40を過ぎた今でも、思い出す事があります…。
nextpage
私は自分の不注意で、2匹の猫の命を奪った事があります。
自作品の「白い毛」には、飼った猫としては書いておりません。
nextpage
私が12歳、中学1年の時、1匹の猫の命を奪いました。
蝉の大合唱が盛んな、夏休み中の8月の中頃でした。
母は職場のお友達と広島へ旅行中。
夜は愛猫のマイケルと、近所の公園で拾って育てていた三毛猫の「ミケ」と留守番です。
nextpage
お昼過ぎ、身体が汗臭かったのでお風呂に入ろうと沸かしてました。
しかしテレビを観ていてお風呂の火を止めるのを忘れてしまい、熱湯風呂になってしまった。
私は何を考えたのか、水を入れずに風呂の蓋を開けて熱湯風呂を冷ましてました。
nextpage
居間でテレビを観ていたら…。
”ドボンッ”という音が、お風呂場の方から聞こえてきました。
私は(ヤバッ!)と思い、お風呂へ直行。
すると、熱湯風呂の中に猫のミケが入ってしまったのです。
nextpage
ミケはマイケルと違い、外に出る猫で少し開けているお風呂の窓から、家と外を行き来してました。
そして、風呂の蓋を踏み台にして外に出ていたのです。
ミケは、お風呂のお湯が熱湯とは知らず…。
また、蓋が開いてるのも知らず…。
外に出ようと、浴槽の蓋にジャンプしたんだと思います。
そして、熱湯風呂に落ちた。
nextpage
私は熱湯風呂に手を入れ、ミケを取り出しました。
すると、部屋中を逃げ回ります。
多分、火傷をしているはず。
ミケを助け出した私の右手も、水膨れが出来て火傷をしていた…。
今思い返すと、相当熱かったんだと思います。
nextpage
母も旅行で居ない。
動物病院に連れて行くにしても、自転車しかなく、仕方なくタクシー会社に電話しました。
火傷した猫を動物病院に連れて行く事を伝えたら、ペット専用のタクシーがあるからと手配してくれて、5分後に自宅前に来てくれました。
nextpage
暴れまくるミケをタオルケットに包み、キャリーケースに入れて、近くの動物病院へ向かいました。
獣医に診せたところ、身体の80%を火傷していると言われました。
助ける事は出来たとしても、普通に育たないと言われ、安楽死を提案されました。
私は悩みに悩んで、ミケを安楽死させる事に決めました。
nextpage
別室で、安楽死の処置をされるミケ。
外で待っていた私の耳に聞こえてきたのは、ミケの悲しげな鳴き声でした。
所謂「最後の声」というヤツです。
この鳴き声は、今でも忘れられません。
nextpage
そして、変わり果てたミケ。
ミケの身体は、火傷のせいで熱い。
「貴女も火傷の手当しなきゃね」
ミケを渡してくれた看護師さんに、そう言われました。
右手は火傷でただれてるのに、痛みは全く感じなかった。
ミケの方が、私よりもっと熱かった。
私より苦しかった。という思いが、痛さを忘れさせていたのだと思います。
nextpage
ミケの亡骸を、包んでいたタオルケットに包み外に出ると、タクシーの横で待っていてくれた運転手さん。
「助からんかったんか…。」哀しげに、私が抱えているタオルケットを見つめてました。
そして「帰りの運賃はサービスやけん、気を落さんよーにな?」運転手さんに言われて、帰りのタクシーの中で号泣しました。
nextpage
自宅に帰ったら、マイケルが私に擦り寄ってきた。
そして、床に置いたミケを包んでいるタオルケットを匂って、前足でカシカシしています。
タオルケットの端がハラリと開き、まだ身体が濡れているミケの亡骸が現れました。
するとマイケルが、ミケの身体を舐めているのです。
nextpage
マイケルは、ミケが死んでいる事に気付かず、前足でミケの身体をツツキながら毛づくろいをしています。
その姿に、胸が苦しくなりました。
取り敢えず、夏場で腐敗も酷くなると思って、ミケを4枚あわせのゴミ袋に入れて冷蔵庫の中へ入れました。
nextpage
一人では何も出来ないし、母親も帰ってこないから、こうするしか方法がありませんでした。
それに、右手の火傷も少しづつ痛くなってきて、奥の方からジンジンしてくる。
お小遣いを、動物病院で使い果たしたし、皮膚科にも行けず…。
仕方なく、オロナインを塗り、傷口に油紙を乗せて、包帯でグルグル巻きにするしかありませんでした。
nextpage
お風呂にも入らず、食事もせず私は布団に潜りました。
シーンとした静寂が、私を支配します。
すると、涙がどんどん溢れてくるのです。
ミケの命を奪った事がショックで、自分を責めました。
nextpage
*ガシガシ*
マイケルが、私の部屋の扉を爪で引っ掻いていたので、扉を開けてマイケルを部屋に入れました。
すると、私の足に擦り寄り「にゃー」と、哀しげに泣くんです。
私が抱き抱えると、私の頬をペロペロと舐めてくるのです。
頬は涙の筋がついていて、それを舐め取ってくれてるように感じました。
nextpage
頬を一舐めして「にゃー」
一舐めして「にゃー」
マイケルに、過ぎた事は気にしちゃダメだと言われてる気がしました。
マイケルのおかげで心も落ち着き、マイケルを抱いたまま深い眠りに落ちました。
nextpage
夏の蒸し暑さで、朝の5時に目が覚めてしまい、キッチンでお水を飲んでいると…。
”ドボンッ”という音が、お風呂場の方から聞こえてきたんです。
え…っ…?と、一瞬、身体が硬直しました。
浴槽の蓋はかぶせてるし、音がするはずはないのですのが、はっきり聞こえました。
nextpage
すると、今度は部屋中を、タタタタタタッッと走り回る音が聞こえてくるのです。
私はパニクり、部屋に戻ろうとしても、全く動きません。
私は、立ったまま金縛りにあってしまったんです。
目は動くんです。
それ以外は、金縛りなのか、硬直したまま動きません。
nextpage
視線を真横に移すと、端にミケが映るんです。
苦しそうに藻掻いているミケが…。
首を動かそうとしても動かす、マイケルを呼ぼうとしても声も出せません。
苦しそうに藻掻くミケは、時折凄い眼力で睨んできます。
その目は、光が差し込んでなく真っ黒。
nextpage
その瞬間、悪寒が襲います。
真夏で暑いのに、悪寒を感じるなんて、生まれて初めての経験です。
怖くなり、私は心の中で(ごめんね。ミケごめんね。ちゃんと供養するから…私の事…許して…)と謝る事しか出来なかった。
すると、スッと身体が楽になり、金縛りが解けました。
nextpage
私は翌朝、電話帳をめくり、ペット霊園の連絡先と住所を調べました。
そして、生活費用のタンス貯金の封筒から30000円を抜きました。
旅行から帰ってきた母に、事後報告すれば済む事だと思い、一番近いペット霊園に連絡をしたら、迎えに来てくれる言うので、冷蔵庫からゴミ袋に入れたミケを取り出しました。
nextpage
霊園の人から、持参する品々を伝えられました。
愛猫が写っている写真。
愛用していた布で亡骸を包む。
好きだった玩具と食べ物。
遺骨を入れる小さなを筒。
nextpage
これらを準備するように言われたので、ミケが愛用していたバスタオルにミケの亡骸を包み、ミケが大好きだったネズミの玩具と猫缶を準備。
遺骨を入れる筒に悩みましたが、身近にある筒が未使用の茶筒しかなかったので、茶筒を準備しました。
nextpage
朝10時過ぎ、”ビィー”と家の呼び鈴が鳴り、玄関を開けるとペット霊園の人でした。
「お待たせしました。さっ、車に猫ちゃんとお乗り下さい」家の外に、軽自動車が停まっていました。
後ろの席に座ると、車は郊外に建つペット霊園に着きました。
nextpage
まず事務所みたいな部屋に通され、ミケとの出会い、どのような性格だったか、どのような形で亡くなったのかと聞かれたので、全て正直に話しました。
すると「苦しかったのね…。大丈夫よ…今から虹の橋を渡る手助けしてあげるからね…」泣きながら、係の人がタオルケットに包まれるミケの亡骸を撫でてました。
nextpage
「貴女も大変だったわね…。今から火葬の準備に取り掛かりますから」
火葬場は、小さな建物でした。
右側に火葬をする小さな釜と、左側に小さな仏壇と、その手前に大きな白いテーブルが置いてあり、そこへ係の人が、愛用していたバスタオルで身体を包まれたミケを、釜の台に乗せました。
nextpage
「ミケちゃんの好きな玩具と好物の餌を、ミケちゃんの顔の前に置いて下さい」そう言われたので、ネズミの玩具と蓋を開けた猫缶を置きました。
ついでに、マイケルと一緒に写る家族写真も乗せました。
nextpage
そして、手を合わせてお経を唱え、ミケは釜の中へ。
そして、釜の火が点火。
「火葬は20分で終わりますが、遺骨が冷めるまで50分位かかります。先程の事務所でお待ち下さい」係の人にそう言われて外に出ましたが、事務所に戻らず火葬場の煙突を見てました。
nextpage
最初は、白っぽい煙が上がり、徐々に黒い煙に変わりました。
後ろで清掃員のオバちゃんに「黒い煙が上がったらもうじき終わるよ…」と言われたけど、理由は聞きませんでした。
というか、聞きたくなかったのが事実ですけどね…。
nextpage
後から聞いた話だと、火葬場などで上がる黒煙は、身体の皮膚などの外側が先に燃え、最後に内臓系が燃えるそうです。
内臓系が燃える時、黒煙が上がるそうです。
nextpage
火葬が済み、釜の中から骨になったミケが…。
そして、用意した茶筒に骨を一個一個箸で摘んで入れました。
全ての遺骨を入れ終えると、骨壷を綺麗なピンクの飾り袋に入れてくれて、広い仏間に連れて行かれました。
大きな仏壇に、ミケの写真を置き、お坊さんのお経…。
nextpage
お経の中に、ミケとの出会いから、命果てるまでの生い立ちを唱えてくれてます。
それに、家族を恨まず虹の橋を渡るように…と付け加えてくれて、それに緩んでいた涙腺が再び緩み涙ボロボロでした。
全て終わり、係の人に自宅へ送ってもらいました。
nextpage
帰宅すると、母は既に旅行から帰ってきていて、骨壷を持つ私を見て驚いてました。
「それ…ミケなん?」涙目の私が持つ骨壷を手に取る母。
「風呂沸かし過ぎて、蓋開けたまんまにしとったらミケが…」そこまで言うと、言葉が詰まって伝えられなかった。
「そんで、ミケが熱湯に入ったんやね?」母に聞かれ「…うん」と…。
nextpage
「しょうがないやん。それがミケの運命だったんよ。悔やんだらいかんよ?」遺骨を居間の窓側の棚に置き、私の頭を撫でてくれた母。
「ごめんね?」私は母に頭を撫でられながら謝った。
「謝ったらイカンやろ?」
「違う…タンスの中のお金使ったんよ…」
「は…?」母は、キョトンとしている。
nextpage
「動物病院で、貯めた小遣いの10000円用意したら、小遣い無くなって、ペット霊園に20000円かかって、これが残りなんよ」残りの10000円を母に渡した。
「そういう事なん?その10000円持っとき。小遣いにしたらよか…」苦笑いの母。
「ええの?」10000円受け取りながら、母に確認をする。
「ええよ。仕方ないやん。動物飼ってる宿命やろ?」母は微笑んだ。
「そうやね…。」私も微笑んだ。
nextpage
それから30数年経ちましたが、10数年に一度、ミケの事を思い出す時があります。
その時は、必ず涙がボロボロ溢れます。
涙なんて流したくないのに、ボロボロ溢れてくるんです。
多分ミケが「私の事忘れないでね?」と、問い掛けているのではないかと思っています。
nextpage
忙しい日々の連続で、飼っていた猫の事を思い出さない自分が居ます。
思い出す時は、必ず寝れない時。
特に疲れが酷く、早く寝たい時に限って眠れない。
そのような時に、飼っていた猫や、命を奪った2匹の猫の事を思い出します。
それって、不思議な力が作用してるのでしょうね。
nextpage
動物を飼っていた方へ。
たまには亡くした動物の事を、思い出してあげて下さい。
思い出す事も、供養に繋がると私は思います。
残りの1匹「元気」のお話は、また後で…。
nextpage
おわり
作者真砂鈴(まさりん)