一日目
僕は、今、暗い海の底に沈んでいる。
ある流行歌の歌手は「海の底で物言わぬ貝になりたい」などと歌ったけど、それは嘘だね。
海の底でたった一人ぼっちでいるほど、寂しく辛い事はない。
例えば、この僕のように、それがたった一日だとしても。
昨日の夜、僕は釣りをしていて、岩場で足を滑らせて、海へ落ちてしまったんだ。
まだ、日がある夕方ということで油断をしていた。僕だって、バカじゃないから、夜釣りは安全な波止場からと決めていたんだけど、釣果がなく焦った僕はつい夕方遅くまで粘ってしまったのだ。
岩場の下の海は意外と深くなっていて、しかも波が荒く、僕は泳いでも泳いでも、元の岩場にしがみつくことができずに、ついに溺れて沈んでしまった。口から辛い海水がどんどん入って行き、ついに肺を満たしてしまい、僕は息が出来ず、もがき苦しんだ。溺死がこんなに苦しいものとは思わなかった。
僕の意識はとだえ、冷たくなった体は僕の体の中の空気を全て押し出して沈んでいった。
次に目覚めたときは、僕は暗い海の底だった。
もうあの時のような苦しみは無い。ああ、僕は死んでしまったのか。
妙に僕はその状態を受け入れてしまった。
でも、死んだら、魂が体から抜け出して、天に召されるというのが、生きていた時のイメージだったけど、違うの?海の底でまんじりとも出来ない体で僕は横たわっているだけ。
時々潮流に流され、体を裏返されたり、また元に戻されたりと漂っている。
たぶん釣りから戻ってこない僕を心配した家族が捜索願を出している頃だ。
いや?まだ出していないのかも。大方坊主で、まだ粘ってるんだろう、くらいにしか思われてないかも。
海の底に漂っているだけなので、いったい何時間経ったかはわからない。
はあ。明日の朝になれば、異変に気付いて家族が捜索願を出して、僕の死体を見つけてくれることだろう。
それまでは、こうしてじっと海の底で流されるに任せるしかない。
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二日目
僕は強烈な光で目がさめた。
えっ、死んでも寝るのか。僕はおかしくて笑いそうになったけど、物理的にはもう笑えないんだっけ。
っていうか、何だか体がおかしい。よく見ると、僕の体は、着ていた服のボタンを全て弾き飛ばし、まるで増えるわかめちゃんのように、体がぶっくぶくに膨らんでいた。
あ、これがどざえもんなんだ。
どざえもんの言葉の由来を調べたことがある。
昔、なんとか土左衛門という力士がいて、水死体が真っ白でブヨブヨなのを「まるで土左衛門のようだ」と言ったことかららしい。それって悪口だよね、なんて呑気に考えていた。
まさか自分がどざえもんになるなんて、その時は思わなかったよね。
僕の体はどうやら腐敗が進んできているらしい。
体の腹部が腐敗ガスでパンパンに膨らんで、海底から浮かんできたということなのだろう。
舌も目玉もガスによって、見事に飛び出している。まあ、元々、いい男ではなかったけど、これは酷い姿だ。
もしも、僕が釣り人でこれを発見したら、失神するレベルだな。
でも、これは僕にとってチャンス到来。
これで僕の死体は浮かんで漂っているので、発見してもらえる確立は格段にアップした。
ああ、早く家に帰りたい。
こんな姿で母ちゃんはびっくりするかもしれない。親より早く先立った親不孝者の息子を許してくれ。
昼近くになって、何隻か、海上保安庁のものと思われる船を遠くに確認したが、一向に僕を見つけてくれる気配が無い。
おーい、僕はここだ。もっとちゃんと探してくれよ。こんなに巨大化してるんだからわかりそうなもんだろ。
あっ、こら!僕にとまるんじゃない!海鳥め!
わっ、突くな!破れる!僕の体に穴が開いた。僕は成す術も無く鳥についばまれていく。
や、やめろー。これ以上醜くしないでくれ。
ひえっ、下からも何かに突かれている?さ、魚っ?
おいおい、魚を釣りに行った僕が、今、魚のエサになってるよー。
おーい、おーい、誰かーーーー!助けてーーーー!
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三日目
とうとう昨日の日の上がっているうちに僕の死体は見つけられることなく、無惨に海鳥や魚によって穴を開けられ、腐敗ガスが抜けたのか、僕の死体は再び海の底に引き戻された。
僕はこのまま、海の藻屑となってしまうのか。捜査も打ち切りになり、僕は遺体もないままに弔われてしまうんだろうな。僕を絶望が支配した。せめて、魂だけでも、天に召されてくれよ。こんな海の底でずっと永遠に暮らすのはいやだ。
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四日目
「あれー、なんだこりゃー。」
僕はその声でまた目を覚ました。
「うわっ、どざえもんだぞ、こりゃ!」
どうやら、僕の体は奇跡的にまた海上へ浮かんだらしい。
漁船らしき船から、二人の漁師が覗き込んでいた。
もう絶望的だと思っていた僕に希望の光が差し込んできた。
た・・・すけて・・・・。助かってないけど。せめて、僕を引き上げて、両親の元に届けてくれ。
ぼ、僕の名前は・・あれ?なんだっけ?思い出せない。
僕の住所は?
漁師は、僕の死体にモリのような物を引っ掛けて手繰り寄せようとしている。
あぁ、だめだよ。ほら。僕の肉を破ってずるりとモリが抜けた。
「ダメだあ~。タモ持ってこい、タモ!」
するともう一人の漁師が大きな網を持ってきて、漂う僕の頭にすっぽりと被せた。
「よし、そのまま引き寄せろー。」
網に覆われた僕の頭部を引き寄せた。
だが、無惨にも、髪の毛のついた僕の頭皮はずるりと剥けて、頭蓋骨を露にした僕の死体は船から遠ざかる。
一瞬漁師は、ひっと悲鳴をあげ、驚いてタモを離してしまい、タモは海に落ちてしまった。
漂うタモと僕の死体。
漁師は呆然とそれを見つめていたが、二人揃って手を合わせて合掌した。
それを僕は、タモの中から見つめていた。頭皮と一緒に目もタモの中。
ああ、もう僕はこのまま海のもkzとnるんあろぅか。
あえ?なんdかしゃべrなくなってきたろ。
ぼく、だれdっけか?
おとうさn、おかaさn?
つり?ぼく、どざeもn?
Woaaaaaaaaaaaaaa!
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五日目
「ここらへん、めっちゃアワビやサザエがとれるらしいんだよ。」
「でも、漁協に見つかったらヤバイぜ?これって密漁だよな?」
「平気平気。あいつらも常に見張ってるわけじゃねえから。」
「それもそうだな。」
二人の男は素もぐりでアワビやサザエを探し始めた。
「よっしゃ、ゲットー!」一人の男が、獲物をゲットし、船に上がろうとした。
「うわっ!」
下から誰かが足を引っ張った。
もう一人の男が水面に顔を出した。
「おい、お前、今、俺の足を引っ張ったろ!冗談でもやめろ!」
そう怒りをあらわにすると、もう一人の男は答えた。
「引っ張ってねえよ!」
「嘘付け!」
そう言い争っているうちに、あとで水面に上がってきた男の姿が海中に消えた。
もう一人の男は慌てた。
「どうした?」
「うッぷ。だれ・・・・かが・・。足を・・・・引っ張ってる!」
「冗談はやめろよ。」
「ちがっ!ホント!」
そのまま、男は海に沈んだ。
あわてたもう一人の男は、水中に潜って助けようとした。
「うわっ!」
男は心の中で叫んだ。
相方の男の足に、白骨化した遺体が絡み付いていた。
うわああああああ!
男は急浮上し、船にしがみついた。
相方の男の体は完全に海に引き込まれてしまった。
「た、大変だ!」
そう言いながら、慌てて船のバッグからスマホを取り出し、海上保安庁へ連絡を入れた。
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六日目
ボク、ドザエモン。
オトモダチガフエマシタ。
作者よもつひらさか