やあロビンミッシェル子だ。
突然だが皆、脳幹出血により3年前にこの世を去った昭和の「猛者」を憶えているだろうか?
そう…桑名◯博氏だよな!
桑名氏と言えば引きこもりに始まり、シャブを食ったり、矢沢や優作と喧嘩したり、未成年猥褻事件等々、何かと世間を騒がせて来た伝説の男だ。
…
それは俺がまだ20歳の頃、双子の妹2人を連れて、親戚が営む小料理屋に晩飯を食いに行った時にまで遡る。
カウンターに3人腰掛けて呑んでいると、店の奥にある8人掛けの小上がり席から、どうも聞き覚えのある、大きな笑い声とダミ声が響いて来た。
「ガハハハハ!!!」
柄の悪い、関西弁丸出しのその声の主はそう…まさかの「セクシャルヴァイオレット」だった。
「お、芸能人♪♪ 」
俺は素直にテンションが上がったが、妹2人はなぜか桑名達を見た瞬間、嫌な顔をして「もう帰ろう!」と言い出した。
その理由を何度聞いても教えようとはせず、しきりに夏美が俺の上着の裾を引っ張ってくる…
終いには美菜の方が泣き出す始末だった。
もう、2人共ボコボコにしてやろうかとも思ったのだが、親父にバレると俺が「倍返し」にされてしまうので、そこはグッ!と堪えて店を出た。
「何なんだよ一体!サインぐらい貰わせろよ!!」
密かに、彼の生き方をリスペクトしていた俺は、滅多にないこのチャンスをみすみす逃してしまった事にかなりイラついていた。
「もう…やっぱり兄貴は鈍感ね!あの人の周りの空気とかヤバかったでしょ?気付かなかったの?」
夏美が珍しく怯えている。
「そうそう!特に桑名さんの前に座ってた黒い服着た女の人が超ヤバくなかった?恨みこもってると言うか、何かもっと邪悪な物感じたよね?!」
美菜も明らかに呼吸が荒れている。
「同意!同意!てか、美菜気付いてた? 私達がお店出る時さ、あの女の人振り返ってずっと私達の方見てたでしょ?」
「えっ嘘!キモっ!!」
「な、なんかね…すっごい目ぇして笑ってたよ…うっ!おえっ!」
そう言うと突然、夏美がゲーゲーと吐き始めた。
「きゃあ大丈夫?夏美!」
同じ顔をした美菜が、必死で夏美の背中をさすっている。
「……… 」
俺には見えなかった、桑名氏を含めた男性5人の姿しか…
「ちっ!」
俺は何か怖くなり、用事を思い出した!と嘘を吐いて逃げる様にパチンコ屋へと向かった。
…
後日、従兄弟である店主に先日の事を聞いて見ると、やはりあの日あの席には、桑名氏を含めた男性5人しかいなかったそうだ。
では、妹達があの時に見た黒い服装の女性とは一体誰なのか…
…
あれから何年経っただろうか?桑名氏が倒れ、入院した。
俺は一緒にNEWSを見ていた妹達に、今回の入院とあの女の関係の有無を訪ねてみた。
夏美はテレビ画面を指差して「ほら!」と言った。
画面には、入院する少し前の桑名氏の映像が流れている。
「…桑名さんの左腕に黒い手が巻き付いてるね」
美菜が、マモルを膝の上に乗せたまま言った。
「…まだ憑いてたんだあの人」
だが俺には何も見えない。
すると場面が切り変わり、息子さんの会見風景が映った。
白い背景をバックに沢山のフラッシュを浴びながら、桑名氏の詳しい病名と現状についての説明をしている。
その瞬間、その後ろを全身黒い服を来た女性がスウ…と滑る様に横切って行った。
そんなタイミングで、そこを人が通るのは不自然に思えた。しかし記者の誰もが気付いている様子もない。
「…今のは視えたでしょ?」
夏美が、オレンジジュースを啜りながら言う。
「…あ、ああ」
俺はゆっくりと頷いた。
【了】
作者ロビンⓂ︎
やあ彼の歌い方は誰にも真似が出来ない桑名唱法として今も尚、語り継がれています。
陰ながらご冥福をお祈り致します…ひ…