昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある日おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯へ行きました。
おばあさんが川で洗濯をしていると、上流から大きな桃がどんぶらこと流れて来ました。
でも、近づいてきて、よく見ると違いました。
それは大きなお腹の妊婦が溺れて瀕死の状態だったのです。
おばあさんは妊婦を家に連れ帰りました。
家に連れ帰った妊婦はほとんど虫の息でうわごとのように
「この子だけは、この子だけは・・・・」と言うばかりです。
「わかったよ、後は任せなさい。」
おばあさんはそう言うと妊婦の腹に包丁を突き立てて慎重に捌きました。
妊婦さんは息絶えてしまいましたが、元気な男の子が誕生しました。
でも、その赤子は本当に赤い赤い赤子でした。
しかも何よりも驚いたことに、もうすでに歯が生えているではありませんか。
おじいさんが帰る前に妊婦を綺麗に片付け赤子を洗いました。
「あんれ、どうした、その男の子はぁ。」
と帰ってきたおじいさんは驚きました。
「不憫な子だよ、桃の木の下に捨ててあったのさ。」
と気後れすることなく言ったのです。
その子を桃太郎と名付け大事に育てることにしました。
しかし、突然老夫婦のところにそんな赤子が居たら近所で不思議がるのは無理もありません。
「どうしただぁ、その子。おめぇんとこの孫け?」
おじいさんは素直に「拾った子だ」と言おうとしましたが、おばあさんが遮りました。
「これか?これは桃ん中から生まれた桃太郎だ。」
そう言い放つと相手は「はぁ?」と訝しがり変な目で見てきました。
それからとうとうばあさんボケちまったか、という噂が広まり、
近所の人からあまり相手にされなくなりました。
「なんでお前、あんなこと言っただ。」
おじいさんが言いました。おじいさんも薄々理由はわかっています。
桃太郎は普通の子ではありません。
異常に成長が早いのです。閉鎖的な村のことだからそういったことはすぐに広まるのです。
おばあさんはあえて、自分がボケたふりをして、桃太郎を守りたかったのです。
しかしいくら隠しても、やはり子供をずっと隠しきれるわけがありません。
桃太郎を見かけた者は、あまりの不自然と不条理に驚き恐れをなし桃太郎を疎外します。
「ひっ、桃太郎だ。気持ち悪い!あっちに行け!」
そう言いながら石をぶつけられることもありました。
「おじいさん、おばあさん、どうして私は皆と違うのです?」
そう言われるたびに辛く悲しく、桃太郎を抱きしめることしかできません。
数年も経つと桃太郎は立派な青年へと成長して行きました。
身の丈は見る見る大きくなり、おじいさんやおばあさんの倍くらいはあります。
ちょうどその頃、都では奇怪な事件が多発していました。
川や海に無残な死体が打ち捨てられるというものでした。まるで鬼に食われたような
それはそれは酷い有様で、しかも身包みも全て剥がされ持ち去られるとのことです。
人々は鬼の仕業だと恐れおののき、夜の外出を極力控えたりして怯えて暮らしていました。
桃太郎は言いました。
「おじいさん、おばあさん、私は鬼を退治に行って参ります。」
おじいさんもおばあさんも反対しましたが、どうしてもと聞きません。
仕方なくおじいさんとおばあさんは、桃太郎を旅立たせることにしました。
桃太郎は道中、犬のように卑しい男と、猿のように狡賢い男、
雉のように着飾った優男を家来にしました。
都に着いて、鬼を退治しようと夜を待ちました。
そして、出くわしたのです。
相手は鬼なんかではありませんでした。
身包みを剥がし、そのついでに相手を無残に殺して切り刻んで喜んでいる
悪鬼のような人間たちでした。
その人間たちからは血のにおいがしました。
その途端、何かが心臓の奥深くでドクンと脈打ったのです。
それからのことはよく覚えていませんが、桃太郎の足元は血の海になっていて、
悪鬼のようなやつらの屍が累々と転がっていました。
桃太郎は震えながら跪きました。
そして、その足元に広がる血に顔を近づけ、飲んだのです。
「うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!」桃太郎は咆哮しました。
すると犬と猿と雉はニヤニヤ笑っています。
「やっとお前も覚醒したのか」
鬼退治も終わり、桃太郎はおじいさんとおばあさんの元に帰ってきました。
でもすでに弱っていたおじいさんとおばあさんは、桃太郎の帰りを待たずに
息絶えていました。
桃太郎は言いました。
「おじいさん、おばあさん・・・・どうして・・・・・・」
「どうして、教えて・・・・くれなかったんだ・・・・。
人の・・・・・・・
人の血が
人の肉が
あんなにうまいなんて・・・・。
わかっていれば・・・・・・
あんたたちを
生きているうちに
食えたのになぁ!」
桃太郎はおじさんとおばあさんを一心不乱に食べました。
すると空から強烈な光が差し込み、桃太郎はまぶしくて目があけられません。
「桃太郎、そなたは罪深き鬼。罰を受けなければなりません。」
まぶしい中うっすらと目を開けると、後光が差した菩薩様が目の前に居ます。
「私が、鬼?」
そう言った瞬間、桃太郎の体を衝撃が貫きました。
桃太郎は桃にされてしまったのです。
桃太郎は菩薩の手につままれて、菩薩様の口がだんだんと近づいてきます。
「ああ、私は菩薩様に食べられるのだ。」
菩薩様は桃を食すと種を出し地に打ち捨てました。
その後、その種は芽吹きました。
数年もすると桃がなりました。
とても巨大な桃が。
「こっただ気色悪い桃は食えねえだ。」
そう言うと村人は桃を川に流しました。
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どんぶらこ、どんぶらこ。
早く俺を拾えよ。
今度こそ、うまい人間の血と肉を
たくさん食ってやるから。
どんぶらこ どんぶらこ
作者よもつひらさか
ブログに、一番最初に書いたお話です。