「がきごぜさんに会いに行きましょう。」
「がきごぜさん?」
聞き返すと、木葉は頷いてもう一度繰り返した。
「がきごぜさん。」
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話を聞くに《がきごぜさん》とは、どうやら旅芸人の類いらしい。
「何処に居るんだ?」
「山の中。でも、行く前に準備しなきゃ。」
そう言って鞄の中をゴソゴソと掻き回し、お菓子類を取り出す。煎餅と飴玉とチョコレート。大した量ではない。
「真白君、何か持ってませんか?」
「何かって・・・食べ物?」
「はい。食べられる物なら何でも。」
・・・お腹が空いているのだろうか。
「弁当しかないけど。」
「お米、持ってますか?」
「お腹空いてるのか?」
「僕じゃないです。がきごぜさんが。」
アルミホイルに包まれたお握りの一つを取り出し、手渡す。
「三個しかないから、一個しかやれないけど。」
「有り難うございます。僕、今日も海苔弁だから、分けられなくて。・・・お握りの分、足りないなら海苔弁食べますか?」
「・・・うん少し貰う。木葉は俺のピーマン炒め食って。」
「はい。」
木葉の弁当は、基本的に何時も海苔弁当だ。しかも、おかずもデザートも一切入っていない。
だからか、人参以外の物なら大抵喜んで食べる。
なので、俺は専ら、嫌いなおかずは木葉に押し付けている。
「真白君のお弁当は、何時も沢山おかずが有って良いですね。」
冷凍食品と残り物ばかりの弁当を羨ましがる木葉を見て、俺は少しだけ申し訳無くなった。
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話の流れから、何となくそのまま昼食を食べた。
俺のバックの中からは、あれから更にプチゼリーが数個見付かった。
「さて、行きましょうか。」
弁当を食べ終えた木葉が立ち上がる。
俺も立ち上がりながら、尋ねた。
「がきごぜさん・・・の所か?」
「ええ。少しだけ足りないですが、途中でどうにかしましょう。」
彼は大きく頷いた。
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道を歩いていると、近所の梨農園前で木葉が立ち止まった。気の良い老夫婦がこじんまりと営んでいる農園だ。
然し、今日は誰の姿も見えない。
定休日か、はたまたシーズンが終わろうとしているからか。
もう梨の収穫は終わり、一本の木に一つか二つずつぶらさがっているのを残すのみだ。
其れでも何れも大層立派な梨である。どの木にも有るし、取り忘れとかではないだろう。
・・・木葉は、一体何をどうする積もりなのだろう。
「ちょっと待っててくださいね。」
そして、突然ネットを潜り、中に入ってしまった。何が起こったのか分からないでいると、木葉は大声で叫ぶ。
「くーださーいなーー!!」
「どーうーぞーーーー。」
誰も居ないように見える農園の何処かから、確かに返事が聞こえた。若い女性の声だった。
「有り難うございまーーす!!」
木葉が御礼を言い、生っている梨を次々ともぎり始める。
「えっ・・・ちょっと?!」
五個程もぎ取り、あっと言う間に帰って来た。
「此れでよしっ・・・と。」
「いや良くない!!」
常識のズレている奴だとは思っていたが、まさか此処までとは思わなかった。
「どど、どうすんだよ其れ!!」
「がきごぜさんに・・・」
「いやいやいや、泥棒だから!!」
「泥棒じゃないです。ちゃんと貰いました。」
「でも、此処の梨農園、やってんのしわしわの爺婆だぞ!!あの女の人が何だかは知らないけど、流石に売り物に手を出すのはヤバいんじゃ」
「あれ、売り物じゃないですよ。」
「ないか・・・・・・え?」
木葉がニコリと笑った。
「あれは、木守の梨です。」
「・・・キモリ?」
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キモリ、と聞いて、俺は咄嗟にポケッ○モンスターのキャラクターを思い出した。キモリ?キモリの梨?梨なら、寧ろチコ○ータの方がビジュアル的に近くないだろうか。
「木を守る、と書いて《木守》と呼ぶんですよ。実を全て採ってしまわずに、何個か残して来年の豊作を願うんです。同じ字で、コモリ、とも呼ばれますね。」
まじないみたいな物だろうか。
「採っちゃって良かったのか?来年、梨、採れなくなったりしないか?」
「ええ。ちゃんと許可を得ました。」
当然だとでも言いた気な顔で頷く木葉。
俺は溜め息を吐きながら、もう一度説明しようとした。
「だから、あの女の人の声は、此処の農園やってる人とは違くて・・・」
「でも、あれは、梨の木の分です。もう、此処の御夫婦の物じゃない。」
木葉が、奥の方にある一際古い木を指差した。
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木の中に人が閉じ込められている、と思った。
が、理解した。
シルエットが女の人の様に見えるのだ。
然し、また直ぐに気付く。
木に張り付いた其の模様が、まるで手でも振るようにユラユラと動き出したのに。
木葉が彼女に向かい、ゆっくりと頭を下げながら言った。
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「彼処の梨は、もう全て彼女のものですよ。」
作者紺野-2
どうも。紺野です。
やっと話が本筋に入り始めました。
筆の遅さと文の雑さに、自分でも吃驚して居ります。
宜しければ、次回もお付き合いください。