俺は狂ってなんかない!
狂ってない!!
当時の俺はパニック障害で色々と絶望していた。そのせいで就職も上手くいかず…そのストレスを家族にぶつけていた。壁を殴り、自傷行為をしたりで…俺はおかしくなっていた。
そして俺は病院に入れられた。
毎日、俺を病院に入れた父母を恨んでいた。
だが…俺のもとに新しい担当医がやってきた。
「君が、鏑木くん?私は飯島 なぐさ。よろしくね、鏑木くん。」
俺は飯島に向かって罵声を浴びせるが表情一つ変えない。
「俺は狂ってない!狂ってない!狂ってない!」
飯島はカルテを見ながら
「君をこんなにしたのはなんだい?」
俺は黙り込み口を開く
「両親さ…俺を人形みたいに扱いやがって…」
飯島はカルテから俺へと目線を向ける「そうか…両親からの愛は感じた?」
俺は下唇を噛み
「いいや、俺を冷たい目で見るだけで、何も感じなかった!」
飯島はカルテを椅子の上に置いて
拘束された俺のもとへ近付いて来た
「そうか…右目だけから涙がずっと流れてるのはなんで?」
俺は「わからない!」と怒鳴った
すると飯島は俺の額に親指を押し当てると、頭の中に映像が流れる。
父は誇りに思う俺を言葉で、褒めてあげることが出来なかった。
母は、苦しんでいる俺を必死に救おうと努力していた。
そして俺は…それを受け入れずに瞼を閉じた…。
目が醒めると、目の前には飯島が心配そうに俺の顔を見ていた。
「気分はどう?」
俺の両目から涙が溢れていた。
飯島は俺の拘束服を外し
「両親は君への愛を形でしか表せなかった。それを君は見つけられなかった」
飯島は俺の肩を叩き一枚の写真を手渡した。
その写真には父と母の間に挟まれた赤ん坊の時の写真だった。
両親の顔は優しく微笑み俺を見ている
飯島は手紙も俺に渡した。
「ケイ、お前は俺の自慢の息子だ。
ケイ、あなたは私の宝よ。私達の最愛の息子。」
その手紙を見て俺は泣き続けた。
飯島は俺の肩に手を置いて
「鏑木くん、私は君を救うために来たんだよ」
すると、眠気に襲われた。
見知らぬ部屋で目が覚めた。
そこへ看護婦がやってきた
「鏑木さん?退院しても大丈夫ですよ、ご両親にも連絡しましたから」
俺は飯島の話をする
「えぇ、飯島先生が退院を許可しましたから。」
俺は嬉しくて着替えて実家に向かった。
家に着くと誰もいない。
まあ出かけているんだろうと
久々の部屋で待っていた。
それから3時間後、家に一本の電話が鳴った。「はい、え!?すぐ行きます!!」
その電話は両親が事故に遭ったという電話だった。
俺は慌ててその病院へ走って向かうと…白い布を被って横たわる両親が目に飛び込んだ…
…………………………。
アァァァァァァァァァァァァ!!
また心が壊れそうになった…
なんで…なんで!!
俺は悔しくて、悔しくて…
その時だった、「鏑木くん…」
飯島先生が俺の後ろに立ち尽くしていた。
俺は地面に崩れ泣き叫んだ。
アァァァァァ!なんで…なんで…
飯島は紙袋を俺に手渡した。
「君の退院のことを聞いて、ご両親はプレゼントを買いに出掛けて事故に遭ったんだ。そのプレゼントを君に渡しておくよ」
俺は泣きながらプレゼントを開けると、昔、聴いていた曲のアルバムだった。アルバムタイトルは「天国からの贈り物」それと手紙が添えられていた。
「ケイ、父さんは恥ずかし屋さんだから、気付かないフリをしてプレゼントを受け取ってあげてね。父さんも、母さんも、ケイを応援してるからね。愛してるわ、私達の大切な、大切な息子。」
俺は飯島にお礼を言って泣き続けた。
飯島は俺の肩を叩き
「君は一人ではない…愛は決して錆びはしない。」
それから飯島は居なくなり、別の医者がボロボロの紙袋を持ってやってきた。「鏑木さん、ご両親の事故現場にあった物です。」
それはさっき、飯島が渡したプレゼントだった。「天国からの贈り物」というタイトルのアルバムと手紙。
「じゃあ、飯島先生が渡してくれたのは…」その時、初めて
「天国からの贈り物」という意味に気付いて、泣き崩れてしまった。
あれから6年が経った。
それから俺は有名な企業に就職でき、結婚もして3歳になる息子もいる。
「ありがとう、父さん、母さん。」
背中にはまるで天使の翼のような
手形が浮かび上がった。
作者SIYO