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俺は赤帽から引き取った、スバルのサンバーの軽トラに乗って自分の整備工場に向かっていた。
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『ガッシャーン!!ガコン!ガコン!ガコン!ガコンッ!』
大きな音が響いた。
月が丸く光り輝く満月の夜…。
軽ワゴン車と、軽トラが交通事故。
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軽ワゴン車が右折時、ハンドル操作を誤って信号待ちで停まっていた俺の軽トラの右側のドアにぶつかった。
しかも軽ワゴンは、何を考えていたのか、スピードを落とさずドリフトのように尻を振りながら右折したもんだから、軽ワゴン車は思いっ切り右側に逸れて軽トラに『ガッシャーン』とぶつかった。
その反動で、軽トラは左側に横転。
しかも運が悪く、左側は少しの傾斜があり、路地の横に建つ飲食店の駐車場へ勢い良く3回転ほど転がった。
軽トラに乗っていた俺は、シートベルトをしておらず、車内でゴロゴロ転がり打ち所が悪くて搬送先の病院で2時間後に死んだ。
病室に響き渡る妻の鳴き声。
3人の子供達の鳴き声。
そして「申し訳ありません!」という男の声。
俺は、それを真上から見下ろしていた。
「えっ…俺、死んでんの?」
真下のベットでは、俺が寝ている…いや、死んでるのか…。
不思議な感覚だ。
俺は魂になって、真上から見下ろすなんて話でしか聞いた事がない。
それを体験しちゃってる…つか、俺、60歳まで死なないんじゃなかったっけ?悪魔さんよ…。
俺まだ30歳だぞ?
後、30年間死なないんじゃねぇの?
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……………………………………
俺は20歳の時、死んでもおかしくない大きな交通事故を起こした。
その頃は遊んでばかりで、夜中に親父の愛車ヨタハチで峠に走りに行ったもんだ。
その時だ。仲間とスピードを競って、峠を下っていた。
しかし俺は、スピードの出し過ぎでハンドル操作を誤り、ガードレールを突き破り崖下に車ごと落下した。
その時に仲間が消防や警察やらに連絡を入れたらしく、俺は30分後に救出された。
運が良いのか俺は無傷だった。
真っ赤なヨタハチだけが見事にペシャンコ……。
一応病室に搬送され、入院したんだが……。
親父の剣幕は今でも忘れられないな……。
大切にしていた愛車のヨタハチを、オシャカにしちまったんだからな。
お袋は「良かった!良かった!」って泣いてた。
姉貴も泣いていた。
その夜だ。悪魔が枕元に現れたのは……。
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『お前は60歳まで死ぬことは無い』
全身黒ずくめ。
頭には黒いフード。
ついでに角まである。
どーみてもサタン……。
「お前誰?悪魔?」
なんとも口が悪いガキだった。
『そう思っても構わない。
お前は60歳まで何があっても死なない。
だから今夜も生かした……』
「別に助けてくれって頼んでねぇけどな……」
フッと笑いながら悪魔に答えた。
『頼まれてはいない。
これだけは忘れるな。
お前は60歳まで死なない』
悪魔はそれだけ言うと、フッと姿を消した。
他の奴に話していいのか悪魔に確認しなかったんだけど、仲間に話したんだよね?
でも、誰も信じちゃくれなかった。
事故で頭でも打ったか?と言われちまう。
だからこれ以上、他の奴に話すことは無かった。
…………………………
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なのに、俺は交通事故にあって死んだ。
悪魔は俺に嘘を言ったことになる。
いえね、神様とか悪魔とか信じちゃいねぇ。
この世に神様なんていねぇって思ってっから。
俺の遺体が霊安室に運ばれた。
その時に、親父とお袋が来た。
お袋はギャンギャン泣いてる。
親父は俺を見たまま固まってる。
姉貴は結婚して県外にいるから、明日にでも来るんだろうな……。
なんて思ってたら、突然俺の身体が病院から抜け出し、事故現場に向かっていた。
「なんなんだ?」
俺は、軽トラが転がった飲食店の駐車場を見下ろしている。
すると、緑色に光り輝くモノを見つけた。
手を伸ばしそれを掴んだら取れた。
魂だけの俺が……。
その緑色に光り輝くモノは勾玉だった。
その勾玉を見ていたら……。
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目を覚ました。
俺は夢を見ていた。
「夢かよ……えらいリアルな夢だったな……」
身体は全身汗だく。
喉が渇いた俺は、キッチンで水道水を飲み、再び布団に入った。
次の朝、目が覚めても嫌な予感は拭えず……。
何がなんだか分からないまま、実家の整備工場に行き仕事を夕方までこなした。
それから帰宅前に、親父のお得意さんの家に車を引き取りに行く事になっていた。
お得意さんは、赤帽をしていた。
車もお得意さんも歳をとり、軽トラも必要ないって事で、俺の工場に連絡をくれたってわけ。
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そして、赤帽の軽トラを受け取り、整備工場へ車を走らせていたら、妙な感覚になった。
夢と同じ光景だったからだ。
運悪く俺は、前方の交差点の信号が赤で信号待ちをしている。
左側には夢で見た飲食店……。
後ろに車がいないのを確認して、俺は急いで車一台分バックした。
バックした数秒後、夢で見た軽ワゴンが右折に失敗して、俺が元々停車していた場所へ突っ込んで、止まり切れず飲食店の方へ……。
俺は車を降り、軽ワゴンの方へ駆け寄ると、バツが悪そうにそのまま走り去って行った。
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そして、軽ワゴンが走り去った場所に、緑色に光り輝くモノが落ちていた。
拾うとそれは勾玉。
拾った直後、勾玉は砕けてしまいバラバラになってしまった。
すると『ほら、死ななかっただろ?』と、あの時に聞こえてきた悪魔の声が耳元で聞こえた。
そういう事が何度も起きている。
自分が死ぬ夢や、命を落としそうな瞬間に何度も遭遇しているが、45歳の今でもまだ死んでいない。
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信じるか信じないかはアナタ次第です。
お
わ
り
作者真砂鈴(まさりん)
後まで読んで頂き、ありがとうございました。
このお話は、事実かは定かではありませんが、再婚した旦那には聞いた話です。
『何があっても60歳まで死なない』っていうのも信憑性に欠けてますが、とにかく事故には強いです(笑)
一緒になってもうすぐ4年。
交通事故も何度もあってますが、ほとんど擦り傷で済んでいて、仕事柄生傷が絶えないんですが、全治1ヶ月なのに1週間で治ったり。
縫った傷も治りが早く、抜糸もセルフで抜糸するほどの変わった人です(笑)
だからあながち嘘でもない。のかなって思ってます。