ぼくらは今、廃病院の前に居る。
「やっぱやめようぜ・・・。」
ぼくは急に怖くなった。
「なんだよ、せっかくここまで来たのに。ビビってんじゃねえよ。」
夏休みもあと残すところ3日。夏休み最後の思い出にぼくたちは肝試しをしようということになった。
ここは数年前、廃業した個人病院。
ぼくもここにお世話になったことがある。
ここの院長先生が苦手だった。なんだか人間じゃないような
あの爬虫類のような冷たい目が怖くてならなくて、行かないとダダをこねたこともある。
病院自体は怖くない。あの先生に会いたくなかったのだ。
数年前、院長の突然の失踪により、ここは廃墟となっている。
ガラスなんて悪戯でとっくに割られていたので自由に出入りしていて、
中にはスプレーでたくさんのいたずら書きがされ、それがいっそう不気味さをかもし出している。
ぼくらは3人で、一人ずつ入り、奥の診察室まで行き、診察室の写真を撮る
というルールで肝試しを始めた。各自、自分の携帯電話を持参している。
歩くのにライト代わりにもなるし。
ぼくらはおっかなびっくり、一人一人、交代で病院に侵入し、診療室の写真を撮った。
一通り、肝試しが終わり携帯の画像をお互い見せ合ったが、コレといって珍しい物は写っていなかった。
病院とはいえ個人病院で死人が出るようなところでもないので、まぁ、幽霊なんて出そうにもないしな、なんて話をしながらそこで解散した。
ぼくは帰り道、なんとなくポケットをさぐると、携帯が無いことに気付いた。
げっ、落とした?ヤバイなぁ。親に怒られるぞ。
そう思いながら、来た道を引き返したが見つからない。とうとう病院まで着いた。
「この敷地内で落としたのかなぁ。」
ぼくは怖くて思わず声に出して言った。今はぼく一人、でも携帯は探さなくては。
思い切ってまた敷地内に入り携帯を探したけど見つからない。
おかしいなぁ、確かにこのあたりしかウロついてないんだけど。
あれ、こんなところにも入り口があったのか。勝手口かな。
そう思っていると突然ドアが開いた。ぼくは、心臓が口から飛び出るほど驚いた。
なんと、ぼくの苦手だったあの院長が出てきたのだ。失踪したという噂の。
院長の口の端がわずかに上がった。笑ったのだろうか。
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東京都〇〇市在住 小学5年生の 溝口卓也くんがおととい深夜から行方不明となっています。
寝室で寝ていたはずの卓也君が朝になって両親が起こしに行ったところ、部屋にはおらず、その前日の深夜、卓也君は
家を抜け出し、友人と3人で肝試しに出かけ、その場所で別れてから消息を絶っています。
警察では事件と事故の両方から捜査しています。
周辺では、ここ最近男子児童への声掛けの事例が多発していたということで、警察では今回の失踪との関連を調べている模様です。
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数年後、事件もほとんど忘れ去られてしまった。
懸命な捜索活動にも関わらず卓也は見つからなかった。
俺は卓也を肝試しに誘ったことを死ぬほど後悔した。
あの日がなければ、卓也はきっと俺たちと同じ中学に進学して
一緒に笑ったり勉強したりしているはずだ。
どうか、無事でいて欲しいし、無事なら連絡して欲しい。
最悪のことだけは考えたくない。
俺は、諸悪の根源となった例の廃病院の前に一人佇んでいた。
ここも警察がさんざん捜したが、卓也は見つからなかった。
明日、ここも取り壊されてしまうらしい。
翌日、病院の取り壊し作業が始まった。
大きな重機でバリバリとあっと言う間に取り壊され、2日後には基礎だけになり、その基礎の部分から地下室への扉らしきものが見つかった。
病院創業当時はそんな物は作られておらず、たぶん後になって取り付けられたものらしい。
その地下室の発見は、大変な事件として報道された。
地下室には実験施設のようなものがあり、驚くべきもの、人類史上見たことも無いものがあったのだ。
地下室には大きなカプセルが置いてあり、その中には、人間の形をしたものがフォルマリンで保存されていたのだ。
人間の形をしたものは生物ではなく、まさしく半透明な人間の型まるで皮をそのまま脱いだような形で保存されていた。
調査した結果、それは人工物ではなく、まさしく人間の皮膚の組織と同じケラチンだったのだ。
まるで、人間が脱皮したような形、男性で、しかも1体ではなく、小学生くらいのもの、少し大きめの160cmくらいのもの、そして3体目は185センチほどのものだったという。
まるで何度かの脱皮を経たような形で保存されていた。
そしてその傍らには、老人の腐乱死体があったという。
司法解剖したところ原因は失血死と見られ、首の部分に獣に噛み付かれたような跡があったということだ。しかも、その、脱皮した殻を確認したところ、失踪した卓也のものだというのだ。
へその緒とのDNA鑑定で完全に一致した。
人間の脱皮など、現代の科学では想定できない、あり得ないことで、マスコミ各社は
この事件をセンセーショナルに各局こぞって報道した。
「マッドサイエンティスト、人体実験、エイリアンを密かに製造。」
俺は卓也と一緒に学生時代を過ごしたかった。
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でも、俺は、果たして、変わり果てた卓也を受け入れることができるのだろうか。
作者よもつひらさか