坂本さんは初の出産を終え、里帰りしていた。
初孫を向かえた坂本さんの両親は、とても嬉しそうだ。
「あぁ口元はあんたそっくりだねぇ。髪が薄いのは旦那さん譲りかね?」
「まだ赤ちゃんだから生えてなくて当然でしょ。何をいってるのこの人は。」
熟年夫婦の漫才を聞きながら、坂本さんも子供を見る。
「ねえお母さん、お話が出来るようになるのってどれ位かしら。」
「あんたはせっかちねぇ。そのうちよそのうち。」
「あはは。早くお母さんとお話ししようね。」
そう言って我が子の頭をそっと撫でる。
「そう言えば、お前は言葉を喋るの早かったなぁ。」
父親が懐かしそうに話しだす。
「5ヶ月位でもう喋ってたよ。」
「嘘だぁ。そんなに良い子だったの私?」
「嘘じゃないよ。なぁ母さん。」
「ええ。でも怖かったわぁ。」
「え?怖かった?初の子供が急に喋ると怖いものなの?」
坂本さんが聞く。
「忘れないって言ったのよ。」
と答えた。
…ええ?
「初めて喋った言葉が 忘れない だったのよあなた。」
「おぉそうだったな。はっきりと喋ってたよ。この子は天才だぁなんて喜んだら母さんに怒られてなぁ。」
父親が笑う。
「あなたを寝かしつけて、お父さんと寝顔見てたら急にそんなこと喋るから怖かったわぁ。」
母親も笑う。
その時はその一回きりで、次に喋ったのは3ヶ月位後だったらしい。
「そこでやっとママって。嬉しかったわぁ。」
…私は、何を、忘れないつもりだったんだろう?
作者津軽
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