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私は小学生の頃、よく近所の子供たちと
秘密基地だと言っては空き家に入っていました。
今考えるとだめなことだったのですが、
その頃の私は人の家に入っているなんていう感覚はありませんでした。
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これは、友達とある廃アパートに入った時の話です。
そこは外から見るほど荒れておらず、
いい秘密基地になりそうだと思いました。
また、いくつかの家具や小物がそのままになっていました。
昔ながらのちゃぶ台、洋服ダンス、欠けたお茶碗、
それにランドセルもありました。
私たちは好奇心からそのランドセルを開けました。
すると、そこには走り殴ったような字が、ずらりと並んだ紙が何枚もありました。
そこにはこんなふうに書いてありました。
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これは私が小学生だった頃の話です。
お父さんは小さな会社を経営していました。
小さな会社だけど、お父さんはいつも「誇れる仕事だ」って笑顔で私に言っていました。
だけど、その会社が倒産してしまいました。
そのため、会社も家も売り払い、ほんの少しの荷物だけを持って、
私たち家族は古くボロいアパートに引っ越しました。
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そこでの生活は今までとは全く違っていました。
お父さんは職探しに追われ、
お母さんはパートで家にいないようになりました。
私は学校でいじめられるようになりました。
私も妹も、お金がないため、
いつも同じ服しか着れなかったし、おやつも食べられませんでした。
それでも私は妹と一緒に遊ぶ時間がとても好きでした。
だから、お母さんがいなくても寂しくなかったし、
クラスの男の子にからかわれても全然つらくなんてありませんでした。
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そんなある日のことでした。
いつものように妹と一緒に遊んで、お母さんとお父さんの帰りを待っていました。
その日はいつもより遅かったような気がします。
お母さんは珍しく、帰ってきてすぐにご飯を作ってくれました。
このアパートに引っ越してからはずっとスーパーで買ってきたお惣菜ばかりだったので、すごく嬉しかったのを覚えています。
お父さんは、お母さんの作ったお味噌汁を飲みながら嬉しそうに笑っていました。
お父さんのそんな笑顔を見たのは久しぶりでした。
私も幸せでした。
本当に幸せな夜でした。
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だけど、その夜、お母さんは妹の首を締めました。
そのお母さんの首をお父さんが締めました。
そして、お父さんは首をくくって死にました。
私はただそれを見ていました。
見ることしかできませんでした。
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たぶん私はすでに死んでいたんです。
死んでいて、ずっと一人でこのアパートにいました。
だけど、ある日あの家族がやってきて、孤独だった私の日々に光が射しました。
私はあの人たちと家族になりたかったんです。
だから、勝手にお姉ちゃんになって、妹についていって学校にもいったんだと思います。
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だけど、それでもあの家族は私を受け入れてくれました。
優しい眼差しをかけて、毎日手を合わせてくれていたんです。
ああ、楽しかったなあ
幸せだったなあ
だけど、短すぎでした
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本当に短すぎた…
もっと一緒にいたかった
寂しいよ
一人は寂しい
本当に、一人ぼっちは寂しい…
誰か一緒にいたいな
いっしょにいようよ
いっしょに遊ぼう
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ねえ、あそぼう
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その声は私の後ろから聞こえたのでした。
その寂しそうな声は今でも忘れられません。
作者x hiroko
最後まで読んでくださってありがとうございます。
切ない話を書きたかったのですが、なかなか切なさを伝えるのは難しいですね。