中編3
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夏の出来事

 あれは社会人として働きだして1年目、初めての1人暮らしを始めて間も無かった頃に起きた出来事。

 その頃の私は深夜のジョギングを日課にしていた。

 家を出て近くの公園を通り過ぎ、そしてぐるっと一回りして家に戻ってくる。簡単に説明するとコースはこんな感じか。

 その日も私は家を出てジョギングを始めた。時間は0時近くだったと思う。

 いつも通りに公園を通り過ぎようとした時、街灯に照らされた公園の中でブランコが揺れているのが目に入った。

「キイ、キイ…」  

 昼間だったら何でもない音だが、この時間に聞くととても不気味だ。

 でも何故、揺れているのだろう?誰もいないのに。まるで直前まで誰かが乗っていたような感じだ。

 だが時間は深夜。こんな時間に遊ぶ人間などいるはずがない。

「風で揺れたのかな」

 そう結論付けた私はジョギングを再開した。

 走りだそうと思ったその時…

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「お姉ちゃん」

 という声と共に腕を引っ張られた。

 思わずビクッとして振り返ると、そこには小さな女の子がいた。背格好から小学校の低学年位だと思う。

「え?」と思った。「こんな時間に?何で?」

 時間的に考えてこんな所にこんな小さな女の子がいるのはおかしい。

「ど、どうしたのかな?こんな時間に何してるの?お母さんは?」

 私は恐る恐るといった感じで尋ねてみた。

 何か得体が知れない。それに私の腕を掴んでいるこの子の手、何故か冷たい。凄くヒヤッとする。

 背筋が寒くなるのを感じる。

「んーとねー、お母さんは向こうで待ってる」

「え?向こうって何処?」

 辺りを見回しても誰もいない。

「凄く暗いところだよ。それでね、お母さんがお姉ちゃんを連れてきてって言ってるの。一緒に行こ」

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 およそ子供とは思えないような力で、私の腕をギューッと掴んで引っ張ってくる。

「ちょ、ちょっと…」

「一緒にあそぼ?」

 青白い顔でニコーッと笑いながらグイグイ引っ張ってくる。

「何この子?」凄く嫌な感じがする。

「私は一緒に行けないから‼」

 

 強めに言うと女の子がピタッと止まった。

「何で行けないの?」

 青白い顔で無表情で私を見つめながら、そう尋ねてくる。

 

「と、とにかく、行けないから…」

 女の子の腕を振り払と私は踵を返し、家に向かって全速力で駆け出した。途中で振り返ると、女の子はこちらを見たまま立ち止まっている。

 息を切らして家についた私は、ドアを開けて中に駆け込んだ。カギをかけ、玄関に座り込む。

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「あの子ヤバい、絶対にヤバい」

 

 生きた人間とは思えない。今でもあの子の顔を思い浮かべると背筋が寒くなる。

 取り合えずお茶でも飲もう。喉がカラカラだ…

 靴を脱いで玄関に上がると後ろで声がした。

「お姉ちゃん」

 ゾッとして振り向くと、玄関にさっきの女の子がいた。

「何で逃げちゃうの?一緒にいこ?お母さんも待ってるから」

 再度、私の腕を掴み、引っ張ってくる。

「お願い、私は行けないから‼1人で行ってよ‼」

「何で?」

「行けないの‼とにかく行けないの‼」

 何度も同じ問答を繰り返していると、女の子がスーッと消えていく。

 私は腰が抜けたのか立つ事ができない。

 どれ位時間が過ぎたのだろう。窓から朝日が差し込むのが見えた。

「夢?じゃないよね?」

 何気なく女の子に掴まれた腕を見ると、小さな手で掴まれた痣が残っていた。

 

 それ以来、私はあの子に会っていない。あの子は何だったんだろう?

 調べてみても近くで少女が失踪した事件も、殺害された事件も無かった。

 私は今でも不思議でならない。

Concrete
コメント怖い
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うっかり「いいよ」なんて言ったら…
素敵な怖話ありがとう。

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