今回は夏美目線で話をさせて頂きます。
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これは私がまだ小学生の頃に実際に体験したお話です。
いつも帰宅を共にしていた幼なじみの陽子ちゃんと別れ、ふと自分の家の方へ視線を向けると、門の前にセピア色の女の人が立っていました。
記憶が少し曖昧ですが、肩までの黒髪に上下パジャマ姿で裸足だった様な気がします。
一番印象に残っているのは、まだお母さんぐらいの年齢に見えるのにとにかく物凄い猫背だったという事です。
女の人は微動だにせず、ジッとウチの玄関扉を見つめていました。
私は金縛りにでも遭ったかのようにその場から動けなくなりました。
空気の流れが止まり、周りの音も何もかもが無くなりました。
すぐ後ろの陽子ちゃん家に助けを呼ぼうにも、喉からは僅かな声しか出てきません。
気付いたら女の人の顔だけがこちらを向いていました。
距離があるのにハッキリと顔が見えます。
それは、今までに見た事もない恐ろしい顔でした。
眉毛あたりで切り揃えられた前髪の下に、左右が耳の辺りにまで離れた小さな目がついておりました。
左目は閉じ、右目だけがかろうじて少し開いています。
鼻は小さくて低く、口は縦にアゴまで避けていてモゴモゴと動いていました。
説明が難しいのですが、私がまばたきをする度に赤や、紫や、黄色といった絵の具をグチャグチャに混ぜたようなものが何もない空間から湧き出してきて、それは女の人の周りに集まり、まるで蜷局を巻くように渦巻いていました。
すると、ブーーーンと携帯のバイブ音みたいな耳鳴りがして、ボイスチェンジャーを通したかの様な低く重たい声が頭の中に響きました。
こ こ ヨ シ ミ の う ち ?
私は「違う!違う!」と頭の中で繰り返しました。
次にまばたきした瞬間には、それは跡形もなく消えていました。
カラダも自由に動かせます。
私はとても立っていられずにその場に座り込みました。
カラダは芯から冷え切っており、ガタガタとした震えがいつまでも治りませんでした。
私は家に一人でいるのが怖くて、お母さんが仕事から帰って来るまで陽子ちゃんの家で待たせてもらいました。
その夜から数日間高熱と耳鳴りにうなされました。耳鳴りは今でも突発的に起こります。
私は女の人の事を家族にも友人にも話しませんでした。
話してしまうと、またあの女の人が現れそうな恐怖があったからです。
しかしそれ以来、その女性が私の前に現れる事は一度もありませんでした。
…
大人になり、近所に住むお婆ちゃんの家でアルバムをめくっていた時、一枚の写真に目が止まりました。
それはお婆ちゃんがまだ学生の頃に、仲良し同士で写した集合写真です。
その中には、昔見たあの女性にとてもよく似ている人が笑顔で写っていました。
それとなくお婆ちゃんに尋ねるてみるとこの女性はお婆ちゃんの親友で、30歳を前に酔っぱらい運転の轢き逃げに遭い、もう他界しているとの事でした。
ちなみにお婆ちゃんの名前は良美です。
【了】
作者ロビンⓂ︎
最近聞いたお話です…ひひ…