あれは私が高校3年生の時。時期は秋ごろだったと思う。
いつもより少し遅く学校が終わり、家に帰るために歩いている時だった。不意にポケットに入れていた携帯が鳴った。画面を確認すると、かけてきたのは実家にいる祖母だった。
「もしもし、どうしたの?」と言うと、慌てた様子で祖母がこう言った。
「あんた大丈夫!?無事!?」
「ん?」と返した私。慌てていた祖母を落ち着かせ事情を聞くと、どうやら私に電話がかかってくる数分前、実家に自宅(両親と住んでいる私の家)から電話があったとの事。それでその電話に祖母が出たのだが、「もしもし」と言っても何の反応もない。暫くそうしていると受話器を通し何か聞こえてきた。耳をよく澄まして聞いてみると…
「う、ううぅ…う…」
という女のか細い呻き声が聞こえてきたとの事。ちなみに私の両親は共働きで、本来ならこの時間は私しか家にいない。物騒な事件が起きている昨今。祖母は私に何かあったと思い、電話口にて色々と話しかけた。でも、すぐに電話は切れた。再度かけなおしても誰も出ない。
それで私の携帯にかけたとの事だった。「何それ?ほんとにウチからだった?」と聞いても番号は間違いなくそうだったとの事。ちなみに祖母はボケてはいない。
「まあ、何かの勘違いだろう」
そう結論付けた私は祖母との電話を切ると、試しに自宅にかけてみた。
何度かの呼び出し音がなったが誰もでない。
「まあ当たり前か」
そう思い、電話を切ろうとした時だった。誰かが電話に出た。
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「え?」と思い話しかけようとすると、「う、うう…」と女の呻き声が聞こえてきた。
慌てて私は電話を切った。
「何これ…」
背筋がぞっとした。だが同時に、別の可能性が頭に浮かんできた。
「お母さんに何かあったんじゃ…?」
本来ならこの時間に母は戻っていない。でも仕事が早く終わって帰ってきてるんじゃ?
それで何かあって大変な事になってるんじゃ?声は小さくて判別しにくかったが、そう思うと母の声に聞こえない事もない。
そう思った私は急いで家に帰った。息を切らしてドアを開け、「お母さん!」と中に入ったが、中はシーンとしている。母の姿はみえなかった。
念のために各部屋とトイレ、浴室も覗いてみたが誰もいない。そもそも玄関には私以外の靴は無かった。
サーッと血の気が引いていくのが分かった。心を落ち着かせようと思ったのか、私は何故かテレビをつけようとテレビの前に座った。その時だった。
「何かいる…」
電源を入れる前のテレビの画面に何か写っている。アップの私の顔の少し後ろに、着物をきた誰かが前で手を組んでこちらを見ているのが分かった。後ろを振り向こうにも金縛りで身体が動かない。必死に画面を凝視していると、その「誰か」が私に近付いてくる。
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「お願い、やめて!」と心の中で叫んでみても変わらない。その誰かが私のすぐ後ろに立った時、私は目をギュッと瞑った。その直後、耳元で…
「気付いているんでしょ?」という女の声が聞こえてきた。私はその直後、気を失った。
数時間して帰宅した母に起こされ事の顛末を話したが、一向に信じてくれない。「気のせいでしょ」の一言で片付けられた。
それ以来、呻き声やその「誰か」は出てきていない。
でも昨日の深夜、トイレに行って寝ようとした時、
「ふふふ…」
という、どこか聞き覚えのあるか細い笑い声が部屋の隅から聞こえてきた。
私は空耳だと信じている。
作者村松明美
初めて投稿しました。よろしくお願いします。