私は数ヵ月前に普通自動車免許をとり、それからしばらくして、念願のマイカーを購入した。
さすがにいきなり新車を買うのは、まだ新米ドライバーの私は車をぶつけてしまう可能性があるのと、金銭的にもきつかったので。
家の近くにある中古車屋さんで気に入った一台を選んだ。
しばらく経ち、運転にも慣れてきた頃。
私はマイカーで通勤するようになった。
ぎゅうぎゅうの満員電車に40分も揺られる通勤から比べると、とんでもなく快適である。。
─そんなある日。
いつもの様に会社への道のりを走行中のこと。
町外れの交差点で、不意に軽い力でハンドルがふわっととられた気がした。
(何だろう、今の‥)
この交差点は交通量が少ない為、結構なスピードを出していたせいだろうか。
ハンドルがとられたのはその一瞬だったので、私は気にせずそのまま走行していたのだけど。
仕事が終わり、帰り道にも。今朝の交差点で同じようにハンドルをとられ、奇妙な感覚に陥った。
(車?それとも道路が原因なのかな‥?とりあえず気を付けなくちゃ)
そんな気持ちを抱いたまま自宅へ帰って来た私は、鞄の中にある携帯電話のランプが点滅していることに気付いた。
[不在着信:非通知設定 1件]
着信があったのは運転中だ。
しかし、かけ直そうと思っても非通知設定ではかけることが出来ない。
まぁ重要な電話ならば、またかかってくるだろう、と。私は夕食作りに取り掛かった。
。。。
その日の深夜─。
私の意識は真っ暗な闇の中にあった。
何も見えない。
でも、なにか物凄い圧力を感じる。
だんだんとそれは肉体を蝕み、まるで身体が千切れるような激しい痛みに変わってゆく。
(な、に‥これ。痛い、痛い‥!)
すると何も見えなかった闇の中に。
ぼんやりと女の姿が浮かび上がった。
しかしその顔と身体は、本来の原形を留めていなくて。
『いやぁぁぁぁぁっっ』
私はおぞましさのあまり、絶叫した。
目の前には、見慣れた天井。
耳元では、目覚まし時計がカチコチ時を刻む。
‥私は自分の叫び声で、夢から覚めたようだ。
あまりの恐怖に、全身は汗でぐっしょり。
(今のは‥夢‥よね。夢‥)
それは夢だとしても、とてもリアルで忘れたくても忘れられない─。
そしてこれがきっかけとなり、非通知着信履歴と悪夢は度々続いた。
。。。
。。。
─今日も私は、なんとか1日の仕事を終わらせて帰路につく。
バックミラーに映る私の顔は、悪夢の寝不足で疲れきり、やつれていた。
ブーッブーッ
鞄に入れ忘れていた携帯電話が、コートのポケットで震えている。
[着信:非通知設定]
疲れきっていた私は、運転中にも関わらず、その着信をとってしまった。
『もしもし』
『‥‥‥‥。』
電話の向こうからは、ゴォーという音しか聞こえない。。
『もしもーし』
何度も呼び掛けるが、相変わらず相手はしゃべる気配はなかった。
車はもうすぐ、あの交差点に差し掛かろうとしている。
私はイタズラかと思い、電話を切ろうとしたその瞬間─。
『ア"ァ"あア"ア"ぁあ"あ"』
『ドーーーンッグシャッ』
低く呻いている様な女の声と、凄まじい轟音が、電話の向こうから聞こえてきた。
キキィィィーッ
それと同時に、ハンドルが何かの力に思いっきり引かれ、私は思わず急ブレーキをかける。
『はぁはぁ‥やだっ‥何なのっ?!』
一気に襲いくる恐怖に携帯電話を放り投げ、ハンドルにしがみついた。
(この車‥何かがおかしい‥!)
私はこの車について話を聞くために、あの中古車屋さんへ行こうと。ガタガタと震える手で、なんとかハンドルを握り直した。
。。。
。。。
中古車屋さんの店長は、最初は知らないの一点張りだったのだけど、私が泣きながら訴えると、ようやく本当のことを話してくれた。
─半年程前。
例の交差点を猛スピードで右折したトラックが、対向車の運転席に横から突っ込むという事故があったそうだ。
トラックに突っ込まれた車に乗っていた女性は、横から潰される様な形で死亡していたらしい。
無惨にも手首で千切れた両手は、ハンドルを握ったままだったとか。。
本当なら廃車になるはずだったのだが、損害を受けていない一部の部品は、再利用されることになったそうだ。
もしかしたらこの車には、その事故車の部品が使われているんだろう。。との話だった。
‥なんだか、頭がぼーっとする。
店長が一緒に車共々お祓いに行こうと言ってくれたのだけど、私はそれを一人で行けるからと断った。
お祓いをしてくれるという場所の住所を教えてもらい、車に乗り込む。
私はその住所をナビに入力した"フリ"をして、エンジンを回した。
。。。
。。。
気が付くと、私はあの交差点の手前を走っている。
店長と話した後の記憶はない。
向かい側からは大きなトラック。
『どうして‥?!』
そう思った次の瞬間には。
眩しい光りと激しい衝撃。
そして轟音に包まれていた─。
そのハンドルを握っているのはダレの手?
≪愛車・終≫
作者Rin
こんばんは、Rinです
読んでくださりありがとうございます!
またもや少しだけ、解説を。。(笑)
買った愛車が、事故車(部品)だった!!
そして憑かれていると!!
その霊が、事故のあった交差点を通る事により、少しずつ力をつけてく。。といった感じです。
最後、店長とお祓いに行こうとなった後、主人公は憑依されてます。事故る直前で意識が戻されました。
ちなみに私は免許を取って以来、8年ペーパーですΣ(=ω= ;)運転したいけど怖い‥(笑)