「ねえねえ知ってる?夜中の二時ちょうどに、三階の女子トイレの鏡を覗くとカワカミ君が写るんだって!」
昨年の今頃、酷いイジメを受けてトイレで亡くなったカワカミ君。
内向的で身体も小さかったカワカミ君は、女子生徒たちから格好のイジメの対象となっていた。
その日も数人の女子生徒から殴る蹴るの暴行を受けており、運悪く手洗い場の角に頭をぶつけたカワカミ君は意識を失い、残念ながらその三日後に死亡した。
だが、少女たちはイジメの発覚を恐れ、遊びの延長での事故死だと証言した為、目撃者もなかった事から事件は大きくなる事もなく学校内だけで収まった。
それ以来、小学生にありがちなそんな噂が広まったのだ。
誰が噂を流したのかは不明だが、好奇心旺盛なマユコとミカは、その夜、親の目を盗んで学校へと忍び込んでいた。
ギイ
冷たい扉を押し、電気を付ける。
時刻を確認すると、あと数秒で二時を迎える。
二人は鏡の前に立つと、声を揃えて言った。
「かーわかーみくーーーん!」
パチン!
その瞬間、電気が落ちてトイレ内は闇に包まれた。
二人はしばらくのあいだ鏡とにらめっこをしていたが、いつまでたっても自分達以外の顔が写り込む気配はなかった。
「ちっ!なんだよガセかよ!」
ミカが鏡に向かって吐き捨てた。
「まあ、わかってたけどねー♪」
マユコが笑いながら鏡にグーパンチを浴びせる。
と、その時。
『 なーーにーー?』
どこからともなく、カワカミ君の声がトイレ内に反響した。
ガタガタガタガタ!!
トイレ奥にあるガラス戸が激しく振動を始め、ひとりでにまた電気がパチンとついた。
明るくなったトイレ内を写すガラス戸には、はっきりとカワカミ君の姿が写り込んでいた。
頭から幾筋もの血を流し、二人の真後ろにボワッと立っている。
振り返っても誰もいない。
カワカミ君はガラスの中だけに存在していた。
『いたいよおお!いたいよおお!いたいよおお!いたいよおお!いたいよおお!』
カワカミ君は両手で頭を抑え、身体をうねらせて悶え苦しんでいる。
「おい!カワカミ!!!」
ミカが叫んだ。
「お前死んだクセにしつけーんだよ!!」
カワカミ君の動きが止まった。
「お前が死んだせいでお前の親からは疑われて責められるし、皆んなからシカトされるし超迷惑してんだよ!あれぐらいで死んでんじゃねーよ!」
ただでさえ青白いカワカミ君の顔が、みるみると蒼ざめていく。
「てか、何で夜中の二時なんだよ?意味わかんねーし!どうせ出るんだったら昼出ろよ昼!!」
カワカミ君はもう泣きそうな顔になっている。
「うわ!また泣くのかよダッセーw!」
カワカミ君は今にも溢れ落ちそうな涙を堪えて、二人をギィっと睨みつけた。
「ぜ、全然怖くねーし!!死んで強くなったつもりだろうけど、やっぱりお前はお前だな!この弱虫ーw!」
マユコとミカは手を叩きながら「弱虫コール」を始めた。
「よーわむし♪ よーわむし♪ よーわむし♪ 」
「よーわむし♪ よーわむし♪ よーわむし♪ 」
『やめろおおおお!僕は弱虫なんかじゃなーい!!!』
カワカミ君は背後から二人の髪の毛を掴んだ。
『なんで僕をイジメるんだよ?僕はもっと生きたかったのに!!お母さんにあいたい!お母さんにあわせろよーー!!』
カワカミ君は力いっぱいにマユコとミカの髪の毛を引っ張った。
「きゃ!痛ってー!!やめろよカワカミ!てか、お前マジキメーんだよ!!」
実体のないカワカミ君への二人の攻撃は空を切る。
マユコは咄嗟に、手元にあった消化器を窓ガラスに向かって投げつけた。
ガッシャアアアアン!!!
その瞬間、カワカミ君の身体にも蜘蛛の巣状の亀裂が走り、ガラスと一緒に粉々に砕けてしまった。
と、同時に窓ガラスに写っていたマユコとミカの身体も粉々に砕け落ちた。
翌朝、女子トイレの個室の中から二つの遺体が発見された。
遺体の周りには血だまりが出来ており、その中にはごっそりと頭皮の付着した髪の毛の束が浮いていたという。
…
…
翌年、新しい七不思議がこの小学校に追加されたようだ。
昼の十二時ちょうどに女子トイレの窓ガラスを覗くと…
【了】
作者ロビンⓂ︎
すいません、駄作です…ひ…