music:1
ちょうど1ヶ月くらい前
ギターの発表会を控えていた
夜中には家で練習できないと
私は
祖母の眠る墓地へと向かった
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車で走って30分
周りは山々に囲まれた
墓地にある広い駐車場に到着した
周りは静寂
祖母が眠っているため
恐怖は全くない
婆ちゃん場所貸してねー
お邪魔するよーと
祖母に手を合わせ
駐車場に戻った
1時間
2時間
と弾き続け
休憩を取っていた
夜空は満天の星空
なんて清々しいのだろう
そんな心地の良い静寂と
夏の暑さを忘れられる
涼しさ
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しばらくすると
そんな静寂を
sound:18
何かの音が破った
music:2
なんの音だろう
カツーン
カツーン
カツーン
規則正しく
その音は鳴り続けている
カツーン
カツーン
誰かいるのだろうか?
カツーン
駐車場から出る
長い坂を下り
様子を見にいく
その間も
鳴り続ける
規則正しい音
カツーン
カツーン
坂の途中で
ぼんやりと
明かりが見えた
小さな微かな光
そこから
カツーン
音がした
そーっと近づく
あと30メートル
カツーン、カツーン
20メートル
カツーン、カツーン
10メートル
カツーン、カツーン
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music:6
音の正体が分かった
Tシャツにジャージを履いた
80代くらいのお婆さんが
一心不乱に
木に
何かを打ち付けている
頭に2本の蝋燭を
顔は黒く塗っている
お婆さんが
何かを打ち付けているのだ
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しまった
ヤバいものを見た
そーっとその場から
離れる
カツーン、カツーン
15メートル
カツーン、カツーン
20メートル
カツーン、カツーン
25メートル
カツーン、カツーン
30メートル
35メートル
ふと気付いた
音が止んでいる
慎重に
ゆっくりと振り返る
20メートル先に
お婆さんが
右手には
鉈
左手には
木のトンカチを
持って此方を見ている
「アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
お婆さんが絶叫しながら
追い掛けてくる
踵を返し
私は逃げた
坂を登る
「アーーーーーーーーーーー」
後ろから
絶叫が聞こえる
おかしい
おかしいのだ
日頃の運動不足だろうと
私はまだ走れる年齢
80代のお婆さんの声が
ドンドン近付いてくる
15メートル
10メートル
5メートル
もう無理だ
私は振り向いた
近くで見たお婆さんは
目が血走り
絶叫を上げている
4メートル
3メートル
2メートル
1メートル
shake
ガツン
sound:22
当たった?
私はお婆さんの顔面に
思い切り
拳を当てた
ここでやらなきゃ
殺される
間違いなく
殺される
そう思った私は
倒れたお婆さんに
蹴りを入れた
1発
2発
「ぐぇ」
お婆さんは
ヒキガエルのような
声を上げた
私はまた逃げた
車まで
もう少し
もうちょっと
見えた
鍵を開け
乗り込んだ
エンジンをかけて
ペダルを思い切り踏んだ
駐車場から出る
長い急な坂を登る
エンジンが
フル回転して
悲鳴をあげる
車に乗っている私は
少し落ち着いて
バックミラーを見た
お婆さんは?
どうしただろう?
生きてるか?
死んでないよな?
そう心配になり
見ると
鉈を振りかざし
追い掛けてきていた
長い坂を登りきり
そのまま公道に出る
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music:5
家の近くまできて
我にかえると
運転しながら
失禁していた
家に着いても
明るくなるまで
微かな物音に怯え
一睡も出来ず
起きてきた母に
この出来事を話した
すると母から
「あの近くは漁師町だし
すぐ近くには
お遍路参りを簡単に出来る
そんな場所があるから
夜中には近付くと
何されるかわからない」と
母よ
それを早く言ってくれ
なぜこの話を書こうと思ったかというと
先週、街を歩いていたら
お婆さんと目が合い
ニタ〜っと笑い
付いてきたからです
しばらくの間は
遠回りして帰ろうと思います
作者T-HIRO
あとから調べてみたところ
その近辺は独自の信仰を持った方々が住んでいることが分かりました
知らなかったとはいえ
ギター馬鹿もほどほどにしようと思いました
今でもその近辺を走り知らないお婆さんを見ると変な汗をかきます
年内は警察が来ないか
そっちの方も怖いです
あのお婆さんが生きた人か
もしくは幽霊か
今の私には分かりません