる心霊写真の撮影なのだろうが、田中は生理血フェチなので、その撮った写真を何に使うのかを考えると・・・。
ダラダラ子が気の毒だ。
そんなことを思っていると、突然狐目が口を開いた。
「此処では撮らない方が良いですよ。」
「え?」
「メノフィリアの田中君ですよね?・・・きっと今に後悔しますから、此処では撮らない方が良い。」
狐目が、初対面の奴に自分から話し掛けるのは、珍しい。
きっぱりとした言い方に、 田中は不思議そうな顔になりながらも頷いた。
其れを横目で見てから、狐目は生垣を乗り越え、ダラダラ子のすぐ傍に行った。
「来てください。特に何もないですから。」
そう呼び掛ける狐目が立っているのは、ダラダラ子から二メートルと離れていない距離だ。
どうやら奴の存在自体に、ダラダラ子は気が付いていないらしい。
ガサッ
軽い音を立てて、三島が生垣を乗り越えた。
「本当に見えてないみたいだね。」
ダラダラ子の視界を手で遮りながら笑う。
変態臭い。
「・・・行くぞ。田中。」
俺はマゴついている田中の首根っこを掴み、生垣の向こうまで歩いて行った。
nextpage
~~~
ダラダラ子の近くに行くと、田中が固まった。
「あ?」
みるみる内に顔が青ざめていく。
「これ、経血じゃない・・・。」
「ええ。経血ではありません。」
狐目が忌々しげに吐き捨てた。
「だから言ったでしょう。今に後悔するって。」
足を伝う液体を見詰め、林の中に声が響く。
「彼女はとある民家で、義理の父親に殺された。」
「其の血を流させたのも、彼女の義父です。」
「破瓜の血なんですよ。其の血液は。」
田中が、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。
ダラダラ子はやはり、何も反応せずにただぼんやりと立っていた。
nextpage
~~~
心に傷を負ったらしき田中を家に送り届けた後、狐目はダラダラ子について色々と教えてくれた。
「彼女は、元々はオンボロ屋敷に居たんです。」
「オンボロ屋敷?」
「心霊スポットですよ。・・・元、ですが。」
「今は違うのか?・・・ああ、ダラダラ子が出てきちゃったんだもんな。」
「いいえ。取り壊されたんです。先だっての台風で壊れてしまってたので、町の方に危険と判断されたんでしょう。」
「だから公園に来たって訳か。其れにしてもどうして出てたのか・・・。ホームレスじゃあるまいし、家が有ろうと無かろうと、幽霊じゃ関係無いだろ。」
「・・・彼処に、何か思い入れがあったのかもしれません。」
「あの公園に・・・ねぇ。せめて、楽しい思い出だといいんだけどな。」
nextpage
~~~
「でも、もう彼女は、彼処には居られないのでしょうね。」
何処か寂しげな狐目の言葉に、思わず聞き返した。
「え?」
「三島君に見付かってしまいましたから。」
三島は、道が違うからと言って帰ったのだ。
見付かった?ダラダラ子のことか?
彼は、何をするのだろうか。
「知らない方が良いですよ。知ったところで、どうにもならない。」
また其れか。
「・・・俺達の所為か?」
「さあ?・・・遠からず、起こっていたことでしょうけどね。どうせ行く道は同じだから。」
あっさりとした口調。
けれど、伏せられた目は、ちゃんと悲しそうに見えた。
俺はもう何も言わず、ただ、夕暮れの中を歩いて行った。
nextpage
~~~
その後、狐目の言った通り、ダラダラ子の噂は消えた。
そして、三島の家には、真っ赤な血液が付着した、ボロボロの子供用サンダルが一つ増えた。
彼がどうやって其れを手に入れたのか、手に入れた其れをどうしたのかは、知らない。
作者紺野-2
どうも。紺野です。
覚えていらっしゃるかたは居ますでしょうか。
ダラダラ子、完結です。
次から新しい話になります。
よろしければ、お付き合いください。