─ピンポーン。
ある日の午後。
来客を知らせるチャイムに、茜は玄関へと急いだ。
ガチャッ
『友里!久しぶり~』
ドアを開ければ懐かしい顔。
そこにはいたのは茜の大学時代の同級生、友里である。
そして友里の腰の後ろあたりに揺れる小さな頭。
茜は少し屈んでそちらを覗き込むと、
『功太君、こんにちは』と笑顔で声をかけた。
功太君と呼ばれたこの男の子は、今年5歳になる友里の子供だ。
『‥‥‥。』
しかし茜の挨拶に、功太はさらに友里の後ろに隠れてしまった。
『ごめんね。うちの功太、最近人見知りが激しくて‥もうすぐお兄ちゃんになるのに』
少し困ったように、友里は功太の頭と大きくなった自分のお腹をなでる。
『大丈夫だよ。赤ちゃんが生まれたら功太君もしっかりするって』
甘えるように友里にしがみつく功太を微笑ましく思いながら、茜は二人をリビングへと案内した。
。。。
友里と茜は大学で出会い、四年間クラスとサークルが一緒で仲良くなった。
卒業後は、友里がわりとすぐに他県の彼と結婚した為、あまり頻繁には会えなくなったが‥友里が実家のあるこちらに帰ってくるときには、必ず茜と会っている。
今回は友里が第二子の里帰り出産で帰って来た為、久々に茜の家で会うことになったのだ。
。。。
。。。
ひとしきり、互いの近況を報告し合って一息ついた頃。友里はマグカップをテーブルに置きながら口を開いた。
『茜、早くいい人見つけなよ~』
友里に会うたび言われる言葉。
‥正直言われたくない言葉。
そう。茜は結婚適齢期といわれている年齢を過ぎつつあるが、未だ独り身だった。
茜だって好きで結婚しないんじゃない。親に孫の顔を見せてあげたいし、早く安心させてあげたいとも思ってる。けれども職場では出会いもなく、積極的に街コンやお見合いパーティに出てみるも、なかなかいい縁に巡りあえなかった。
『茜、今のままじゃ将来不安じゃないの?それに子供は本当に可愛いんだから。私、早くこの子に会いたくてたまらないよー』
そう言いながら自分のお腹をいとおしそうに撫でている友里に、茜の胸の奥に沸々とやり場のない気持ちがわき上がってくる。
(そんなこと言われたって。私だってどうしたらいいかわからないわよ。なによ、二人目が生まれるからってそんなに浮かれちゃって‥)
友里のことは嫌いではないが、この手の話題になると自分自身がひどく惨めに思えてきて。怒りにも似た感情がぐるぐると茜を苦めていた。
。。。
。。。
。。。
『そろそろ帰るね』
これから生まれる赤ちゃんの話ばかりを、話すだけ話して満足したのか。友里は功太の手を取り、立ち上がった。
友里と会う前よりはるかに重くなった心で、茜は『下まで送るよ』と後に続く─。
玄関を出て、アパートの1階へと続く階段の手前で。
友里は『ここでいいよ』と笑顔で振り返る。
茜の部屋はアパートの2階。
1階へ降りる為のこの階段は結構急なので。身重の友里を気にして茜も付き添おうと思ったのだが。。
万が一ここから落ちたりでもしたら、友里はもちろん、お腹の赤ちゃんもひとたまりもない。
そう。。ひとたまりもない。
『次に会うときは赤ちゃん抱いてくるね!』
友里がそう言って背中を向けた瞬間─。
ドンッ
『っ‥ひ‥きゃあああああ』
ズダダダダンッという鈍い音と共に、友里の体が階段の下に転げ落ちた。
『っ‥ゆ、り?』
目の前の光景に茜の頭が真っ白になる。
『ゆ、友里っ!!』
友里の頭と足元から流れ出た鮮血が、じわじわとコンクリートに染みを広げて行く。
そして茜の隣には、腕を精一杯のばした状態の功太が、友里を睨み付けながら佇んでいた。
『赤ちゃんなんていらない!ママはぼくだけのものだ!』
それはあまりにも純粋で残酷な感情
≪妬み・終≫
作者Rin
こんばんは、Rinです。ここまで読んでくださりありがとうございます文才なさすぎて、少し解説を。。汗
テーマは妬み=他人を羨ましく思い、その分憎いと思う感情。
最初は、独り身の女が幸せな結婚生活を送る友達を妬んで殺してしまうという流れを考えておりましたが、それではベタ過ぎてつまらん。。と思い(笑)
そうみせかけつつも、“お腹の赤ちゃんにママをとられたくない”という、上の子の妬みの感情を最終的に持ってきました。赤ちゃんを殺してママを独り占めしたいが故に、突き落とした‥ということです。
あ、もちろん名前は全て仮名です。
仕事中に考えてたネタを、(無理矢理)仕上げてみました\(^o^)/
誤字脱字、ご意見、感想などございましたら、どうぞよろしくお願い致します!
それにしても、精進したひ。。